第31話 拝啓、神様へ。生まれて初めておっぱい見ちゃいましたぁ!
ロッテさんのおっぱいを触るか触らないかの問題は、オリビアさんの鶴の一声で不許可になった。
触らせてあげる体勢で屈んでいたロッテさんは目を瞬く。
「なんだぁ、触らないのー? 男の子とエッチっぽいじゃれ合いとかしたことなかったから、一度してみたかったのに……うーん、残念」
そう言って立ち上がって――事件は起きた。
自分で持ち上げていた超巨大な下乳から手を離した瞬間、ブレスト・プレートが重みでガクンッとズレたのだ。
しかも金具が緩んでいたらしく、ショルダー・プレートとの連結部分が外れ、下の洋服まで巻き込んで落下する。
その結果。
「ありゃ~っ?」
洋服とレースの下着、それからスカートをビリビリに破き、ブレスト・プレートが床に落ちた。
甲高い金属音に振り向き、僕の目に飛び込んできたのは――お姉さんの裸。
重い鎧から解き放たれ、ロッテさんの爆乳がワガママ放題に弾んでいた。
ツンと尖った先っぽさえも風にさらし、四方八方にバウンドしている。
その自由さはまるで大空を舞う鳥のよう。僕は両目を限界まで見開いた。
「あ、あ、あ……」
叫びは魂の底から発せられた。
「僕、生まれて初めて女の人のおっぱい見ちゃいましたーっ!」
その衝撃はオリビアさんの人心掌握術さえ打ち破った。
ちなみに大神官様たちや修道騎士たちは良識ある大人として、瞬時にロッテさんから目を逸らしていた。
男性でロッテさんの裸体を見てしまったのは、色んな意味で若輩の僕だけだった。
その魂の叫びを聞き、オリビアさんは両肩をぷるぷるしている。前髪で隠れて表情は見えない。
「ふ、ふーん、ルカ君、そうなんだぁ……っ。大神官さんたちは目を逸らしたのに、キミはばっちり見ちゃったんだぁ……っ。初めて、初めてのおっぱいを、へえ、そう、ふーん……っ」
「王女様、怖い怖い。雰囲気が怖いって。あたしもルカっちの初めてを取り逃して悔しいけど、そこまで思い詰めなくてもよくね?」
「……むう、ルールカめ。ただ見たいだけなら、わたしに頼めばいいものを。大小などに捉われず、ちゃんとお願いしたら、わたしの清楚な蕾のようなおっぱいを見せて吸わせて噛ませてあげるのに、まったく」
「セシルンもさらっとすげえこと言うなぁ、おい」
ロッテさんは魅惑的な体を隠そうともせず、いまだに呆けている。
「わぁ、ルー君にぜーんぶ見られちゃったぁ。こんなことあるんだね~」
「ロッテさん! と、とにかく隠して! 僕のローブを貸しますから……っ」
「ありがと~。あ、ダメだ。ルー君のローブじゃ小っちゃくてぜんぜん隠れない」
「えっ!?」
「横からおっぱい丸見えだよ。ほら」
「わぁ!? 見せなくていいですから!」
「あはは、だって一度見られちゃったもん。もう何回見られても同じだよぉ。ほらほら、柔らかそうでしょ? 横から持ち上げると、ふにゃってするの。面白いよね~」
「お、面白いとか……っ。女の人のおっぱいが面白いとか高度過ぎて分かりません!」
あっけらかんとした態度に驚かされた。
無理をしている様子もない。一度見られてしまったらもう何回見られても同じだと本気で思っているみたいだ。
さっきの老神官様の説明では『奇跡の聖騎士』。
その名の通りに鎧をまとった、ロッテーシャ・クラウさんは天然過ぎて逆に危険なお姉さんだった。
「と、とにかく何か隠すものを……っ」
「……やれやれ。ルルーカ、慌て過ぎ。これ以上、その規格外のものをぶら下げられているのも目の毒。少しどいて」
見兼ねた様子でセシルさんがそばにきて、ロッテさんの前でパチンッと指を鳴らした。
その途端、破れていた服と下着が宙に浮いてロッテさんの体へ戻り、スカート共々、再生した。
ブレスト・プレートも同様でひとりでに宙へ浮き、金具にしっかりと固定される。
「え~、すごーい! 何これ、魔法? アタシ、こんなの初めて見るよー」
「……魔素を利用しようとする人間の浅知恵と一緒にされては困る。これは魔法ではなく神聖術。お前の服と装備の時を少し戻しただけ」
「セシルさん、時間操作まで出来るんですか!?」
「……さすがに限定的だけどね。知りたいなら今度教えてあげる。ルルーカならある程度修練を積めば会得出来るかもしれない」
「ぜひお願いします!」
「……尊敬する?」
「尊敬します! むしろ最初からずっとしてます!」
「……ならばいい。これからも肉奴隷のわたしを尊敬し続けるといい」
「それは尊敬できませんけど! むしろ改めてほしいですけど!」
「ねえねえ、ひょっとして君、エルフ? エルフなの?」
ロッテさんがほわっとした笑顔でセシルさんに近寄る。
「だからなに?」
「アタシ、エルフに会ったのも初めてだよ~っ。すごーい、初めましてー。服も直してくれてありがとね~」
ロッテさんは嬉しそうに握手をする。
が、セシルさんが秒で手を振り払った。
「……触るな。胸部に凶悪な凶器を装備している者はエルフの敵。西暦の時代からそう決まっている」
「え~っ、セーレキってなあに? よく分かんない。仲良くしようよ~っ」
ギンッと睨みつけるセシルさんと、敵意など物ともせずにまた手を握ろうとするロッテさん。
その横で僕は『西暦の時代にはエルフはいなかったはずだけど……』と思ったけど、もちろん口は挟めなかった。
しかし。
ふいに目の前に異常が起きた。
僕は驚いて声を上げる。
「ロ、ロッテさん!? 鎧のそれは……っ!?」
「ほえ?」
僕らの視線の先、ロッテさんの銀色の軽鎧に突如として――血のような染みが広がり始めていた。
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