第1話 闇の力の勧誘
「それなら朗報です! 誰でも簡単に強くなって、モンスターを倒せて、お金も増やせる方法があるんです!!
それは……闇 の 力 です」
「闇の力?」
「はい! 私は闇の力を扱い、困った冒険者の方に教えてサポートしている者です! 闇の力を教えつつ、一緒に依頼を行うシステムになっております! 通常なら依頼の報酬を6割いただきますが、今なら初心者冒険者の方にキャンペーンをやっておりまして、なっなんと報酬の半分だけで大丈夫です!これなら2人で報酬をただ分け合うだけで、強大な力を身につけつつ、安心安全に依頼をこなせる活気なシステムです! ご契約されますか!?」
闇の力? キャンペーン? 契約? 一体何なんだこの人!?
怒涛に言葉を述べられ混乱する。そこで目を閉じ、一旦状況を整理する。
モンスターにボコられ、落胆してる男のもとに優しく話しかける美少女。そこに誰でも簡単に強くなれる方法がある、と胡散臭いキャッチコピーみたいな話を持ちかけてくる。そして出てきた「闇の力」という、怪しくて危ないワード。最終的に興奮して契約とかを迫ってくる始末。
疑念が確信に変わり、目を開け、口を開く。
ーーこれ詐欺だわ
「すいません、用事があったんで失礼します」
立ち上がり、集会所の出口に向かって歩き出す。
異世界でもアルバイトの募集とかやってんのかな?そんなことを考えながら歩くが、何者かが左手を掴んで引っ張っる。
「ちょちょ、ちょっと待ってください!」
さっきの少女だった。わかりきっていたが。
「ごめんなさい急ぎなんで!それに俺には闇とか過ぎた力だと思うし、冒険者辞めて転職するんで!」
「ご安心ください! 誰でも扱えますから! それに諦めるのは早計ですって!」
やりとりをしながらセンは、右手で少女が掴んでる手を振りほどこうとする。しかし少女は両手でがっちりと掴んで離さない。
くっ、ちから強っ!? こうなったらもう助けを呼ぼう、男が少女に襲われてるって
「あっそうです! お腹空いてません? ゆっくりお食事しでもしながら、詳細をお伝えしますので!奢りますよ!」
少女のその一言で、センは抵抗するのを辞めた。
〜〜〜〜〜
ギルド集会所には依頼の受付だけでなく、食事処としての機能もあり、長机が何列も連なり、大衆食堂のようになっていた。主には冒険者が依頼前に腹を満たしたり、依頼で得た報酬で、成功を祝うのに使われている。そのため繁盛しており、いつも賑わっている。
その食事処で出入り口に最も遠い長机の端に、2人だけがポツンと座り、食事を取っている。
「ささっ、どうぞどうぞ」
目の前の料理を進める少女。料理名はあぶら鶏の鉄板。この世界に来て初めての食事に、聞いたことがない鳥の名前。本来なら心踊る状況だが、目の前にいる少女を警戒して、全然楽しめない。
「言っておくけど、俺は無一文だから、後でやっぱ払ってと言っても絶対にできないぞ」
「だ、大丈夫ですから! 安心して食べください。」
わざわざこんな端っこで食うのは、他人聞かれたらまずいか、逃げにくいからか…どっちにしろ、すげぇ怪しいなこの人。
「そういえば、あれだけ喋っておいて自己紹介がまだでしたね。申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げ、話を続ける。
「私の名前はエマ・シュヴァルツと申します。どうぞエマとお呼びください」
「エマさんね、俺はササガミ セン。よろしく」
「よろしくですセンさん! で先程の件なんですけど……」
「あーそれなら俺からいくつか質問させてくれ。まず闇の力っていうのは具体的にどんな力なんだ?まずそこがさっぱりわからん」
漫画やゲームとかで闇属性のとかあるけど、強いというより何かやべぇというイメージが。
「多種多様ですよ! 攻撃の魔法だけでなく、肉体の強化や再生、物や武器の創造、転移や吸収、などなどたくさんありますよ!」
「ほー、思ったより色々使えんだな。俺はてっきり、死の呪いとか人操ったりする危ないもんかと」
「なっ! そんな危険な能力は教えませんし、私だって使いませんよ!」
……えっ、ひょっとしてできんの?
「ま、まぁ闇の力っていうのはなんとなくわかった。誰でも簡単って言ってたけど、どうやって身につけるんだ?」
「私が闇のエネルギーをほんの少し分け与えるだけで、後は自ずと生み出せるようになります!」
菌の繁殖みたいだな。
「そんでリスクは?」
「えっ」
「いや〜流石にそんな簡単に強い?闇の力ってのを無条件で使えるとは思えんなぁ。命が削れるとかあんじゃない?」
「そこまではないですよ! ただ……その」
エマは途端に歯切れが悪くなった。
ま、商品のデメリットを紹介するようなもんだし、言いにくいよな。
「限界量を超えて使ってしまうと、身体にかなり負荷かかるうえ、性格が凶暴的になるんです」
あー、なんとなくわかる気がする。闇のキャラとかで、一人称が「僕」から「俺」に変わったり、闇のゲームの始まりだぜぇ! みたいに急にオラつくよな。
「で、でも! そんなことがないように、付きっきりでサポートするんです!」
なるほど、確かにそれは筋を通っている気がする。……ただ一つ納得いかないのは
「エマさん、あなたが教える目的ってなんだ? 依頼の報酬半分もらうと言っても、あなたが1人でも依頼をこなせるだろうし、教えることで手間も増えるだろう。利益があるとは到底思えん」
これだった。俺にとっては美味しい話だと思う。護衛を雇ううえに鍛えてくれるみたいなもんだ。ただ、それをやる側にメリットはあるだろうか?
「それは勿論、闇の力の正しい使い方を普及することです! 他の方々は危ない力だとかで避けてますけど、私はこの力で命を救われたんです! だから私は、この力のイメージをどうしても覆たい!」
エマは拳を握り、さっき俺に迫ってきたみたいに熱く語る。どうやら嘘はついていないみたいだ。もしこれが嘘の演技ならゾッとする。
「百聞は一見にしかずです。この後一緒に依頼を行きませんか? 勿論っ! 見学だけで結構です!その後、どうするか決めていただければ」
飯を奢ってもらって、ここで断るのは流石に罪悪感がある。何より、実際に見てみたい。やばくなったらそん時にトンズラしよう。
「…ありがたく見学させていただきます」
2人は料理を食べた後、依頼を受け、街の外へと向かっていった。
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