第三話「ドラゴンを収納してみた」
「くそっ……! 私の力だけでは奴を止めることはできないか……!」
B級冒険者であるレイラ・トラットソンは、金髪を靡かせながら自身の武器である大剣を振り回し、ドラゴンの足を攻撃していく。
しかし、皮膚が頑丈なこともありドラゴンが歩みを止める様子は全く見られない。
「このままでは街にドラゴンが侵入してしまう……それだけは何としてでも避けなくてはならないのに!」
叫びながら大剣を振り回すレイラ。
彼女の頭の中では、先程ドラゴンから逃げ出した冒険者達の姿が浮かび上がる。
「(臆病者めが……我々がコイツを討たずして、誰がコイツを討つというんだ!)」
臆病者共が、と表情を歪ませる。
周りから生真面目な堅物と評されているレイラは、半ば強制的に殿を任されていた。
すると、ドラゴンの瞳がギロリと向く。
その強い威圧感に気圧され、レイラは思わず動きを止めてしまう。
「——ガアアッ」
「!? うっ……!」
先程から自分の足元を攻撃していたレイラ——鬱陶しい羽虫を叩くかのように、ドラゴンは尻尾でレイラの体を弾き飛ばした。
それでも尋常ではない威力と衝撃。
咄嗟に大剣でガードをしたものの、衝撃を殺し切れずそのまま地面を転がる。
「うう…………」
「ガルルル…………」
呻き声を漏らすレイラに、唸り声を上げながらドラゴンが近づいてくる。
そのドラゴンの口から見える牙や、口の端から漏れる炎のブレス。その様子を見たレイラの頭の中を、絶望の二文字が包み込んでいく。
「(ここまでか…………)」
「——『収納』スキル」
彼女とドラゴンの間に、一人の少年が割り込んで入ってきた。
* * *
「——『収納』スキル」
僕はそう呟くと、ドラゴンの体と布袋を押し当て『収納』する。
すると、パッとドラゴンの姿がその場から消え、代わりに布袋の中へ『収納』された感覚がした。
「…………は……?」
そんな声が女冒険者さんの口から漏れた。
いや、まあ驚くのは分かる。うん。分かるけど、一番驚いて興奮してるのは僕だ。
「(本当に……何でも『収納』できるんだな。まさか——)」
——まさかドラゴンまでも。
─────────────────
【アイテムボックス】
・攻撃(矢)×13 ・水筒×1
・ドラゴン×1
─────────────────
生き物も収納できるという事は把握していたけど、まさかこれ程の規模のモンスターでさえも『収納』できるなんて。
「ふ、ふひ」
「……ふひ?」
女冒険者さんの疑問の声が聞こえる。
おっといけない、あまりにも喜びを噛み締めすぎて変な笑い声が漏れてしまった。
「それにしても、あの大きなドラゴンを一瞬で…………倒した、のか?」
呆然とした表情で女冒険者さんが聞いてくる。
「いや、倒したわけじゃなくて……僕の『収納』というスキルで、この布袋の中に『収納』したんです」
「は? 収納だと!?」
驚きに満ちた表情で叫ぶ彼女。
まあ最初は信じて貰えないよな。『収納』スキルの尋常じゃない力を知らない内は。
「嘘を言っているようには見えないが……まさか本当に、その……布袋の中に『収納』したと?」
「本当ですよ——何なら見せましょうか?」
「む?」
見せましょうか、の意図をうまく理解できなかったのか、聞き返してくる女冒険者さん。
それに構わず僕は、布袋の中に『収納』したドラゴンを、もう一度布袋の外へ"取り出した"。
「——ガアアアアアア!!」
「う、うわぁっ!? ど、ドラゴン!?」
いきなり目の前に現れたように見えたのか、布袋から出てきたドラゴンに女冒険者さんは大層驚かれた様子。
何だか申し訳なかったので、早急にドラゴンを布袋の中へ『収納』した。
その瞬間、パッと一瞬で消えたドラゴン。流石にこんな光景を目の当たりにしては、信じるしかないようだった。
「なんと……貴殿のような強力なスキル使いは見たことがない……!」
「い、いやあ、それほどでも」
なんて謙虚な態度をとる僕だが、その表情は女冒険者さんの誉め言葉にニヤケてしまっていた。
「体の方は大丈夫ですか? 僕が向かう前に怪我を負っていたようですが」
「あ、ああ……マヌケにも奴の尻尾に弾き飛ばされてしまってな」
「え、ホントに大丈夫なんですか」
そう言いながら手を差し出す。
それを見て差し出された女冒険者さんの手を掴み、体を引っ張り上げ起こした。
「ポーションを使えば問題ない。薬剤ギルドから支給されている物があるしな。街に戻るまで我慢する」
「タフな人だな……」
「伊達に冒険者をやっていない。これでもB級冒険者なのでな」
「え、そうなんですか!」
本来冒険者の階級は、主に六つに分かれる。
一番高い階級が【S】で、そこから【A】【B】【C】【D】【E】と続いていく。
S級の冒険者なんて都市伝説みたいなものだから、ほとんどのベテラン冒険者がB級やA級だ。
そして彼女はB級冒険者……つまり、相当な実力を持った人ってことだ。
「失礼ですが、お名前は?」
「む、そういえば申し遅れていたな。私はレイラ・トラットソンという。今言った通りB級冒険者で、ソロで活動している」
「ご丁寧にどうも、僕はカイル・ファルグレッドと言います…………って、え? 何でソロなんですか?」
これは単純に疑問だった。
B級冒険者程の実力なら、どこのパーティーに参加しても問題なく活躍できるだろう。
なのに何でソロで?
「自分で言うのも何だが……私は生真面目というか、いわゆる"堅物"な性分でな。だから、他の冒険者とソリが合わんのだ」
ああ、レイラさんの言っていることは確かに分かる。冒険者という職業故に自由だから、彼らは基本的に性格が粗暴なのだ。
実際にはいい人もたくさんいるとは思うが、まあレイラさんのような生真面目な人とは確かに合わないだろうな。
「(あと、『収納』したドラゴンどうしよ……)」
どうしよう、真面目にどうしようか。
別の土地に捨てるわけにもいかないし、かといってこのまま布袋の中に『収納』し続けるのも、僕の精神衛生上よろしくない。
……まあ、あとで考えようか。
街に戻った後の僕に任せよう。
「とにかく、一旦街に戻りましょうか。僕も冒険者ギルドにいって早く冒険者登録をしたいので」
「そうだな…………今何て言った?」
「え、冒険者ギルドにいって早く冒険者登録をしたいので、って言いました」
「…………んん?」
レイラさんは何やら気難しい表情を浮かべる。
「そんな強いスキルを持っていて、実際にドラゴンを無力化できる実力者であるのに、まだ冒険者ではなかったのか?」
「えと…………まあ、はい」
「なんと…………」
貴殿はとことん私を驚かせたいようだな——と、レイラさんがクスリと笑う様子を見ていた僕。
場違いな感情ではあるけれど、何だかとても「綺麗だな」と思ったのは内緒の話。
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