第六話 王下選定議会

「今、なんと?」


 チェスターは今までにない険しい表情で、そしてドスのきいた声で聞いてくる。


「ええ……ですから、一回そちらの娘さんを助ける時に出会ったゴブリンの魔王軍残党にこの能力を使いまして、逃げることを優先したため残党には手の内がばれている可能性があります」


 格好つけて逃がしたなんて言ったら殺される勢いだったので、あえてレイチェルを助けることを優先したということにして責任を逃れる。


「うむ……そうか、残党であれば魔王軍本部に能力がばれている可能性は少ない」


 そう言うとチェスターはさっきのお表情を少し和らげ落ち着いた表情になる。


「なので議会の皆様に特例として、佐原レイに勇者の称号を与えられないかと」


 ルークがここまで必死に意見を言っているのがよほど珍しい状況だったのか、チェスターは少し考えた表情を見せ俺達の顔を見た。


「私は構わん…が議会の奴らが何を言うかわからん、勇者になるのに必要な票数は、七人のうち過半数以上だ……そうなるには私と他三人を納得させるだけのものが必要だが……」


 その答えを聞くとルークはクソッと言い下を向く、どうやら自分だけではもう何もできないと悟っているのだろう、だけど俺には一つ他のメンバーを納得させる術が一つだけある。


「俺達で残党を全滅させればいいですか?」


 俺はチェスターに歳の差や身分の差があるとは言えないほど高圧的で他人から見たら傲慢も甚だしい発言をした。

 だがそれをできるだけの力はあると俺は確信していた、やるのだ、いや俺がやらないといけないのだ。


「ほう……君にはそれができると?」


「ええ、できます……」


 重たい空気、全くのよそ者である俺と、防衛長、議会のメンバーのうちの一人、アウストレア家の当主であるチェスター・アウストレアとにらみ合っているのである、さすがのルークも緊張感を隠せていないのか額には汗が若干流れていた。


「そうか、君からその言葉が聞けてうれしいよ、では早速議会に招集をかけよう」


重い空気から一転、俺とルークは安堵したかのようにため息をし、それと同時に喜びがあふれてくる、これからは本格的に覚悟していかないといけないかもしれない。


「ありがとうございます、お父様……では後は任せてもらっても?」


 少し軽い空気で穏やかにルークは父であるチェスターに話かける、だがチェスターは何を言ってるんだというような顔で追い打ちをかけるようにとんでもない言葉をいってくる。


「何を言っておるんだ、お前たちも参加するんだよ」


「……」


「マジっすか」


 ルークは当然のように驚きを隠せない様子で黙り出す、その様子は開いた口がふさがらないといった所だろう。


 三日後丁度、定例会議がアウストリア宅に議会のメンバーが集合となるらしく、俺とルークもチェスターの付き人として参加することになった。


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「では、始めようか」


 アウストリア家の中では会議室という扱いになるのだろうか大きな細長い茶色のテーブルに七つの椅子が置いてある。

 椅子は七人の男がすでに座っており、俺達アウストリア家の他にも付き人を置いている人もいるようだ。

 七人の議員の中でも特別なオーラを放っており、額に無数の傷がある金髪オールバックの老人が会議の開始の合図を送る、時代が時代ならヤクザと言われても過言ではないくらいに顔が怖い。

 事前の説明によればこの人が王下選定評議会の議長、ルキウス・スーザンベルンと言うらしい。


「ああ、その前に……そいつは誰だ」


 そう俺に向かって怪しげな目を送る比較的若めのあごひげが長くいかにも戦士というような頑丈な体つきと、左目の傷は数々の戦闘をかいくぐって来たかのような雰囲気を漂わせている。

 この隻眼の男性は見た目通りの戦士、戦士兵団長……赤薔薇戦士団総帥、ザール・フラン


「ああ、ロメウゴットには言ったが、こいつは新しい我がアウストリア家の新しい勇者候補だ」


 そうチェスターが言うと、ロメウゴットと呼ばれる人以外の議員は少し動揺し、ざわざわした空気になっていた。


「冗談かと思っていたが、本気だったのか」


 議員の中で唯一動揺もなく、白く輝いた長髪で常に真顔で冷徹な顔をしているこの男は、勇者選定長、ロメウゴット・アグランテである。

 なぜこの人だけに連絡したか、それは役職の名通り、勇者の称号を与えようとするのなら、まずこの全ての勇者を管理する勇者選定長に話をつけなければいけないからである。


「わしは反対じゃがの」


 今日いたなかでの初めての反対意見、そんな発言をするのは議員の中でも圧倒的に高齢でいかにも魔法使いというような帽子とローブを着た白い毛むくじゃらの老人は、魔法士長、白薔薇魔法士団のトップ大賢者のブロワーズ・エラスムス、彼はがちがちの保守派の様で、議員の家系以外の勇者を出すことに対しては一切の賛成はないようだ。


「そうですよ、そんな出もわからない人をなぜ勇者にするのですか」


 そういうのは、議員の中でも一番若いであろう緑髪であまり寝てないのか深くクマが刻まれているカエル顔の男性、資金管理長のエーベルト・テリアンである。



「いいじゃないか、面白そうだ」


 今日初めての肯定意見である、赤髪の男性、見た目は議員とは思えないほど優雅さもなく、無精ひげを生やし眼鏡をかけた貴族とは思えない男性は領土管理長の、シリアル・レクトだ。



「なぜ、そいつを勇者にしたいと思った?」


 議長であるルキウスはチェスターに問う、普通に考えればそれもそうであろう、出所もわからん人間を勇者にするなど愚行中の愚行なのである。


「それは……だ、こいつは魔界軍を全滅できるかもしれない唯一の希望だからだ」


 チェスターが一文、その言葉を感情もなく放ったその言葉が他の議員の耳に届いた瞬間、ある人は驚き、ある人はふざけるな、そんな話があるかと罵倒し、ある人は高らかに笑い出す。


「いったい……どうなっちゃうんだろう」


 俺はその中で放った一言を聞いている者は誰もいなかった。





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