第38話 聖女の守護者はここにいる(オリビア視点)
悪魔だけではなく、世界中の国家が私たち聖女を狙っている。
そう告げたシドに対して、ルカ君は堂々と言い切った。
「悪魔だろうと国家だろうと関係ない! 聖女の皆さんは僕たちが守る!」
ローブを翻し、背後の神殿の面々を示す。
「聖シルト大神殿はそのために百年の月日を費やしてきたんだ!」
「百年? あたしたちのために……?」
「そうです!」
ネオンへ、ルカ君は強く頷いた。
そして教えてくれる。
百年前、花売りの少女ジーナが傲慢の悪魔ルキフェルに取り憑かれた時、当時の聖シルト神殿は彼女を救うことができなかった。
過ちは繰り返さない。次に聖女が生まれたならば、必ず救いの手を届けてみせる。
その誓いは代々の神官たちに伝えられてきた。
対七大悪魔への対抗策はもちろん、聖女を利用しようとする各国の動きにも気づき、神殿勢力は対策を打ってきた。
たとえば陽動と攪乱。
実は神殿は今回だけではなく、過去に幾度となく『聖女』という言葉を用いた布告を大々的に行ってきたらしい。もちろん実際の『聖女』は生まれていない。偽りの情報を数年、十数年、数十年と積み重ね、各国を攪乱し続けたという。
もしも本物の聖女が到来したならば、大々的に布告をしてでも早急に見つけなくてはならない。遅れれば七大悪魔に取り憑かれ、衰弱死させられてしまうから。
でも布告をすれば、今度は聖女を狙う各国に気づかれてしまう。それを防ぐための攪乱だった。
帝国の軍勢が現れた時、ルカ君と大神官が『気づかれた』と話していたのは、今回の布告が攪乱ではないと気づかれてしまったという意味だったようだ。
「ネオンさん、ずっと黙っていてごめんなさい。でもどうか怯えないで。大丈夫、あなた守護者はここにいます」
頼もしい足取りでルカ君がこちらへ歩み寄る。
大神官や老神官たち、修道騎士らもその後ろで、ルカ君が手を差し伸べるのを見守っている。
「何があろうと僕たちがあなたを守りますから。善神シルトの名に懸けて、この誓いは絶対です」
「ルカっち……」
ネオンは一瞬不安げに俯いた。
でも私が背中をさすって促すと、やがてゆっくりと顔を上げた。
「信じていいの……?」
「ええ。もしこの誓いを破ったら、僕をネオンさんの好きにしてもらって構いません」
「……はは、そういう話なら悪くないかにゃー」
泣き笑いでルカ君の手を取り、ネオンはどうにか立ち上がった。
いつの間にか、悲観的な空気は消えていた。
神殿の面々には『必ずや聖女を守る』という覇気が戻っている。
「『……下らねえな。虫唾が走る。ひどい茶番だ』」
そう吐き捨てたのは、シド。
ルカ君は鋭い視線で振り返る。
「茶番? 人が勇気を振り絞って立ち上がることを君は茶番だっていうのか?」
「『立ち上がってなんになる? 俺があと一発でも竜骸戦車のブレスを撃たせりゃお前らは全滅なんだぞ?』」
「確かに苦しい状況は変わらないさ。でもだからこそ諦めないのが僕や……君の役目なんじゃないのか?」
「『あ?』」
シドの声の質が変わった。口調に強い殺気がこもっている。
ルカ君は怯まない。真っ直ぐに黒髪の少年を見つめる。
「君が僕を知っているように、僕も君を知っている。シド・ソーディン。その名を聞いた時から気づいてた。……もう一度訊くぞ。なんで君が悪魔なんて使ってるんだ!?」
「『うるせえ、黙れよ』」
「黙らない!」
杖を突きつけるようにし、ルカ君は詰問する。
「シド、君は僕と同じ善神に選ばれた、伝承の顕現者! ――魔王を倒すべき、勇者だろ!?」
彼が告げた言葉は、私たちにとってあまりに予想外だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます