第二話 魔王軍残党への奇襲

「店長、この【Z】ってクラスは……最悪だよなこれ……」


 俺は多少期待していただけに落胆する。


「なに言っとるんじゃお前さん……測定不能、こんなん見たのは初めてじゃ……」


 店長は震えながら言うと、俺の肩に手を置き目を剣幕にさせる。


「いいか、【Z】ってことは簡単に言えば【SSS】以上ってことじゃ! お前さん……いったい何者なんじゃ」


「ってことは俺、最強?」


 俺の目に再び光が宿る、実感のできなかった強さ、そして能力の異常性……飽きていた世界からこの飽くなき世界への転生による探求心、それが今確実に俺の中の何かを響かせていることがわかった。


「よーし! 自分の能力もわかった! 早速……魔物退治だ!」


 俺ののんきな言葉に対して店長は驚きと困惑の表情をしながら俺に言う


 

「もうわしには良くわからん……さっさと悪魔倒して【勇者】にでもなったらどうじゃ」


「【勇者】? そりゃさっき言ってた千五百年前に魔王軍が攻めてきたときに魔王を倒した……あの勇者か」


「まぁ、ここまでくるとすがすがしいわい……その勇者とはまた別での、さっき言った議会あるじゃろ、その一族のものか議会に推薦されたものしかなれない称号、それになりゃ魔王軍との戦争に駆り出される代わりに様々な特別な権力が与えられる貴族階級、それが【勇者】じゃ」


「ってことはそれになれば金も手に入るし魔王軍も倒せるってことか」


「そういうことじゃの」


 俺は早速特に準備しないまま、魔王軍残党のアジトに向かうことにした。


「じゃあいっちょ助けてくるぜ」


「死ぬなよ」


 店長はあまりの驚きに気が抜けたのか、適当な返事をし見送る。

 俺は店長が言っていたアジトに向かう事にした。




「ここがアジトか」


 店長に書いてもらった地図をもとに魔王軍残党のアジトへ行くことに成功した。


 外観を一言で表すとすれば廃墟、二階建ての家に割れたガラスが散らばっている。

 俺はドアをガンガン叩き呼んでみる。


「誰かいませんかー!!」


 ……

 音はない


「仕方がない」


 俺は手袋を取りドアを触る、するとドアはたちまち赤くなり灰と化す。

 中をドアの横から覗き込むように見ると音を立てないように静かにしてたであろう武装した俺と変わらないくらいの背丈で色は緑色のゴブリンが三体ほどいた。


「な、なんだぁ、お前!」


 慌てふためくゴブリンを見て若干の優越感と、始めてみる悪魔に対する恐怖が同時に沸いてくる。

 奥の方を見ると両手両足を縛られたピンク色の長髪の美少女がいた。


「俺は世界を守る……正義の味方だ!!」


 そういうと魔界軍の残党、ゴブリンたちは笑いだし血が付いたこん棒を取り出した。


「ガッハッハッハ! 笑わしてくれるぜ」


 ゴブリンたちはひとしきり笑ったあと鬼の形相に変わり俺を襲ってくる。


「殺れぇ!!!」


 ゴブリンの中でも一際大きいボス的存在のゴブリン以外の二人が襲い掛かってくる。


 くそっ! いくら能力や魔力が最強クラスとはいえ、戦いのノウハウを知らない……

 一体目のゴブリンがこん棒を振り下ろしてくる。


「なるようになれだぁぁ!!!」


 俺は振り下ろしてきたこん棒を手で触る、するとこん棒は赤く光り灰と化した。


「なんだこりゃ! こん棒が!」


「うおおおおおおお!!!!」


 俺はそのままゴブリンの顔を掴む、するとゴブリンの体が赤く発火したかのようになり、たちまちゴブリンとしての原型を崩し灰となって拡散し、地面に落ちる。


「……」


 圧倒的強さに対するゴブリンの静寂、そして次第に死という言葉に現実味を帯びてきたゴブリンは恐怖を覚えだす。


「こんなのに勝てるわけねぇ……」


 このすべてを破壊する能力、この能力はただ強いというわけではなく、ある感情を芽生えさせることにも長けている。

 それは恐怖、この圧倒的力の前に相手は戦意をなくす。

 俺の予想が的中したのか、ゴブリンたちは武器を捨て逃げて行く、当然ドアの前に立っている俺の横を通るのだが、そこは何もせずにスルー、議会の娘さんを誘拐したとはいえ、見た感じ被害はなさそうであったので戦意のないゴブリンは逃がすことにしたのだ。

