保護者の方も発表する機会があるなんて面白いです。
ここは一つわたしも……
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「仕方がないわね」
菜摘がすっと教室の入口に立つと、田村&吉田、通称、村吉コンビが後に続いた。
「待て! お前たち、どこへ行くんだ」
三人は各々ライスとみんなのカレー容器を持ち去ろうとしているのだ。先生が慌てて声を掛けた。菜摘は不敵に微笑み、「センセ、あの部屋借りるわね」と言ってさっそうと廊下へ飛び出した。村吉コンビも後へ続く。
「どうなってんだ?」
「お、俺たちのカレー……」
一同は騒然となり、皆ハッとしたように各々のライスを持って三人を追いかけた。
「おい! 廊下を走るんじゃない!」
「走ってません!」
皆、渾身の競歩である。ブッチャーも遅ればせながら後に続く。先生も仕方無しにライスを片手に飛び出した。
辿り着いたその部屋は誰もおらず冷たい印象だった。村吉コンビがカレー容器を中央の台に置く間、菜摘は棚からいくつか白い器を取り出した。菜摘はその器にライスを移し、何の躊躇もせずにカレーを掛けた。皆はガヤガヤと取り囲んでいる。そこへ追いついてきた先生が息切れの中、皆の間に割って入った。
「お前たち、一体……」
「センセ、まだわかりませんか?」
そう言って菜摘は部屋の片隅の冷蔵庫からとろけるチーズを取り出し、器に盛ったカレーライスに振りかけオーブントースターに押し込んだ。次第にいい香りが漂い、皆が浮足立つ。取り出されたのはカレーなる黄金のチーズドリア。
「さ、センセ」
村吉コンビが先生の前に皿を置いて、スプーンを握らせる。先生はダラダラと汗をかきつつも、ゴクリと喉を鳴らしてドリアを掬い上げ、じっくりと咀嚼した後、ポツリと言った。
「わかった……存分にやっておしまいなさい」
一同は半ば吼えるように雄叫びを上げながら、他の台へと散らばった。後はもうやりたい放題である。同じ様にドリアにする者、カレーコロッケの準備を始める者、カレーピラフを作る者、どこから持ってきたのか食パンにカレーのみならず温玉を載せたカレートーストにする者。空腹が皆の創造を掻き立てた。
「ブッチャーは、何がいいの?」
ぽつんと呆けていたブッチャーに菜摘が声を掛けた。ブッチャーは動揺しつつも小さな声で「ドリア」と言った。菜摘はライスを受け取り、少し多めにチーズを掛けて完全にカレーの色を消した。菜摘に促されオーブントースターに耐熱皿を入れるブッチャー。暫し二人で焼き上がりを待った。
「あ、あのさ……」
ブッチャーが何か言いかけたところで出来上がり。菜摘は素知らぬ顔で、皿を取り出し、黙ってブッチャーにスプーンを握らせた。ブッチャーは先生以上に大きなゴクリという音を鳴らしてからドリアに取り掛かった。
皆が互いのアレンジカレーを交換し、周りは騒然としている。二人に注意を向けている者はいない。ブッチャーは三口目を飲み込んでスプーンを置いた。
「俺さ……す……」
ブッチャーはおずおずと切り出すも言葉が出ない。菜摘は窓の外を眺めている。ブッチャーは菜摘の横顔を見て、意を決したように再び口を開いた。
「菜摘……俺、……す、好きだ」
ブッチャーの顔は赤く染まった。誤魔化すようにスプーンを取って残りのドリアを食べる。菜摘はようやくブッチャーのようへ視線をやり、その日一番の笑みをもらした。
「そ。気に入ったみたいで良かった。なんだか弟がもう一人増えたみたいね」
調理実習室の片隅で、皿はあっという間に白に戻った。
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あー、どうしても長くなってしまいました……お許しを〜
作者からの返信
大変な力作をありがとうございます。
こんなに執筆してくださるなんて。
ただただ嬉しいです。
また、自分ごときものが寸評するのは本来あってはならぬことなのですが、ここは流れなので無礼を承知で寸評させていただきます。
寸評。
序盤の村吉コンビが積極的に物語を引っ張っていく。
巻き込まれるセンセとクラスメイトたち。
中盤以降、ブッチャーに焦点が当たる。
彼に対して優しい村吉コンビ。
どこかしおらしいブッチャー。
