第2話 甲州の仲間

現在の静岡県の一部から山梨県にかけて、その昔武田信玄により治められていた、甲斐の国と呼ばれていた地域の山中、風磨と呼ばれる忍者の一団がある。

小太郎と呼ばれる棟梁が仕切っている。

この風磨小太郎の元に、来客があった。

月山宗幸である。

小太郎を霧隠の味方にしようという調略活動である。

これには、小太郎も驚いた。

 『出羽忍軍と言えば、伊達様の忍ですよね、その棟梁であるはずの宗幸殿が、何故霧隠の傘下に。』

宗幸にしてみれば、慎太郎の傘下に入ったつもりは、更々ない。

 『武田の忍として、勇猛を知られた、風磨の小太郎殿に、傘下に入れ等と失礼なことは言ってはおらぬよ。

我等の仲間になってくださらぬか、とお誘いしているのです。』

 『伊賀の霧隠慎太郎とは、それほどの術者ですか?』

小太郎は、当然半信半疑だ。

 『とんでもないですぞ。

 5年前、慎太郎殿がまだ10歳の時、すでに我が出羽一族随一の飛翔術の使い手、鴉天狗より速く飛んで、数十万に分身していた。

 天気すら操っていた。

筋斗雲を操り、空を自在に手なずけて、雷を起こして見せられた。』

 『いくらなんでも、それでは忍者等ではなくて。』

 『そうです。

霧隠慎太郎は、斉天大聖様の生まれ変わり。

天上人、孫悟空だったのです。』

 『なるほど、それで月山宗幸ほどの御仁が、仲間になれと私をお誘い下さるということですか。

しかも、単身でこの風磨の里に乗り込んで来られた。』

宗幸にしてみれば、それほどに風磨を大切に思っているということを示したかったのだ。

そのことに小太郎は喜んでいる。

その時、天空がにわかに一転して、雲で被われてしまった。

そして、大きな雷が落ちた。

月山宗幸が、外に出て。

『おいおい、慎太郎殿、なんちゅう派手な登場を。』

小太郎は驚き、外を凝視する。

山の木々の影から慎太郎が現れ、小太郎の前にひれ伏した。

『荒っぽい出現で、申し訳ございません。

風磨の小太郎様とお見受け致します。

拙者は、霧隠慎太郎と申します。』

小太郎も、慎太郎の前にひざまずいた。

その様子を見ながら、宗幸が

『登場が、派手過ぎますぞ慎太郎殿。

それにしても、雷に乗って来るとは、いつの間にそんなとてつもない技を習得なされた。』

宗幸が、不思議そうにたずねた。

『実は昨夜、不動明王様が夢枕に立たれまして、私を守護して下さるとお話しくださいまして、先ほどから突然、天空を自由自在に操れるようになりました。』

常識はずれな発言ではあるが、宗幸と小太郎は、常識はずれの現象を目の当たりにしてしまっている。

雷に人が乗って、空を飛ぶなんて馬鹿げた常識はずれを目の当たりにしてしまっている。

『ということは、慎太郎殿はもはや神々の領域に踏み込まれているということですな。』

月山宗幸と風磨小太郎には、霧隠慎太郎という、まだ15歳の少年忍者が神々の領域に足を踏み込んでいるという事実が理解できた。

事実は事実として、理解はできる。

が、しかし同じく少年忍者である2人には、なぜ自分にその力が備わっていないのかという苦悩にも近い。ほとんど嫉妬でしかない感情が沸き上がってもいた。

宗幸と小太郎は、顔を見合わせた。

 『いかがですか小太郎殿。

我らと共に、世界を駆け巡ってはくださいませんか。』

 宗幸の言葉も、もはや必要なかった。

この時、既に小太郎の腹は、決まっていた。

 『風磨忍者一統、お仲間の端に。』

慎太郎にしてみれば、そんなつもりは更々ない。

 『小太郎殿と宗幸殿と私、三本の矢になりましょうぞ。』

 『いやいや、三本の矢の話しは、三人兄弟への教え。

慎太郎殿は、我らの盟主として立って頂きたい。』

 小太郎の正直な気持ちから出た声だった。

 『そうそう、慎太郎殿は、あくまで我らの盟主でなくてはなりません。』

 慌てて宗幸も追従した。

2人にここまで言われて、断れるほど、慎太郎は大人ではない。

 『わかりました。

 呼び名は盟主でも、その実は義兄弟ということではいかがですかな。』

 『えらい頑なでござるな。

 では、ここは甲州の地でありますゆえ。

ワインで、固めの盃を。』

そしてここに、日本忍軍の中核が出来上がった。

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