第4話 予想外の進化
闘わずして日本忍軍をまとめ上げた慎太郎達。
いざマリアナ海溝へ出撃しようと準備していた。
思いもよらない人物から書状が慎太郎に届いた。
手紙の主は、アメリカインディアンのアパッチ族のシャーマン、レイリー・ブレイクスという人物だった。
シャーマンの呪術で占っていた時、ワシントン州のセント・へレンズ山に邪神が誕生したのを感じたと。
そして、邪神退治は、日本の忍者の棟梁、霧隠慎太郎にしかできないという。
なんとか助けてはもらえないかという嘆願書だった。
『なんとまぁ、アメリカの占いにまで名前が出るとは。』
白雲斎は、自身の孫のことに驚きを隠せない。
手紙を読み終えた慎太郎は、玄関で、なにやら呪文を唱えている。
西の空の雲から、一塊の雲が慎太郎の前に飛んで来た。
その雲に乗ると、またなにやら唱える慎太郎。
雲は、孫悟空愛用の筋斗雲であった。
筋斗雲は、慎太郎の呪文に応え、とんでもないスピードで飛び出した。
慎太郎を乗せた筋斗雲は、飛び出して数秒で音速を越えて、さらに最高速度まで加速した。
筋斗雲の最高速度は、マッハ16にも達する。
わかりやすく、時速で言うと、
時速1万6千キロというとんでもないスピードだ。
龍門館道場の龍神池の庵から、なんと約30分でセントへレンズ山に到達してしまった。
忽然と姿を現した慎太郎に、嘆願書を出した、レイリー・ブレイクス自身が驚いた。
いくら忍者といえど、まさか雲に乗って空を飛んで来る、などと、おとぎ話のようなことは想像すらしていなかった。
『貴殿が、書状を下さったレイリー・ブレイクス殿でござるか。』
慎太郎、なせか流暢な英語で話している。
『そうです。が、あなたは。』
当然である。
慎太郎、まだ名乗っていなかった。
『失礼いたしました。
拙者、日本の忍者、霧隠慎太郎と申します。』
『なんと。
それでは、私の手紙が。』
『届きましたよ。
そして、それを読んで飛んで来ました。』
『しかし、それにしても。』
そう、早過ぎるのである。
たしかに、レイリーが手紙を投函して4日、到着してすぐ出発しても、空港でキャンセル待ちが関の山程度の時間である。
しかし、慎太郎は、筋斗雲で飛んで来てしまった。
『この雲は、マッハ16で飛べるでござる。
龍門館からここ、セントへレンズ山まで、8千8百キロですので、約30分の距離でござるよ。』
レイリー・ブレイクスとアパッチ族にしてみれば、とてもじゃないが、信じられる話しではない。
だいたい、人間が雲の切れ端に乗って、空を飛ぶなどということからして、普通ではあり得ない。
慎太郎が悪魔の手先ではないのかとさえ思ってしまう。
その時、セント・へレンズ山が大噴火を起こして、妖魔セリーヌが姿を現した。
妖怪のようでもあり、悪魔のようでもある。
その姿は、あまりにもオドロオドロしい。
レイリー・ブレイクスとアパッチ族は、恐怖で大騒ぎになった。
たまたま近くにいた、一般のアメリカ人を巻き込んでのパニック状態。
しかし、それでも勇気を振り絞って立ち向かおうとするレイリー・ブレイクスにアパッチ族だけでなく、一般のアメリカ人からも称賛の拍手が沸き上がった。
それを見ていた慎太郎が、能力を全開放して、援護したから、妖魔セリーヌはたまらない。
慎太郎の持つ能力は、大日如来の力、すなわちゼウスの力である。
妖怪やしたっぱ悪魔の程度では、太刀打ちするどころではない。
短時間も耐えることすらできるものではなかった。
慎太郎を中心に、レイリー・ブレイクスも含めて、神の輝きが包んだ。
一般のアメリカ人を含めて、アパッチ族とレイリー・ブレイクスは、すごくやすらかな、温かい光の中で、夢うつつになっていた。
『なんという絶大な力。
慎太郎殿、あなたは神様なのですか。』
レイリー・ブレイクスとアパッチ族には、慎太郎が全知全能のゼウスにしか見えない。
もちろん、間違いではない。
霧隠慎太郎には、大日如来・ゼウス・アラー・シバ神等々、地球上のありとあらゆる神々の力が手助けしてしまっている。
『レイリー・ブレイクス殿。
あなたのお力も拝借いたしたく。
出来うることなら、ご一緒に来て頂きたいのですが。』
もちろん、レイリー・ブレイクスに否やはあろうはずもなく。
二つ返事で了解した。
その直後、レイリーの後ろに巨大な虹が降りてきた。
そして、またアパッチ族とアメリカ国民が驚くことになった。
その虹をレールのように使って、ゴンドラが天から降りてくる。
ゴンドラには、月山宗幸、風磨小太郎、雑賀孫一、戸澤白雲斎の4人が乗っていた。
アパッチ族とアメリカ国民にとっては、もはや絵空事でしかない。
人間が、ゴンドラに乗っているとはいえ、虹を渡ってきたのである。
『レイリー・ブレイクス殿、紹介します。
出羽羽黒山忍軍の棟梁、月山宗幸殿・甲斐武田風磨一族の風磨小太郎殿・紀州雑賀一族の雑賀孫一殿、そして我が祖父にして龍門館の館長、戸澤白雲斎様でござる。』
『慎太郎、次からは、もう少し乗り心地の良いゴンドラを用意してくれ。
年寄りには、腰にキツい。』
『なんと、それでは皆さん、海を渡ってはるばる日本から、まさに虹の架け橋でございますなぁ。』
さすがに、レイリー・ブレイクスだけは冷静だ。
軽い冗談で、平静を装ってはいるが、心の動揺は隠しきれない。
『レイリー殿、儂もこの者達も、最初は、慎太郎に驚かされてばかりだったんでござるよ。』
戸澤白雲斎には、見抜かれていた。
慎太郎の力、それは大日如来、ゼウス、アラー、シバ等々地球上の神々が全て融合した力。
一歩間違えれば、地球ごと吹っ飛んでしまうほどのパワーを秘めた力。
慎太郎の性格と類いまれなる修行の賜物で、ようやく操れる力。
斉天大聖の生まれ変わりでありながら、乳児の頃から、血の滲む修行を積み重ねた慎太郎。
大日達神々は、近年のこのような状況を予測していたように感じる。
もしそうなら、こんなことになる前に神々の力でやっつけてくれたら良いと慎太郎は思うのだが。
魔物でも、実体のない者共には、打撃は効かない。
至極当たり前な答えが返ってくる。
戦士達に、一時の笑顔が沸き上がった。
霧隠 慎太郎 安龍堂 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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