 もちろん傷が一つでもついていようものなら皆殺しだったけどね。


「大丈夫ですか?」


 俺は議会の娘……店長に聞いたところによると議会の議員である防衛長のアウストリア家の娘さんと思わしき人に声をかける。


「はい、私は大丈夫ですけど……貴方にけがは?」


 こんな自分の命の危機が迫っていたところで自分ではなく他人ひとの心配をする事に驚きを隠せなかった。


「ああ、俺も大丈夫、君はアウストレアさん?」


「はい、私はレイチェル・アウストレアと申します……ええと、あなたは?」


「俺は佐原レイ、助けに来ましたよ」


 俺はそういうと彼女が縛られていた縄を触り、彼女を自由にさせたのち手袋をはめる。


「まぁ、なんですのこれ! すごいですわ!」


 俺の能力を見るや否や急に元気を取り戻し、ただでさえピンク色の髪にさらに艶が戻っているように思えた。


「とりあえず逃げましょう」


 残党が応援を呼んで来るのを警戒し、さっさと立ち去ることにする。


「レイチェルさん! どこまで行けばいいかわかりますか?」


「ここをまっすぐ行けば私の邸宅がありますので、よろしければそこまでお願いします!」


 俺は疲れているであろうレイチェルを両手で抱きかかえた、これはいわばお姫様抱っこと呼ばれる体制で走ることになる、相手がお姫様だからいいいヨネ!

 普段なら女子であろうとお姫様抱っこなんてやりながら走っていたら一瞬にして体力はゼロに近くなるはずだが、異世界に来ての影響なのかしばらく走っていても全くといっていいほど、疲れが感じなくなっていた。


「そういえば、なんで捕まっちゃったんですか?」


 俺は走りながらも丁重で慎重な質問をする、この世界に来て最も重要なものは情報、なのでまずは情報集めから入ることにした。

 するとレイチェルは恥ずかしそうにしながら顔を押さえ、ボソリと答える。


「実は一人で散歩してたら……あの、恥ずかしい話なんですけど、ゴブリンの方からお菓子をもらいまして、いい人と勘違いしてしまいそのまま急に持ち上げられて、あのアジトの場所まで……」


「いや! 子供か!」


 ゴブリンの作戦も作戦だが、子供ですら引っかからないような罠に堂々とハマるレイチェルすげぇ!

 見た目は俺と同じ十七歳に見えたのだが精神年齢はそこまで行ってないのかもしれない。

 そんなことを思っていると、走る速さが思ったより早かったようで、アウストレア家の邸宅に着く。


「ここが我がアウストレア家が誇る……おうちです!」


「でっけーなー」


 レイチェルはおうちなどと言う言葉で表しているが、おうちとは思えないほど、普通に日本で例えるなら首相官邸くらいの大きさはあるであろう豪邸が目の前に建っていた。


「帰りましたよー!!」


 レイチェルがお姫様だっこをされたまま大声でそう言うと、しまっていた頑丈そうな鉄の門が開いた。

 俺はレイチェルをおろし、自分の服についていた若干の汚れを落とし、身なりを整えながらレイチェルについて行く。



 これで助けた報酬がもらえる……そんな浮ついたことを考えているその時、一本の矢が目の前に現れる。

 これは自分に向けて敵意のある攻撃であること、矢があることに気づいたことと避けなければと考えるまで刹那、いつもの自分では絶対にできないであろう反射神経が働きスローモーションになったかのような感覚になり矢を避けることに成功する。


「貴様何者だ!」


 声の方向を見ると矢を撃ったであろう戦士の前にいかにも貴族らしい、他の戦士とは全く装備の違う若い男性にそう言われる。

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