第二話「『収納』スキルの真の力」
あれからコメット村へ無事手紙を送り届け、家に戻った僕は、『収納』スキルの実験を始めた。
その結果、分かったことがいくつかある。
まず、バッグの大きさに関係せず、どんな大きな物でも収納することができた。
今まで手紙やパンなど小さな物しか入れたことが無かったから分からなかったけど、どんな大きさの物でも収納できるのは相当優れた能力だ。
「バッグの大きさに関係しないなら、これからは『布袋』を持ち歩こうかな。バッグ肩に掛けてると肩凝っちゃうし」
銅貨や銀貨、金貨を入れるような『布袋』を持ち歩くことに決めた。
手軽だし、布袋を持った腕を突き出して攻撃を収納する、なんて格好いいしね。
次に、『収納』スキルを発した布袋に剣を振ってみた。剣といっても木剣だけど。
結果はなんと、剣がそのまま収納されてしまった。いつの間にかスッポリと、手から木剣が無くなっていたのだ。
これは剣を扱う相手と戦う時に効果的かな。相手から剣を奪えるわけだし。
次に、魔法対策として火や水なども収納できるのかと実験してみた。
その結果、予想通り全て収納できた。火や水を収納するなんて、何だか考えにくいことだけど、問題なく布袋に収納できた。
放出するときも問題は無かった。
ただ、火の玉や水の槍とかではないので、迫力はそれほど無かったけど。
最後に、生き物の収納。
流石に人間を収納するのは怖いし、収納されてくれそうな人は周りにいなかったので、近くにいた野良猫を収納してみた。
結果は勿論収納できた。
布袋から放出した時も野良猫に異常は見当たらなかったので、生き物も"中"で問題なく生存できるらしい。
「それじゃ、実践してみようか」
そう思った僕は、冒険者がよくモンスターを狩りに行く山へ向かった。
幸い周りに冒険者はいなかった。
人目を気にせず思う存分スキルの実践を行えるので、ちょっと安心。
「さて、どこかに手頃な敵は……あ」
いた、と僕は視線をそちらに移す。
視線の先には、前にも遭遇したゴブリンの群れ。ただ前とは違って、今回は数が少し多い。
「まあでも、これぐらいの相手に勝てないならどの道冒険者はやっていけないよね」
そうやって自分を鼓舞する。
今まで郵便屋をやってきた僕からすれば、この数のゴブリンは絶対に勝てないと確信できる。それほどまでに脅威だ。
——でも、今は違う。
「じゃあ早速実践しようか……『収納』スキル!」
僕はそう叫び、布袋をゴブリン達に向けた。
一体何をしているのかと、目の前のモンスター達は困惑していることだろう。
そんなゴブリン達の反応に構うことなく、僕は布袋から奴らへ矢を放出した。
「——ギャ!?」
まさか布袋から矢が飛んでくるなんて思いもしないだろう。
完全に虚をつかれたゴブリンは動きが固まったまま、矢に頭を貫かれた。
「よし! まず一匹!」
嬉々としてガッツポーズをとる。
今の矢は、僕が予め布袋に収納したおいた物だ。山に向かう前に、戦いに使うための"攻撃手段"をいくつか布袋に『ストック』しておいた。
─────────────────
【アイテムボックス】
・攻撃(矢)×25 水筒×1
─────────────────
剣や魔法は使えないけど、こうやって攻撃することはできるのさ。
「よっ、と」
「——グ、ギャッ」
「アギャッ!?」
「ガッ、ギャ……!」
布袋から素早く矢を連続放出し、ゴブリン達を次々と討伐していく。
まだ20本ぐらい矢のストックがあるので、余裕を持って矢を放出できる。
「ギャギャギャ!」
「……っ!」
群れの中の一匹のゴブリンが、剣を持って僕に襲いかかってきた。
一瞬その殺気に怯んでしまったが、覚悟を決め、剣筋に布袋を合わせてガードした。
——勿論その剣は収納される。
手から突然剣が無くなったため、何も持っていない手で空振りをするゴブリン。
その隙を見逃さず、『収納』スキルで奪った剣を取り出し、ゴブリンの体を斬った。
「グギャアッ」
「残りは……っと」
剣を地面に投げ捨て、残るゴブリン達に布袋を向けて矢を放出する。
避けることすらできず、そのままゴブリン達は成す術無く倒れていった。
その場には全滅したゴブリンと、一人立っている僕だけ。
周りに誰もいないことを改めて確認し、僕は震える拳を握りしめ、小さくガッツポーズをした
「戦える……僕も、戦えるんだ……!」
冒険者としての夢を打ち砕かれ、泣く泣く郵便屋の仕事を選んだ。
けど、今こうして自分のスキルを使い、自分の手によって、モンスターを討伐することができた。
——戦力外なんかじゃない。
僕はこのスキルを駆使して、最強の冒険者になってやる!
——すると、木々の向こうから人間の集団が走ってくるのに気がついた。
「ん……? 何だ……?」
よく見てみると、走ってくるのは冒険者ばかり。その表情は恐怖で青ざめており、何か脅威的なモンスターから逃走しているのが窺える。
その冒険者の内の一人が、僕に気づいた。
「何やってんだお前! 何でこんなところに!」
「えっ……?」
「大規模な討伐クエストが行われるから、冒険者以外はしばらく街の外に出るなってギルドの通告を聞かなかったのか!?」
「通告……!?」
何だそれは、聞いてないぞ。
もしかして、スキルの実験に夢中になりすぎて、ギルドからの通告を聞き逃してしまったか……!?
「何くっちゃべってんだ! 早く撤退するぞ!」
「おい早く街へ行け! A級冒険者のレオンさんを呼んでこい!」
「お、おい! 奴がすぐ後ろまで来てるぞ!」
次々と冒険者達が走り抜けていく。
奴、とは何なのか。これほどの数の冒険者が逃げるようなモンスターとは一体——。
そして、ズシンと地面が揺れた。
「……まさか」
その図体は見上げるほど大きい。
目視で言うと、体長が25メートル、高さが3メートルくらいの大型の【ドラゴン】が、ゆっくりとこちらに向かって来ている。
「ドラゴン……この山の主か……!?」
ブルリと背筋が震える。
その威圧感はゴブリンの群れとは比べ物にならず、冷や汗が滲み出てきた。
「————!」
待てよ——と、僕は思考する。
よく考えて、よく吟味して、よく推測してから、ゆっくりとドラゴンのを方を見やる。
「僕の『収納』スキルなら……」
——何とか、できるんじゃないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます