第三話 ルーク・アウストリア

「お前がレイチェルをさらったのか」


 他の戦士と雰囲気が違う男性、レイチェルと同じピンク色の髪をし百八十はあるであろう長身に整った顔立ち、いわゆる美男子と呼ばれる部類に入るであろう男性に、俺が誘拐したと容疑をかけられる。


 レイチェルのことを名前で呼ぶと言う事を考えると、身内の人間か親しい人間……普通に考えればアウストレア宅にいるってことは身内の人間か。


「レイチェルさん、俺が誘拐犯じゃないってあの人に説明してもらえませんか?」



 俺はレイチェルに優しくお願いする。


「はい! わかりました! お兄さま、この人は私を助けてくれた人です!」


 そうレイチェルが言った瞬間、ピンク髪の美男子は目をカっと開き、戦士達に攻撃をやめるように手を上げる。

 アウストレア家の広い庭の中心に立っていた二十メートルは離れているであろう場所からピンク髪の美男子はゆっくりと歩いてくる。


「レイチェルさん、あの人は? お兄さんって言ってたけど……」


 俺がそう聞くと、レイチェルは申し訳なさそうに答える。


「あ、あれは私のお兄様で【勇者】のルーク・アウストリアです……、私のことになるといつも熱くなってしまって、あの……先ほどは大丈夫でしたか?」


「ああ、俺は大丈夫だよ」


 そうは言ったが、普段なら絶対に避けれない矢をいとも簡単に避けることができた、さっきの体力の件といいこの世界に来てから大幅にいろいろなことが強化されているようだ。


「魔力や能力だけでなく、ステータスまで強化されてるってことか」


「え? なにかおっしゃいました?」


「え、いやなんでもないよ」



 レイチェルに独り言を不思議がられるが気にしない……確か、異世界来る前に初老の男と話していた時に最高のステータスをプレゼントする、みたいな事話てたな。

 そんなことを考えているとレイチェルにお兄様と呼ばれているピンク髪の美男子、ルーク・アウストリアが少し険しい顔をしながら俺に話しかけてくる。


「お前が妹を助けてくれたのか……俺はどうも妹のことになると熱くなってしまうたちでな、先ほどの無礼……申し訳なかった」


 そう言い、ルークは俺に向けて頭を下げる。

 ルークは情熱的ではあるが非常に常識をわきまえている人間だったようだ。


「いえいえ、俺は佐原レイといいます」


 俺が握手を求めるとそれに応じるように握手を返す。


「勇者のルーク・アウストリアだ、妹を助けてくれてありがとう……恩にきる」


 握手をすると、ルークは手を放し再び険しい顔になる。


「とはいえ……だ、残党とはいえ魔王軍だぞ……どうやって助けたんだ?」


 ルークは俺のような得体の知れないやつにレイチェルがなぜ助けられたと聞きたいようだ。


「助けるふりをして、アウストリア家ごと潰そうとしているスパイって言いたいんですか?」


 ルークはニヤと笑い剣を俺に向ける。


「それは今から俺が判断する、ついて来い」


 ルークは俺と決闘して判断するようだ……俺が魔王軍残党を倒せるまでの器量かどうかの。


「ここでいいだろう、皆は離れていろ」


 そうルークが指示すると、護衛にいたであろう戦士二人とレイチェルはその場を離れる。

 俺の力を見せたいところだが、もし生身の体を触ってしまったらルークを殺すことになる、どうしたらいいか。


「よし、ここでいいだろう、さぁレイ! かかってこい」


 ルークは、白いコートを身にまとい、最高まで磨かれたであろう剣を持ち構える。



「しかたねぇ、いっちょやるか!」


 俺がそう言い、手袋を外すとそれに呼応するかのようにルークは体から魔力を放出する。

 魔力の具現化、光のようなものがルークの周りを覆う。

 その後その光は範囲を広げ俺達の周りに半径三十メートルある光の輪ができた。


「瞬きなんてしてたら戦いが終わっちまうぜ」


 ルークがそう言った刹那、一秒もしないうちに十メートルは離れていたであろう俺の目の前に姿を現し、明確な殺意の元俺の首の前に剣を振り回す。

 首に剣に刃の先が付くコンマ手前で、持ち前の反射神経を生かし体を手前に引く。

 剣を空ぶった所若干バランスを崩したルークの剣を触ろうと手を伸ばすが、ルークも並大抵の運動神経じゃないようで、俺の手に何か仕掛けがあると踏んだルークは剣を上に投げ、自分は一歩引く。


「なぜ俺自身ではなく剣を触ろうとする?」


「まぁ、剣を触れば俺の勝ちなんで」


「ほぅ、じゃあお前に触られないようにしないとな」


 俺が口を滑らせたところで、天に上った剣は再び落下し、久々に父親にあった子どもかのようにルークの手に剣は戻る。

 とはいえ、ルークはなんであんなに早く動けるんだ? 魔法の力で自分のスピードを上げている?


「おいおい、なんでこんなに早く動けるかって……不思議な顔してるなぁ」


 思っていたことを一寸のずれもなく的中させたルークは、俺の顔を見るなり勝ち誇った顔をしながら言う。


「能力者はお前だけじゃねーんだぜ」


 ってことはこの世界の強いやつはみんな能力持ちってことか。

 とは言え、ルークも能力者ってことは、魔法の類じゃないってことか……一体どんな能力なんだ。


「偶然よけきれたようだが、次はどうかなぁ!」


 そういうと再び光に似た魔力を放出しする。

 すると黄色かった魔力は白く変化し俺達の周りに光が囲む。


「行くぜ!!」


 ルークの剣を投げるモーション、それを見た瞬間俺はルークの攻撃を回避するかのようにしゃがむ。

 そして当り前かのように一秒もしないうちに俺の頭の上を通過する。

 俺は剣を避けた安堵で油断したところを突いてきたのか、俺の背後に回り剣を振るってくる。


「くそぉぉぉぉ!!!!」


 目の前の剣を前に死の一歩前、スローモーションになる。

 俺はここで死ぬのか……



 そう思った矢先一つの疑問が生まれる、初めは死への恐怖によるスローモーションかと思っていたがそれにしてはゆっくり過ぎる。


 これもステータスの影響か?


 さっき矢を避けた時にスローモーションになった時と同じ感覚、俺はそう思うとある一つの結論にたどり着いた。


 攻撃が当たりそうになるとスローモーションになるのか、いやそう考えると説明がつく、それしかない……なら一か八か間に合うか……。


 自分の目の前にある剣を限界まで体を動かす、スローモーションになるってことはその中でまだ避けれる可能性があるってことだ。

 自分の目の前を通り過ぎてゆく剣、多少間に合わず頬に若干傷を負ったが、死ぬが失敗生きるが成功という選択肢なのならば、成功と言ってもいいだろう。


「何? この攻撃も避けただと?」





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