桃太郎と桃太郎
「桃太郎!?」
鬼の血のりを浴び、真っ赤に染まった青年を見てボクは躊躇せず叫んでいた。
この後、ボクは殺される。
いや、ボクは鬼を殺したのだ。
これから右斜め上から刀を振り下げ、胸から下腹にまで切り裂き、そのまま返し刀で首を切断するつもりだ。
血のりをあびた人間はそのまま静かに小走りしながらいきなり右斜め上から切り込んできた。そしてそれが金棒によって弾かれるとすぐさま返し刀で首元を狙ってきたのだ。
(やっぱりそうだ)
「おい、桃太郎っ!」
血のりをあびた青年は怪訝そうな顔で言った。
「なぜ、ボクの名前を知っている、お前に名など名乗っていないはずだ!このバケモノめ!」
突然、バケモノと言われ、心がズクンと痛くなった。ボクは人間のはず、だが今はバケモノだ。自分の見た目は認識したつもりだったがまだ現実を受け入れられないでいた。しかしこの一言でボクは『鬼』だと強制的に認識させられた気がした。
「まぁ、まて!桃太郎!話を聞けっ!ボクはお前を知っている、何もかも知っているんだっ!」
青年は、まだ無言のまま金棒と刀が混じり合ったつばぜり合いに力を込める。
「犬、サル、キジ、お前たちはきびだんごをもらったんだろう?そして、そのきびだんごは大好きなババに作ってもらったんだろう?お前は桃から産まれたから桃太郎と言うんだろう!?」
ドスのきいた渾身の叫び声が暗く、血なまぐさい洞窟内に鳴り響き、声がこだました。
そして、青年は刀を下ろしボクを見て名乗った。
「そうだ、ボクは桃太郎だ!お前を退治しにきた!なぜすべてを知っている!?誰だお前は!」
血で染まった体とは裏腹に、黒く芯の強い目で鬼のボクを見つめてきた。桃太郎と僕は武器をおろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます