うたかた輪舞曲 ~下柳伯爵と迷子のヒナドリ~

靺月梢

プロローグ

「君は僕の婚約者なのだから。もっと、僕を頼りなさい」


 囁かれたその言葉はとても甘くて、優しくて。

 手を取ると、彼は優しく笑った。

 ステップを踏むような軽やかな足取りで、わたしを簡単にあの赤い場所から遠ざけてくれた。


 でも、と目の前の男と対峙する。

 わたしは向き合わなければいけない。彼を見ながら強く思う。

 あの日起きた惨劇は、決して新聞に載るような「悲劇」という言葉で済ませていい話ではなかった。

 これは、わたしの罪でもある。


「忘れてしまっていて、ごめんなさい」


 真っ直ぐに彼を見つめる。

 憎悪に満ちた目が、わたしを捕らえる。


 ―ああ。きっと、罰を受ける時が来たのだ。


「わたしを殺して」


 来るべき痛みを覚悟して、わたしは静かに目を閉じた。

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