消去と回収
「記憶を消す?登場人物?」
桃太郎は虚ろな目で黒マントを見上げている。
「そうだ、我々は物語カンパニー。各地で鬼を配置し、村へお前を発見し育てるための老夫婦を派遣する。そして桃太郎、お前は生体工場から桃に詰められ決まった時期に川から流されていく仕組みだ。お前たちにはシナリオどおりに動くためのパターンが頭の中に書き込まれ、何度も何度もリセットされ効率よく物語を演じてくれる・・・。滑稽だろう?」
「くぅっ!なぜそんな・・ボクは造られた?わからない・・何のために!?何なんだ!お前は!」
桃太郎は悔しそうに言葉を吐き捨てる。
今、鬼のボクもそうだ。鬼は武器を生産するためだけに存在する?数年経てば消去される?なぜボクは桃太郎の記憶がある?ボクは、ボクは・・いったい何者なんだ?頭の中がグルグル回想し、混乱の最中、黒マントが話を続ける。
「何のために?そんなの簡単なことだ、この時代の資源を効率よく、手を汚さず楽しみながら得られるからだ。人間は物語が好きと言ったが、我々も大好きだ。シナリオどおりに設定しても少しズレることもある、想定どおりいかない時もある。我々はそんな物語が展開されるプロセスを楽しんでいるだけだ」
黒マントは夜空の月を見ながら小さく呟いた。
「さぁ、桃太郎物語もそろそろおしまいにしようか」
そう言うと、桃太郎の体はふわりと浮かび、黒マントの手元まで引き寄せられた。そしてジジの時と同じように黒マントは桃太郎の首元に手をかざしジジの時と同じように細い棒なようなものを抜き取った。
桃太郎は光の輪を解かれ、人形のように崩れ落ちた。ほんの少し前まで悔しさで表情を引きつらせ叫んでいた威勢の面影は一切感じさせず、あまりにあっけなく、静寂だけが残った。
そして、また空に向かって激しい光柱が上りたち、そこにあったすべてが一瞬で消え去った。荷台も、ジジも、桃太郎も、黒マントも消え何もなくなった。
真っ暗な夜空に光る月だけが何も変わらずボクを照らしていた。
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