第3話 暗闇の深海
日本列島の東。
太平洋の真ん中。
黒潮が流れるその下、約8千メートルの深海。
地球上で最も高いエベレストが、約8800メートル、そのままひっくり返したような深さである。
太陽の光も恩恵も届かない漆黒の闇の世界。
その南端、小笠原諸島からマリアナ諸島の横を通りグアム島にほど近くまで伸びる、地球上最深のマリアナ海溝。
なんと最深部は約1万90メートルにも及ぶ。
8800メートルのエベレストをひっくり返しても、その海底に届かないほどである。
その海底から、数年前に熱水の噴出が確認されるようになっている。
さらに、海底から採取された蛇紋岩に、付着していた有機物から、新たな生命体の存在が確認された。
生命体というだけで、哺乳類なのか、魚類なのか、爬虫類なのか、さっぱりわかっていない。
慎太郎のアンテナには、ヤバい雰囲気が伝わっている。
宗幸と小太郎が龍門館の龍神池の庵に集まっていた。
そこへ、白髪白髭の老人が、田舎者の漁師風の男を連れてきた。
田舎者の漁師風の男、意外に若そうだ。
少し遅れて、慎太郎が入ってきた。
『雅、悪いがお茶を。
お祖父様、その方ですか。』
相も変わらず、せわしない。
お祖父様と聞いて、宗幸と小太郎が飛び上がった。
『戸澤白雲斎先生でしたか、知らぬこととはゆえ、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。
出羽羽黒山忍軍の月山宗幸でございます。』
『私は、甲斐甲州の風磨小太郎でございます。』
2人の挨拶を聞いて、漁師風の若い男が。
『ご高名なお2方にお会いできて幸せです。
拙者は、紀州の雑賀孫一と申します。』
出羽・風磨・伊賀・甲賀・紀州と、日本を代表する忍の一族が、龍門館に勢揃いした。
『先日、ニュースにもなっていたが、南太平洋のマリアナ海溝の海底火山から謎の生命体の一部が発見された件ですが、非常に邪悪な、それもかなり危険でヤバい、気を感じるのでござる。』
一同、慎太郎の言葉に息を飲んだ。
邪悪である以上、護法魔王尊のような、良い魔王ではない。
護法魔王尊とは、源義経に武芸を教えた鞍馬山に降臨した天狗様である。
つまりは、魔王と呼ばれながら、神なのである。
しかし、マリアナ海溝の海底火山で見つかった生命体は、サタンまたはルシフェルに匹敵しそうな邪悪さだと言う。
『地球レベルの一大事ではごさらんか。』
孫一は、愕然としていた。
誕生した新たな生命体、歴史的魔王に違いなかった。
孫一にしてみれば、各地域の忍者の棟梁が集まっての宴会程度に考えていたのだが。
とんでもない方向に、話しは向いている。
『しかし慎太郎殿、そんな魔王に我々は、太刀打ちできるのでござろうか。』
孫一は、疑問に思っていた。
当然であろう。
深海1万メートルの水圧に耐え
、しかもその上、海底火山のマグマの中でも活動している敵なのである。
普通、人間には近づくことすらできない。
しかし、あろうことか慎太郎・宗幸・小太郎の3人は、平気な顔で話している。
その時、白雲斎に促されて孫一が席を移動して、慎太郎を見るように言われた。
そこで孫一が見た慎太郎は、大日如来の掌に座っていた。
しかも、慎太郎自身も黄金に輝いていた。
『白雲斎様。
慎太郎殿とは、いったい。』
その答えに孫一はさらに驚くことになるのだが。
『慎太郎は、大日如来様の化身となりおったんじゃ。
なんと全智全能の神の力を、全て受け継いでしまったのだ。』
魔王と対等か、もしくはそれ以上の力を有していると言って過言ではない。
それだけではなく、あろうことか、宗幸が磨莉支天の傍らに、小太郎も毘沙門天の傍らに控えているではないか。
『これは、慎太郎殿の力を借りているのでござるよ。』
宗幸が、孫一に説明した。
慎太郎の力により、宗幸と小太郎にも、神の守護神が着いたというのだ。
『孫一殿にも、誰か軍神の守護神を探しておりますよ。』
慎太郎は、あまりにも軽く話しているのだが、孫一には、まだ半信半疑である。
たしかに、慎太郎に神仏の守護神がついて、その力を利用できることは、理解できたが、自分にそんなことができるとは思えない。
『大丈夫でござるよ。
その力も、いっしょに贈る
でござるよ。』
慎太郎から、かなり信頼されているようだ。
これに孫一の心が震えた。
『慎太郎殿、我もお仲間に入ってよろしゅうございますか。』
これにより、孫一が統率する雑賀一族と根来一族が日本忍軍の仲間入りをした。
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