現場状況

 次の日、店が定休日だと言うので彼が事務所に訪ねてきた。

ありがたい事に差し入れのお菓子を持ってきてくれた。

コーヒーを淹れ、お菓子を皿に盛った。

「さて、話を聞こうか」

彼はコーヒーを一口飲んで一息ついてから話始めた。


 この出来事を要約するとこうだ。

開店前には件のケーキは全て完成し、10個はカウンターに出され残りの10個は冷蔵庫に入れていたそうだ。

開店からしばらくし、最初に並べていたケーキは完売したので冷蔵庫から出そうとすると9個しかなかったという。

限定品という事もあり、残っていた9個も売り切れた頃に私が来店したと言う訳だ。

「全て売り切れた」とはっきり言えなかったのは、あと1つが忽然と消えたのが信じられなかったからだと言う。

 普段はキッチンでお菓子を作っているのだが、その日は彼の妻が電話の対応で忙しく、彼もカウンターに立ち接客していたそうだ。

なのでこの日はキッチンにあまり人目がなかった事になる。

 客がカウンターからキッチンへは入れないので、客に持っていかれたという事ではないだろう。

あり得るならば店の内部に出入り出来る内部の人間、そしてそれに近しい人間になる。


「質問だが、開店後の店に出入りしていたのは何人?」

「僕と妻と娘と……あと業者の人。4人だね」

「ふむ、ではその業者の人はキッチンに出入りしたかね?」

「いや、彼は店に荷物を運んだらすぐ帰ったよ」

「なるほどな、誰の仕業か分かったぞ」

思っていた以上に簡単だったのが拍子抜けだが、仕事の息抜きに丁度良いだろう。

「さすがだね、僕にはさっぱりだ」

「なに、その内本人から自白するだろう」

そう言ってお菓子を口に運ぶ。

うむ、やはり頭を使った後には甘いものが美味しい。

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