ワタシノネガイ


「次ハ、ワタシ。ワタシガ、叶エテ、モラウ番」


 この世の何より悍ましい声だ。掠れていながらもはっきりと聞こえるその声は、先ほどまでとはまるで別人のような印象を受ける。

恐ろしさの余り女子生徒は猫を抱えたまま一歩も動けなくなってしまったが、霊にとってそれは好都合だったと言えるだろう。

 霊は女子生徒にふわりと近づき、左手を伸ばす。その左手は猫をすり抜け女子生徒の体内に滑り込ませた。

女子生徒は氷より冷たい手が心臓辺りから全身に伝わっていくのが分かった。やがて自分の体内からずるりと何かが抜け落ちる感覚に襲われる。

不安定な足元、目の前に見える笑う自分の体。

ぐらりと視界が歪む。顔に手を当てるが顔に触れない。

それもその筈、触るどころか自分の手は青白い光をかき集めただけの姿になっていた。

どうして。と、女子生徒は大きな声を発そうとした。しかし声はおろか白い息すら出ない。

 すると、目の前に見える自分の肉体が口を開いた。


「アナタの替わりに生きてアゲル。だから、ワタシの替わりに死んデ」


そう言うと制服を着た彼女は抱えていた猫を置き、すっかり暗くなった商店街を歩き去っていった。

女子生徒だった者は、声も上げられず魚の様に口を開くだけ。

猫が寄り添おうとしてもすり抜けてしまう。

猫がにゃあと鳴いても撫でられない。

女子生徒は願いを叶えて貰うどころか全てを奪われたのだ。

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