2.ヒーロー

A「僕ね、ヒーローに憧れてるんですよ」

B「あっそう。僕はプリキュアになりたいけどね」

A「ちょっと反応に困るんですけど、やっぱ弱気を助け強きを挫く正義の味方ってカッコイイじゃないですか」

B「世の中そんなに甘くないよ」

A「話が全く進まないんで、僕がヒーロー役やりますから、Bさんは悪役をお願いします」

B「イジメですか?」

A「いや、イジメという言い方は語弊があるというか、これは漫才ですね」

B「君は漫才って言う程を装ってるけど、僕はイジメだと思ってるからね。そこんとこ気をつけて」

A「じゃあ、逆にしましょう! 僕が悪役やるんで、Bさんはヒーローお願いします」

B「ジャスティス、フォーエバー!」


A「強盗だ! 金を出せ!」

B「へい、らっしゃい! 今日は何にいたしやしょう!」

A「んー、そうだな今日はアジから握ってよ大将」

B「かしこまりやした! へい、赤巻貝青巻貝きまままままま!」

A「めんどくっさい! ちゃんとヒーローやってくださいよ!」

B「考えるより先に体が動いていた」

A「ヒーローインタビューだけ真面目か!」

B「いやね、いきなり銀行強盗とかスケールが壮大すぎるよ。もっと個人で対応できそうなのにして」

A「じゃあ学生の恐喝レベルにしますか? ちょっと金貸してくんない?」

B「…………」

A「金持ってんだろ? おら跳ねてみろよ」

B「…………」

A「なんだよ持ってんじゃねーか。さっさと出しとけば痛い目みねーで済ん……早く助けに来いよ!」

B「Aさん減点ね。はい次の方ぁ?」

A「演技力チェックしてる場合か! ヒーローやれ!」

B「おいおいおい、待て待て待てーい! 俺様がいる前でカツアゲたぁ、どうゆう了見だ!」

A「なんだコノ野郎? テメーが代わりに払ってくれんのかよ?」

B「いくらだ?」

A「え? じゃあ2万円……?」

B「ほら、こんな端た金で良ければ受け取れ!」

A「マジで? ど、どうも……」

B「さっさと俺様の目の前から消え失せろ! この社会のクズめ!」

A「ちょいちょいちょいちょい! そんな後味の悪いヒーローがいてたまるか!」

B「金で解決できるなら、それに越したことはないだろう」

A「それ悪人の思考だから!」

B「A君は暴力で物事を解決するタイプですか?」

A「言い方! ヒーロー物なんですから、そこは武力と言って頂きたい! 金の力に頼ってちゃ、いざという時に誰も守れませんよ?」

B「悪人なんてのは、要するに金が欲しいんでしょ? ほーら、いくら欲しいんだ? お前いくらだ! やらせろコノ野郎ーッ!」

A「趣旨が変わってる!」

B「考えるより先に体が動いていた。今は後悔している」

A「ヒーローインタビューのボキャブラリーが貧困すぎて、逆に犯罪者みたいになってる!」


B「分かった分かった、分かりましたよ。武力で悪者を薙ぎ倒して、弱者を守ればいいんでしょ?」

A「お願いしますよ? じゃあ次は金じゃなくて、悪の組織に捕まった仲間を助ける話にしましょう。ふっふっふ、こんな罠に引っかかるとは落ちたものよ」

B「…………」

A「何か聞き出そうってんなら無駄だぜ。俺は絶対に口を割らねぇ!」

B「…………」

A「その余裕がいつまで保つのか見ものだな」

B「え、何やってんの?」

A「漫才だよ!」

B「やいやいやい、助けに来たぜ相棒!」

A「性懲りも無く……者共、やってしまえ!」

B「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

A「あの、ちょ……」

B「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

A「やめろぉ! いくらなんでも殴りすぎだから!」

B「止めるなぁ! 殴りてーんだよ! とりあえず悪そうな奴を片っ端から殴らせろ!」

A「サイコパスか! あんたにヒーロー役は無理だ! 僕と代わってください!」

B「なんでやねん。どうも、ありがとうございました」

A「終われるか! この悪党め! 例え世界が許そうとも、僕が許さないぞ!」

B「なぜだ、私はただ社会のクズを減らそうとしているだけだ。こいつらは何の役にも立たないどころか、他人の足を引っ張る害悪だ。生きる価値もなければ、助ける価値も無い」

A「そ、それでも命は尊いはずだ!」

B「この世が平等ならな。だが世界は理不尽な格差に満ち溢れている。隣の国では何の罪も無い子供が飢えて死に、その隣の国では肥満の増加が社会問題となっている。狂気の沙汰だ。私が壊してやる」

A「もう僕の手には負えない! そういうボスキャラ的な奴じゃなくて、もっと一般人ぽい悪党を演じてください!」

B「お前なんか殺してやる!」

A「ちょっと待ったぁーっ! 皆さん、私が来たからにはもう安心ですよ。 そこの貴様! 人に迷惑をかける悪人は私が成敗してやる!」

B「うるせぇ! どうせ俺には何も無いんだ! 金も顔も仕事も学歴も、家族も恋人も友達だっていない! こんな世界どうなろうと知ったこっちゃねぇ!」

A「……だからと言って、人を傷つけていい理由にはならない」

B「だったら他人を助ける前に、俺を助けてみろよ! 俺に金も顔も仕事も学歴も、家族も恋人も友達もくれよ! 俺の人生って何だったんだよ! あれ、言っている内に涙が出てきたぞ?」

A「心の闇が深い! もう漫才やってる場合じゃないでしょ!」

B「僕はお客さん達を笑顔にしたいだけです」

A「素直に笑えるか! いい加減にしろ。どうも、ありがとうございました」

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