悪女復活⁉︎ 3
すると、私とアウロス王子のやり取りを見ていたクラウス王子が、
「なるほど。商品を見出すのが妹で、広めるのが兄。兄妹二人の力でベルツ家の名は急速に広まった。妹のお陰とは、そういうことか」
「そう、そうなんです!」
「違っ……」
慌てて否定するも、時すでに遅し。
ヨルクが嬉しそうに返事をしてしまう。
「この前も思ったが、女性が関わるとは珍しいな」
クラウス王子が呟いた。女のくせに生意気だ、という印象を与えてしまった気がする。兄よ、少しは空気を読もうか?
嫌われるためには嬉しいけれど、商売上はよろしくない。レースはまだしも、この国のワインは製造から販売まで男性の仕事だとされている。王室御用達になるどころか、話が違うと追い払われてもおかしくない状況だ。
――あれ? ちょっと待った。
この前も思ったが、とは? ヨルクもさっき、以前も申し上げましたと言っていたような。
『お前が人前に出たくないことと、結婚せず隠居したがっていることをお話した』
舞踏会の翌日に王子と面会した兄からは、そう聞いている。まさか、それ以外のこともペラペラと? 私が膝の上で
「女性でも別にいいと思うけど?」
「そうだな、俺の言い方が悪かった。男女問わず有能な人材が力を発揮するのは良いことだ。優れた結果を生み出すのに、性別は関係ない。だが、その知識はどこで? 人前に出ず家の中にいたというのは嘘なのか?」
「正体を隠してお兄さんに同行していたの?」
二人とも、女性に対する偏見がないのはいいことだ。けれど私に関心を持つのだけは、やめてほしい。
「いえ。妹が屋敷に引きこもっていたのは本当です。恐らくは、書物で得た知識かと。話を聞いたり、父や私が持ち込んだ物を見たりして、助言をくれました」
「助言、とは?」
「兄様! もうその辺で」
せっかくのお茶が冷めてしまったが、のん気に飲んでいる場合ではなかった。商売の話をすっ飛ばし、私の話になっている。クラウス王子もアウロス王子も、食いつくところが違うのでは?
「どうした、ミレディア。落ち着きがないと両殿下を困らせてしまうよ? 申し訳ありません。いつもは礼儀正しく優しい子なんですが」
兄よ、どうしてそこで私を褒める? いっそのこと
「いや、構わない。それなら本人に直接聞くとしよう。ミレディア嬢、兄に助言をするほどの多様な知識をどこで習得した?」
非常にマズい展開だ。
クラウス王子に尋ねられて答えないわけにはいかないし、かといって真実を明かすわけにもいかない。「転生を繰り返すうち、自然に身につきました」と答えれば、即刻病院送りとなるだろう。
「な……なんとなく?」
困り果て、首を
兄が我が家の内情を話してしまっている以上、全否定するわけにもいかない。王子達が私に
「くく、やっぱり君は面白いね」
アウロス王子、今のどこに面白がる要素が?
「答えたくない、ということか。まあいい、それなら取引の話を始めようか」
深く追求されないようで、良かったわ。
ホッとして胸を撫で下ろしたのもつかの間、アウロス王子がとんでもない一言を放った。
「話をするなら相手の顔をきちんと見たいな。目を見なければ、真意もわからないしね?」
全員の目が、一斉に私に注がれる。
確かにそう、そうなんだけど……
まさかとは思うけど、今までのは前フリ? 私も家業に関わっているのだと、肯定させるための? 双子王子の連携プレーだとすると非常に恐ろしい。兄にも十分足を引っ張られていたような気がする。
前髪を上げるのを拒否すれば、取引の話自体がなくなってしまうのだろうか? 顔を
地味で病弱で不器量――せっかく広めてもらった噂が台無しだ。まあ病弱だというのは、舞踏会で元気よく踊ってしまった私自身が否定したようなものだけれど……
私は覚悟を決めると、うつむき下ろした前髪をかき上げる。邪魔な髪は商談の間だけ、髪留めで止めればいい。鏡で自分の美貌を見慣れている王子達なら、私の顔を見たくらいでいきなり好きだと告白しないわよね?
顔を上げて姿勢を正すと、私は王子達をまっすぐ見つめた。
「ほう、これはこれは」
「まさか、ここまでとはね?」
「申し上げた通りでしょう? ミレディア以上の女性には、まだお目にかかったことがなくて」
三者三様の反応。でも兄よ、それだとシスコンを通り越してただのバカでは? それに今、聞き捨てならない言葉を聞いたような。「申し上げた通り」って何? もしや前回、私の容姿についても触れているの? ヨルクを睨みつけても効果なし。兄はなぜか得意そうな顔をしている。
一方王子達は、私の容姿にそれほど興味はないみたい。それ以上言及せず、涼しい表情だ。それもそうよね? 二人とも綺麗な女性を見慣れているから、私の顔くらいどうってことないのだろう。
「さて、それでは。貴家との取引についてだが……」
女嫌いと噂のクラウス王子が、あっさり話題を戻してくれる。アウロス王子は目が合うなり微笑むけれど、この人はたぶんいつもこんな感じだと思う。綺麗に生まれ変わったからって、自意識過剰だったようね。王子達の前でも
反省した私は、お茶を淹れ直してくれた女官に笑顔で会釈した。ところが次の瞬間、クラウス王子の言葉を聞いて凍りつく。
「……ミレディア嬢を通して行うことにする。彼女が我々を納得させることができれば、契約することにしよう」
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