第5夜 占い

 占いが嫌いではない。

 いや、白状すればかなり好きだ。


 大の男が占い好きで何が悪い?

 そもそも古代の政治は占いから始まっている。

 「ミリオネア(百万長者)は星占いを信じないが、ビリオネア(億万長者)は活用する」

 金融王JPモルガンの言葉には重みがある。

 実際に多くのビリオネア達はお抱えの占い師がいるらしい。


 では現在の西洋占星術の源流を辿るとどこに行き着くのだろうか。

 それは五千年ほど昔、星の動きから宇宙の意志を知ろうとしたカルデアの呪術師に辿り着く。

 遠いバビロニアの時代に来る日も来る日も星を見上げた人達に思いを馳せる。

 今日の星座占いを知り一喜一憂できるのも彼らのおかげなのだ。


 また筆者が占い好きなのは、何度か当たった体験があるのも影響している。

 あれは小学校3年の夏休みが明けた時。

 ケンカ友達の大森(仮名)が学校に姿を見せなかった。

 ウワサでは、大森の父親が『ある方角にしばらく滞在していないと家族に大凶』という占い師の助言に従っているらしかった。

 それを聞いて、

「汚ねぇ。あいつだけ夏休みが長いのはおかしい」

 という反応もあれば、

「その手があったか!」

 と感心する者まで様々だった。


 9月の終わりになって大森がやっと学校にやってきた。

 ただし松葉杖をついて。

 当然、皆は突っ込む。

「その占い師はインチキなんじゃ? 怪我してるじゃん」

「だからお父さんも占い師に文句を言ったら、『私の助言に従ったからこそ、その程度の怪我ですんだんですよ。本当に良かったですね』だって」

 大森の言葉に全員ズッコケてしまった。

 どうも、占い師というのは肝っ玉がないとできないようだ。


 占いの話はまだある。

 筆者の母はある集まりで初めて知り合った人に洒落で手相を見てもらった。

 手相を見るのが特技、というその人はズバズバ当てまくった。

 母の兄弟や家族構成、果ては貯金の額まで。

 これには母も不思議だ、と首をひねっていた。

 その手相を見た人は、あくまでも普通の主婦で占いを生業にはしていない。

 生命線や運命線が、などとは言わず手相を通して視えるタイプらしい。

 本物は市井に埋もれている。


 次の話は以前に世間を騒がせた事件と関係あるので多少ぼかして書く。

 十五年ほど前、とある陽気でおしゃべり好きの堂々とした体躯の若者、サブちゃんと知り合った。

 彼も手相を見るのが趣味で、自己流だがまわりの人を片っ端から見ていた。

 ある日、いつも陽気な彼が意気消沈していた。

「サブちゃん、どうした? 彼女にでもフラれたか?」

「ああ、偉い人からこっぴどく怒られた。聞いてくれ、波里よ」

 ステーキ屋でしみじみと彼は語った。

 以下はその要約。


 普段からお世話になっている人の仲介である方を占うことになった。

 ある方とは経済誌にも何回か登場したことのある”経済界のホープ”と呼ばれている大物。

 しかしサブちゃんは手相を見て仰天。

 悪い未来しか見えない。

「さあ、早く結果を教えてくれ」

 自信満々の経済界のホープ。

 どうしようかと、仲介してくれた世話人を見ると『言え、言っちまえ』と眼で語っていた。

 だから、

「あなたの会社は三年以内につぶれます」

 と正直に答えた瞬間、ホープは激怒。

「いいか! 占いっていうのは出た結果を言えばいいってもんじゃない。悪い結果が出たときこそ言葉を選ぶべきだろう!」

 ホープが怒るのもうなずける。


「サブちゃん、それは占い以前の問題だよ。そうなる前に自分を占えなかったのかい?」

「ああ、なぜか自分は占えない」

 そういうものかもしれない。


 ところが数年後、新聞で経済界のホープの名前を一行だけ見かけた。

 税金を注ぎ込んだある事業がポシャった。彼はそれに関わっていたのだ。

 彼の会社は占いどおり影も形もなくなり、ついでに本人も雲隠れ。

 サブちゃんの占いは不幸にも当たったのだ。


 最後に筆者自身の体験談。

 約十年ほど前、とある問題を抱えていた筆者は視えると評判の占い師に相談をしていた。


「それで先生、僕がモテないのは、女性運が悪いのはどうしたらいいんですか?」

「どうしようもない。というのもあなたは前世、前前世、そのまた前、その前の前の前から完全にコチラ側の人間だから」

「コチラ側とは?」

「この世の真実を求め、裏の力を使いこなす者の世界。魔術師や祈祷師、オカルティスト、マジカルヒーラー。そうそうあなたはアメリカ大陸でシャーマンだった前世もあるね。自分の力ではなく世界の力を使って治療していたから疲れ知らずで癒やすことが出来た。かなり評判の腕だったらしい」

「だから修行のために女は必要ないということですか?」

「その通り」


 筆者は別にこの世の真実なんて知りたくもないし不思議な力もいらない。

 ただ、恋人が欲しかった。

 落ち着くために出されたハーブティーを飲んだ。


「もし、ずっとそんな人生を何回も送ってきたのなら少しは超能力や不思議なヒーリング能力が使えたっていいのに使えません。なぜですか?」

 筆者は真剣に質問をした。

「なら、一緒にその原因となった前世を視てみよう。今ならあなたも前世が視える。さあ、私のいうことを聞いて。呼吸を整えて。意識を第七チャクラより上に出しさらにその上に」


 頭の中にイメージがすっと浮かんだ。

 山の上。

 すぐ近くで滝がゴーゴーと音を立てて下へ落ちている。

 半裸で結跏趺坐を組み頭にはターバン。

 静かに眼を閉じ瞑想にふけっている男性。

 視えた!

 あの男性は過去生の筆者だ。


「視えたかな? あなたはヨーギー(ヨガ行者)だった時にかなりの段階まで進んでいた。ところが調子に乗ったあなたは身に付けた超能力で色々とやらかしてしまった。だからその力は封印された。今生では超能力に頼らず、一所懸命に生きることが使命である」

 占い師の先生はそう告げた。

 その時はそんなものかなと納得したようなしてないようなそんな感じだった。


 しかし、時々思う。

 なにかの切っ掛けで封印が解放されたらいいのに、と。

 そうなったら解放された超能力で拙作の数々を書籍化してみたい。

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