1章 途切れた記憶と始まりの日

途切れた記憶と始まりの日 1

 目を開くと古びた天井が目に入る。

 鼻をつく薬品の匂い。ここは、病院だろうか。

 手に刺さる点滴を見ながらぼんやり思う。


 どうして自分は、点滴なんてしているんだろう。 


 きょろきょろと辺りを見回していると、看護服を着た女性に声を掛けられた。


「本庄さん、気が付いたんですね!?先生!本庄さんが目を覚ましました!」

 彼女が医師の名を呼ぶと、こちらに駆け寄ってきた眼鏡をかけた白髪の医師に目を覗かれる。

「身体に傷は無かったが、どこか痛む場所はあるかい?」

 ベッドで寝ていた身体を起こし、手や足を動かしてみる。

 特に異常はない。

「いえ、どこも痛くないです。それよりも・・・・・・」

 それよりも、この状況を説明して欲しいと医師に言うと彼は顔を歪ませ、

「辛いと思うが、落ち着いて聞いてほしい」

 そう前置きした後、耳を疑うような言葉を口にした。


「昨夜の事件だが、残念ながら君以外はみな亡くなったよ」


「じけ、ん?」

 手は尽くしたんだが、ここに運ばれてきた時にはもう・・・・・と医師の言葉を看護服の女性が引き継ぐ。

「でもよかった、あなただけでも無事で。クローゼットの中で気を失っていたそうなのよ、だから犯人に見つからず無事だったのね」

 一体何の話をしているのだろう。

 勝手に話を続ける彼らの言葉を、慌てて遮る。

「あの、待ってください。昨日の事件って何ですか!?」

 二人の目が、一斉に自分に集まった。

「覚えて、ないのかい?」

 そう言われ初めて気が付く。


 覚えていないのは、昨夜の記憶だけじゃない。


「なにも、覚えてない・・・・・」


 ―――昨日のことも、それから・・・・・わたしのことも

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