#2 百合が大嫌い
私の実家の庭にはいつも百合の花が咲いていた。母はそれに愛おしそうに水をやる。季節によってピンクだったり、白だったり、黄色だったり。母は百合の花が昔から好きらしい。私にも優しい里と書いてユリという名前をつけた。
私はこの名前が大嫌いだ。
別にキラキラネームなわけでもない。名前のせいでいじめられたわけでもない。ただ、母が望んだ優しい子供にはどうしてもなれなかった。学生時代には特別仲の良い友達は出来なかったし周りに合わせて行動する、つまり団体行動が苦手だった。誰かのために自分が犠牲になる、というヒーロー的概念も理解しがたかった。誰もが憧れたヒーローに魅力を感じたことが無かった。
そんな私は今、大人になって教育の現場に立っている。この職業を選んだ理由は公務員だから。私は安定が欲しかったのだ。5年前から教師を始めて、この春が初めての転任。段々、教師としての立場を確立してきた矢先での転任だ。ただただ、平和な学校である事を祈るばかりだ。
私は新たな職場で、優しい自分を演じることができるのだろうか。
大野優里。新たな職場のホワイトボードに大嫌いな名前を書き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます