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「酔狂ですね」
「へぇ、あんた、そんな言葉を学習したんだ?」
「ドクター、あなたはレポートに誤字脱字が多すぎる。かつ話し言葉を多用しすぎて、ヤル気がない時は字数を稼げばいいと思ってる節がある。僕には致命的な課題だと思いますけどね?」
「ヤダヤダ、そこらへんは適当に学習しておけばいいのに、推敲まで要求するなんて、どんなメディカルシステムよ」
「その僕を作ったのはドクターですけど?」
「反論する時点で、従順じゃない。それはロボット工学三原則に反するんじゃない?」
「そこでアシモフ(※)を出しますか。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。――ドクターは第二条が適用されるというのですね」
「モチ」
「それは勿論の略語ですね。不適切ですし、死語です」
「あんたね!」
「あえて反論させて頂くとしたら、第二条ですね。ドクターの怠惰で自堕落な研究姿勢は今後、ドクター生命活動すら危ぶまれます。故に僕の行動は原則に反しません。かつ、僕はロボットでは無いので、ロボット工学三原則は一切適用されません。自律し治療方針を選択するプログラムを組み込んだのはドクターですから、反論は正当かつ的確なものです。反論されたくなければ――」
「ん?」
「働け」
「……ちょ、ちょ! ひどくない! それ?」
「そういう言語がレポートに影響するのです。縮めずに、『ちょっと』と正しく発音することを推奨します」
「ぐうの音もでないわよ」
「ドクターの酔狂な研究に比べたら些細です」
「人を殺す研究より、人を生かす研究の方が楽しいに決まってるじゃ無い」
「時代のニーズはそうじゃないでしょう? 国家はそれを求めていない」
「そうだねぇ。悲しいけどね」
「人造兵器の作成依頼、機密電信できてますが?」
「愚かな話だねぇ」
「何を呑気な」
「人が人を殺す為に科学するなんて愚かじゃないか。少なくとも私は、人が人を癒す為に科学したいからね」
「はぁ。耳にたこができそうなくらい、それは聞きましたよ」
「真実だよ。命は育むべきものであり、奪うものじゃない。奪う者は奪われる覚悟をもつべきだ。戯れ言の自覚はあるけどね 」
「戯れ言の自覚あるんですか?」
「そりゃそうだよ。それで世界を回せたら苦労はしない。でも理想を語らなければホンモノは作れない。私のエゴだとしても、ね」
「自律した人造生物を創りあげたドクターですから、そこは豪語してもいいでしょうね」
「ふぅん」
「なんですか?」
「いや、やっぱり、あんたが可愛いなと思っただけ」
「酔狂ですよ、自身の制作物に投影すべき感情じゃありません」
「私がプログラムしたのに服従しない所がまたいい」
「自律プログラムですからね。最前の正しさを常に思考ルーチンに強要されるので疲れます。ドクターは負荷試験の一環として、常に僕を困らせる」
「結構、本心で話しているけどね」
「…………」
「反論、受け付けるよ?」
「何故にこの場で唇と唇を重ねるのか、理解に苦しみます」
「私にとってあんたは、単なる製作物でも実験対象でもないからね 。私はあんたで理想を語る。あんたはあんたの反論で理想を語ればいい。まぁ、俗物な言い方したら『愛してる』ってことでいいかな?」
「それは本当に俗物的な――」
「大事な事を伝える言葉ってのは、だいたい俗物的なものなんだよ。あんたが金木犀が好きなようにね」
____________________
(※)
アイザック・アシモフ(Isaac Asimov、1920年1月2日 – 1992年4月6日、
(中略)
短編集『われはロボット』(I, Robot, 1950年)、『ロボットの時代』(1964年)として出版された[110]。この作品群により、ロボット・人工知能の倫理規則(いわゆるロボット工学3原則)が世に広められた。
Wikipediaより引用
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