第2話

 先程までの風景はもう原型すらなかった。真っ白い空間に、色とりどりの少女たちが放り込まれている。どこまでも白くて、終わりがない。集められた少女たちは戸惑い、怒り、悲しみ、狂いそうになっている。それぞれ口にする言葉は、感情のパレードだ。素直に言葉をはける少女たちが少し、うらやましい。

『さあさあ!お集まりでしょうか?』

 空間にどこからともなく大きいツギハギの音声が流れてくる。その声に驚きわめく少女たち。それに臆することなく気にすることなく音声は続いた。

『参加者全員揃われたようですので、始めましょう。まずは青春生存戦争のルール説明から!パネルをご覧ください!』

 白い空間にパッとパネルだけが映し出される。まずルールが三つが表示された。


1.最後の一人になるまで戦争してください。(武器はこちらで用意しているものをご使用ください。)

2.途中退場はできません。

3.負けた人の青春はなくなります。勝利の場合、ひとつだけ願いが叶います。


「ふざけんな!!」

 力強い声が響いた。あんなに感情をさらけ出していた少女たちが、その声で静止する。息をのむ音が聞こえた。一人は続ける。

「わたしはこの戦争に参加するなんて一言も言ってないし、そういった案内ももらっていない!帰らせてもらうぞ!」

 しん、と痛いくらいの静寂が訪れた。誰一人、音を立てない。一分ぐらいだったと思うが、あんなにも静かだとその一分すら長く感じて。そうして、色とりどりの少女たちは、声を上げた。

『ご静粛に』

 静かでいて強制力のある声が響いて、少女たちは再び静まった。

『相沢友香さま、あなたは数日前にこの青春生存戦争に参加することが決まったはずです。お忘れでしょうか。皆様も、数日前に同意をしたはずですよ。あなたたちは、今日、16歳になられました。青春生存戦争は義務です、16歳から参加されることを義務づけられています。親御さんから、またはテレビから、教わりませんでしたか?連日のように報道されていたはずですよ』

「そんなの見てない!」

『いいえ。』

「見てないったら!」

『いいえ。見ているはずです。その情報をあなた方がきちんと理解をしていなかっただけでしょう。参加権はあなたたちにある。あなた方は参加すると表明なさったのですよ』

「そんなことは……」

『ないと言い切れますか?ほんとうに?』

「…………」

『武器はそちらのリュックに入っています、一人ひとつですよ。最初はね。武器がほしかったら、その人から奪ってください。それでは始めていただきましょう!青春生存戦争、スタートです!』

 開始を言い渡されたにも関わらず、誰一人として動こうとしない。きっと、勝つ気なんてないのだ。それなら、私にちょうだい。

 私は、無数に置かれたリュックをあさる。遠距離から狙撃できるライフルに近接戦に便利そうな釘バッド、殺傷能力の高そうなスタンガン。いろいろなものが入っているようだった。それでも私が扱うのはそういったものじゃないほうがいい。色とりどりの少女たちが困惑している間に、お目当てのモノを見つけなければいけないのだ。がさごそ、とこそ泥のように探す。そうして見つけた。これだ。私には、きっとこの武器がよく似合う。

 スポットライトが獲物を照らし出す。黒く染まった刀は私のようだ、色のない私にぴったり。

「ちょっと!こんなふざけたことやる気なの!?」

 私は少女の問いにひとつ頷いて、抜いた刀身を少女へと向けた。赤い髪が床に散らばる。赤い血だまりを作って、その赤の中に少女は崩れゆく。色のない私に赤が加わった。

「う、そ。わたし、しぬの……?」

 苦しそうに少女は呻く。そして事切れる。体温を失っていくそれは、人からただのモノへと変わり果てようとしていた。少女たちは、ざわめく。慌ててリュックを取りに行く少女たちと、その場から動けなくなってしまった少女たちと、赤の亡骸を抱きしめて糾弾する少女たちにわかれた。

 わあわあ言う様は実に煩わしい。ただ青春を奪われただけだろう。嫌なら戦えば良かったのだ、それだけだ。勝ちがいらないのなら、ちょうだいよ。

「…………」

 そう、反論しようと思ったけれど、はく、と息が出ただけで、音になることはなかった。そうだった。私は声を出す術を知らないのだ。仕方ないので、刀を握り直した。

『早くも脱落者が現れました!残り二十三人!さあさあ!勝利を手に入れるのは誰だ!?』

 楽しそうなツギハギの音声が流れる。少女たちは絶望の表情を浮かべて、武器を手に取る。ああ、ようやく始まるの。やっぱり青春がほしいのね?


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