そして、まさかの……。
どうも村吉コンビは彼の想いに気付いていると推測できる。
そうすると村吉コンビの行動の全ては彼が素直になって告白するお膳立てをするためだった、とわかる。
ブッチャーが告白した後に、余裕の態度の菜摘が今までのモヤモヤを洗いざらい消し去ってしまう。
おバカな男子にはまず書けない物語でした。
点数は92点。
女子と大人には受けます。
ガキの男子にはそもそも理解すらできないでしょう。
また僕には絶対思いつかないストーリーでした。
偉そうにスミマセン。
素晴らしい物語をありがとうございました。
編集済
続きを思いついたので、僕もお話の続きを書いてみたいと思います。
※※※
そこへ担任の飯塚先生が遅れて教室に入ってきました。
すかさず菜摘がポケットから取り出したのは紙オムツ。しかも使用済み。菜摘がその紙オムツを開くと、中からボトボトとカレーシチューがあふれ出しました。
「ブッチャー知らなかったの? カレーシチューってこうやって作るんだよ。はい! たんと召し上がれ!」
そう、ブッチャーは食べ物がどのように作られるのか知らなかっただけなのです。菜摘やクラスメイト、先生たちは、そんなブッチャーの事を責めたりはせず、優しく教えてあげて、紙オムツから出てきたカレーシチューを振舞いました。
めでたし、めでたし。
あ、ブッチャー以外のみんなは給食で出たカレーシチューを食べました。完
※※※
波里久さんの小学生時代のお話を読んでいるうちに、僕の精神年齢も小学生まで退行してしまい、安易なウ〇コネタに走ってしまいました。
自己評価は0点です。汚いもの!
※追記
こんなおバカな感想に評価まで頂いて本当にありがとうございます(笑)
ゲラゲラ笑いながら寸評を読ませて頂きました(笑)
いやぁ、波里久さまのセンス、すげえや!
>現在、新作執筆中でヨムよりカクが中心になっています。
>D・Ghost worksさまの作品も楽しみに拝読させていただきます。
ごゆるりと読んでいてだければ、これ以上嬉しい事はありません(/・ω・)/
僕も現在、カク中心で進めているところなので、合間を見て波里久さまの作品を読ませて頂きますね!
作者からの返信
おはようございます。
この度は『満録千夜一夜』に星をありがとうございます。
しかも小学校の課題の続きまで考えてくださり、驚きと嬉しさを感じています。
しかしここで何が求められているか考えればやはりそれは寸評なのではないか、と。
もちろん、僕などが寸評など出来る立場ではないのは承知しています。
しかし、ここはやらなければ。
どうかご無礼をお許しください。
寸評
もし小学校の授業参観時にこの作品を発表したらそれだけで『勇気ある少年』の称号を手に入れられるのは確実である。
先生や親たちからはふざけすぎと非難されるだろうが、子ども、特に男子には大受けするであろうお話。
肝心の内容について。
紙オムツが出てきた辺りでまさか! と思わせる。
引きつけられるまま読みすすめるとボトボトとカレーシチューが……。
オチまで読んでやっとブッチャーに救いが無いことに気づく。
シモネタ直球火の玉ストレート時速160キロ。
あえて点をつけるなら78点。
言葉の威力というのを思い知らされたこの作品。
これからカレーシチューが食えなくなるほどのトラウマを植え付けられました。
難癖をつけたブッチャーが可哀想に思えるほどです。
菜摘も先生もクラスメイトもどうかしています。
クラスの中という小さな1つの世界の怖さ。
教室の中では非常識が常識になってしまう怖さ。
なぜ100点満点にならなかったかというと、やはり汚いので。
以上です。
お気を悪くされたなら申し訳ございません。
こちらの『満録千夜一夜』はもっと更新頻度を高めねば、と思っているのですがついつい放置しています。
また気が向けば更新していきます。
現在、新作執筆中でヨムよりカクが中心になっています。
D・Ghost worksさまの作品も楽しみに拝読させていただきます。
ただ少し遅めになります。すみません。
それでは今後もよろしくお願い致します。
考えさせられますね。
道徳の授業として、私だったらどうするだろうかといろいろシミュレートしちゃいました!
