花より団子。団子より彼。

川越 美春

花より団子。団子より彼。

 春になると風景が鮮やかさを取り戻し始める。

 色が散りばめられた世界は美しいけれど、この目はまだその輝きに慣れていない。

 目を細めながら散っていく桜の花びらを見ていると、陽介ようすけが三色団子を片手に戻ってきた。

「なんだか眠そうだったけど、大丈夫か?」

「昨日も遅くまで残業してたからね」

「あー。疲れてるのに連れ出してごめん。でも今日逃したら桜見れないし」

「うん。散り始めてるから来週には葉桜だろうね」

 私は嘘をついて彼を困らせることが好きだ。昨日は定時で仕事が終わってすぐに帰った。陽介は申し訳なさそうな表情をするが、次の瞬間には幸せそうに笑う。私の心の隙間を安心で埋めてくれる。

 私にとっては桜よりも陽介の方が眩しい。その顔を見ていると泣きたくなるから視線を桜に逃す。

「三色団子がなんで赤、白、緑なのか知ってる?」

「うーん、知らない」

「三色で春もしくは春夏秋冬を表しているらしいよ。縁起もいいんだってさ」

「……今日暑いから並ぶの大変だったよね。ありがとう」

「え? ちょっ」

「並んでる間に調べたんでしょ」

 陽介から団子を奪って、艶やかな赤い団子を口に入れる。弾力のある団子は噛むほどに甘さが滲む。


「団子って美味しいね」

 風が落ちた花びらを舞い上げ、陽介の頭に乗った。

 思わず笑ってしまう。「なんだよ」と彼は言う。「別に」と言いながらさらに笑った。


 花より団子。団子より陽介。一人、幸せをかみしめた。

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花より団子。団子より彼。 川越 美春 @miharu-kawagoe

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