第四話「ギルドで冒険者登録をしよう」
ルルクス王国の東に位置する、東の街ゴンドラ。昔から僕はそこに住んでいる。
比較的緑に囲まれており、モンスターの巣である山や森など、冒険者にとっては生活しやすい場所だ。
勿論冒険者ギルドも存在する。その他にも、錬金ギルドや薬剤ギルドなど、様々なギルドの支部が見られる。
他の街に比べて冒険者の人口割合も多く、ルルクス王国の中でも【冒険者の街】と言われている。
「冒険者ギルドに行くなんて初めてだから……何だか緊張するなぁ」
「そうだな……一応、その『収納』スキルでドラゴンを無力化した事は内密にしておけ」
冒険者ギルドへの道のりを歩きながら、レイラさんは言葉を続ける。
「ここ最近では比較的規模の大きいクエストだったからな。それをカイル一人だけで達成してしまったという事実が広まれば、良い意味でも悪い意味でも騒ぎになる。特に『収納』スキルの事だ」
レイラさんが言うには、僕の『収納』スキルは過去にも類を見ない程の強力なスキルとのことなので、悪用しようとする人間や組織に目をつけられてしまうかもしれないらしい。
「そうですよね、やっぱり…………」
「ああ。冒険者登録の時に所持しているスキルについて聞かれるが、その時には『アイテムをたくさん収納できるスキル』とだけ説明しておくといい」
確かに、『収納』スキルの本当の力のことは人に言わない方がいいか。騒ぎになるのは僕としても都合が悪いしね。
一応、レイラさんは僕のスキルのことを知ってるわけだけど…………まあ、この人は心配いらなさそうだ。
生真面目で堅物なレイラさんが、人の内緒を漏らしたりはしないだろうし。
そんなこんなで冒険者ギルドに到着した。
この街に住んでる以上、この大きい建物は嫌でも目に入るんだけど、実際中に入るのは初めて。
少しばかり緊張しながら、僕は扉を開ける。
「——ドラゴンが消えたって? どういうことだ?」
「いや、分からねえが魔法使いの奴らが皆言ってるらしい。『ドラゴンの魔力が急に消えた』ってな」
ギルドの中では、ドラゴンが急に消えた事について冒険者達が話し合っていた。
実際にクエストに向かってドラゴンを目の当たりにしている彼らにとって、その事実は信じ難い事のようだ。
「(やっぱり急に消えたら誰でも驚くよね…………でも、彼らの言っているドラゴンは——)」
この中に居るんだけど——と、僕は腰に紐で垂らしている布袋に目を移す。
まさか、この中にドラゴンが『収納』されているなんて思いもしないだろうな。
すると、ギルドに入ってきたレイラさんに気づいた冒険者達が、次々と口を開いた。
「れ、レイラ! 生きてたのか……!」
「バカ強えドラゴンに一人で挑みに行った時は、マジで死んだと思ったが……」
「ドラゴンはお前が倒しちまったのか!?」
「……私は倒していない。ドラゴンの攻撃で気を失って、気づいた時には奴の姿は消えていた」
レイラさんが上手く話してくれている内に、僕は受付の方に向かった。
「すいません、冒険者登録をしたいんですけど」
「——あっ、はい! 冒険者登録ですね!」
ドラゴンの件について考え込んでいたのか、僕の呼び掛けにハッと我にかえる受付嬢。
慌てて机の上の書類を片付け、冒険者登録の手続きの紙などを用意する。
「こちらの紙に必要事項を記入してください。その情報を元に"ギルドカード"を作成いたします」
「あ、はい」
用意された紙に、僕はペンで必要事項を記入していく。名前や性別、年齢や住所——そして、スキルの概要。
スキルの概要の欄には『収納』スキルと書き、レイラさんに言われた通り「バッグに物をたくさん保管出来るスキル」と説明書きを記入しておく。
「ギルドカードって何ですか?」
「他国間を行き来する際に提示する身分証明書のような物です。無くしてしまうと再発行で料金がかかるので、ご注意ください」
そう言いながら、作成が完了したギルドカードを受付嬢から受け取った。
おお……これがギルドカード。冒険者にとっての名刺代わりになる物だ。
「冒険者の階級について説明します。まず、一番上がS級で、そこからA~Eと続いています。たった今冒険者になられたカイル様は、必然的にE級冒険者となります」
「階級を上げるにはどうすればいいんですか?」
「階級を上げるには、とにかくクエストを達成し続けて、ギルドから昇級の許可を得ることが必要です」
なるほど、なるべくたくさんクエストを受けていれば、いつかは昇級するのか。
「以上で説明は終わりです。最初の内はなるべく自分の実力に合ったクエストをお選びください」
「わかりました」
そう言って頭を下げる受付嬢。
僕もそれに合わせて会釈をし、受付から離れた。
「レイラさん、登録が終わりました。これで僕もついに冒険者ですよ!」
「そうだな」
長年の夢が叶った僕は、溢れる興奮を抑えきれずはしゃぎながら言う。
それに対してレイラさんは落ち着いた笑みを浮かべる。端から見れば姉と弟のような光景だった。
「最初の内は、ソロじゃなく複数でクエストを受けた方が良い。経験が浅い内は、その方が受けれるクエストの幅が広がるし、何より死ににくいしな」
「そうですけど……冒険者に成りたての僕と一緒にクエストに行ってくれる人なんていますかね?」
僕は首を傾げてレイラさんに聞く。
「一人、心当たりがある」
「ほう?」
「その子は二つの強力なスキルを持つ、珍しい子でな。冒険者としての実力は申し分無いんだが……」
「? 何か問題が?」
言いにくそうに言葉を詰まらせるレイラさんに、僕は疑問の表情を浮かべる。
それに対しレイラさんは、重い口を開くように話し始めた。
「その……実力がある故に、基本的に自分より弱い者を見下す傾向にあってな……冒険者になって以来、未だにソロで活動しているんだ」
「…………」
よりによって僕の苦手な人種かい……。
強い人には憧れの感情を抱くけど、傲慢で偉そうな人は好きじゃないんだよなぁ。
「カイルは冒険者としての経験は浅くとも、S級——いや、SSS級の強さを持つスキルを持っているからソイツのお眼鏡に叶うかもしれない。だから、まあ何だ、一緒にパーティーを組んでやってくれないか?」
「あはは、それはちょっと」
「だよなぁ……やはりそうなるよな……」
肩をガックシと下げるレイラさん。
レイラさんも僕が拒否反応を見せるのは予想していたらしい。まあ誰でも嫌がるでしょうよ。
レイラさんはその性格だから、その魔法使いの人について嘘をつけないだろうし。今までそうやって勧誘して、何度も断られ続けたのだろうか。
「まあ、考えておいて欲しい。本人と会って話をすることで、気が変わることもあるかもしれないしな」
「い、一応考えておきます」
考えてみれば、その人以外に僕と一緒にパーティー組んでくれる人は居なさそうだし……会って話をするくらいは考えておこうかな。
そう思っていると、ギルドの扉が開かれた。
「あ、レオンさん!」
受付嬢がそんな声を上げる。
その声に、ギルド内の冒険者全員がギルドの入り口の方を向いた。
そこに立っていたのは、豪華な鎧を着ており腰には眩しく輝く両手剣を携えている、一人の男の人。
「遅れてすまない。ドラゴンを倒しに来た」
A級冒険者であるレオンさんがやって来た。
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