作者からの返信
改めて振り返って見るとこの道徳で使われた教材はよく出来ています。
教育者が望むラストはハッキリしています。
では望まれるラストに向けて物語を書こうとすると壁にぶち当たることに気付きます。
ブッチャーが改心して菜摘に謝る為にどうやって展開させるべきか。
ご都合主義ではなくリアリティある話運び。
僕は頭を悩ませました。
結局、道徳の教材であることを無視した話にしてしまいました。
超獣を登場させたくなる気持ちもわかります。
色々シミュレートするのも楽しいかもしれませんね。
久しぶりの更新ですね。
他人の作った話を読んで「何だかなあ」と寸評するのは簡単なのですが、じゃあ自分ならどうするのかというと難しいです。
僕だったら「親の手伝いをするために赤ちゃんのオムツを換える行為のどこが汚いんだ。手を洗っているんなら問題ないじゃないか」「それじゃあお前は今まで汚いものに触ったことがないのか」とブッチャーを反省させる教科書的なオチになりそうですね。しかし道徳の授業のねらいとしては正しくとも「面白いか、小説としての完成度の高い話になるか」というと微妙です。
予想を裏切り、しかし不快感を与えない展開が望ましいところですが。
小さなエピソードですが話作りの難しさに気づかされます。
作者からの返信
本当に久しぶりの更新でした。
小学生の時の記憶なのですが、粗筋はあんな感じでした。
登場人物のネーミングは適当につけました。
菜摘の本名は藤波菜摘。藤波辰爾の娘という設定です。
彼女の味方になる田村さんは田村亮子の小学生時代。
吉田さんは吉田沙保里の小学生時代という設定。
飯塚先生はクレイジー坊主の飯塚高史。
ブッチャーは橋本真也のあだ名から。
ここでポイントとなるのが難癖をつけた意地悪男子のブッチャー。
小学生男子なので理屈が通用しません。
どうも菜摘が好きでちょっかいを出したわけでもないようですし。
子供心に教科書的なオチはわかるけどそう持っていくのはなんかシャクだし、意外と難しいものです。
かといって超獣を出すのもちょっとアレですし。
結局、怪しげな粉末オチにしてしまいました。
他に考えていたストーリー展開としては……。
・突如、武装したテロリストが学校に侵入。クラス全員を人質に。
・傷つき、学校を飛び出した菜摘は行方不明に。そしてクラスメイトが一人ずつ神隠しにあう事件が発生。果たして犯人は?
・実はブッチャーは菜摘が好きでついつい意地悪したくなるお年頃。色々あったが告白に成功。そのラブラブぶりがPTAから問題視され二人の仲はどうなる?
う~ん、やはり話作りは難しいです。
とてもいい授業ですね。
大人は円満解決を望み、ハッピーエンドにする平和主義者が多いですが、子供は柔軟で怪獣登場の型破りな発想がいいです。
さすが波里様、みんなを天国で昇華するなんて。
菜摘のサイコパスな部分もいいです。(^-^)
作者からの返信
おそらく学習の狙いとしては、話し合いをしてブッチャーが菜摘に謝る展開を期待していたのでは。
でも発表する内容は校舎が破壊される展開や、大喜利のように鮮やかなオチ。
小学生男子の発想力、バカにできません。
言葉ではなく、腕力でもなく、怪しい薬で状況を変えられたら面白いかも、と思いました。
菜摘は被害者になって泣かせたくなかったのです。
しかしやり過ぎたかもしれません。
「やり過ぎるくらいで丁度いい」と漫画家の平野耕太氏も言っていたので、その言葉を信じて実行してみました。
その結果がアレですが実は割と気に入っています。
なみさとひさし様
小学生の時の授業の内容を覚えていらっしゃるなんて凄い記憶力です! 私全然覚えていません(笑)
道徳の授業って、なかなか難しいですよね。勧善懲悪になってもおかしいし。
でもお母さんが発表してしまうのはびっくり! 今はあり得ない気がしますが、どうなんだろう(^^;
私は皆さんのような面白いお話、思いつかないです💦
作者からの返信
もちろん、僕も覚えてなどいません。
しかしこの道徳の授業だけは特殊なので印象に残っています。
今振り返ると、関川様の企画であるハーフ&ハーフの先駆けのような感じです。
テレビで見るNHKの道徳のテレビ番組はいかにもご都合主義でした。
そして今回のケース。
お母さんがまさかの一番手。
しかも典型的な教育ママ。
教室内が白々しい空気になりました。
後の二作もほぼ実話。
僕も当時は思いつけなかったです。
しかしカクヨムで研鑽を積んだ今なら出来るはず。
物語の続きを書けなかった自分に決着を付ける意味で今回、続きを書いてみました。
出来はともかく、達成感はありました。
満足しています。
応援コメントをありがとうございました。