1789年のマリー・アントワネットに転生した普通の女子大生の私が致命的なあの失言を回避し生存ルートを探るという件
目が覚めたら私はマリー・アントワネットになっていた。
いかにも王女様っていう、ゴージャスの極みの部屋に執事?が入ってきたから、「今年は何年?」ってフランス語できいてみた。なぜ中国語を第二外国語に選択している私がフランス語喋れたのか分かんなかったけど、執事からは「今年は1789年でございます」と不思議そうな顔で、鼻歌でも歌うように告げられた。
実家から大学に通っている女子大生で、彼氏はいないとはいえ特に人生に不満じゃなかったのに、なんでマリー・アントワネットになんなきゃいけないの? 1789年っつったらすぐにフランス革命起きる年じゃないの! そんでこの人、断頭台に掛けられて殺されるんだよね?
ひいいいいいい!
私の生存ルートは? そうだ! 間違っても「パンがなければ」で始まる、自殺行為にも等しい失言をカマしてはいけないのだ! うっかり言ってしまったら殺される! このひと言さえ言わなければたとえ革命が起きても私は情状酌量されて命は助かるかもしれない! でももうこの人言っちゃってるかも? それだったらアウト……だよね?
確かめる方法を考えついた私はもっかい執事を呼んだ。何たらかんたらとかよく分かんないフランス語で!
「お呼びでございますか」
「うん。お前に聞くが、パンがなかったら何を食べたらいいと思う?」
「パンがなければ……ですか」
執事は難しい顔して考え込んでる。ってことは? アントワネットさんまだ、あの致命的な「パンがなければ○○○を食べればいいじゃない」を言ってないってこと? そうかまだ生き延びるチャンスはある!
「そうでした! 妃殿下いつもおっしゃってたじゃありませんか! 『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』!」
ひいいいいいい!
「その発言取り消し! 言わなかったことにしてお願い!」
何この男? 私の目の前で人差し指立てて「ちっちっち」とか言ってる! あんたそれ、21世紀の仕草でしょうが!
「駄目ですよ殿下。『綸言汗の如し』と申しましてな」
「それ東洋のことわざでしょ! フランスの執事ふぜいがなんで知ってんの!」
「さあどうしてでしょう? とにかく偉い人が一度口にしたことは取り消せませんのです」
「東洋の日本て国の政治家は『不徳のなんたら』って呪文唱えるだけで取り消せるんですけど!」
「その呪文はこの、1789年のフランスでは通用いたしません。残念でございましたな」
「お願い……言わなかったことにして!」
「だーめ」
なんだか窓の外が騒がしい。恐る恐る覗いてみた。あーやっぱり。でかいフォークみたいな農具や棒切れを持った民衆が下に集まって気勢上げてる。詰んだわこりゃ。でも、一縷の望みをかけて私は悪あがきをした。執事に聞いた。
「ねえ、これ何? 暴動?」
「いいえ、革命でございます」
「ひいい!」
「ひいひいうるそうございますよ。お覚悟なされませ」
「殿様に切腹を迫る家来みたいなこと言ってんじゃないわよ! さっさと追っ払って!」
「無理ですなあ。なんせ革命ですから。もしなんでしたら、他の呪文を使ってみたらいかがです?」
「何よそれ」
「お心当たりはありませんか?」
このクソ執事に言われて、必死で私は考えた。そうだ、今どき「不徳のいたすところ」なんて殊勝な言い草は日本でも流行らない! 今トレンドは「誤解を招いたことは大変遺憾に思う」だ!
私は妃殿下の威厳を取り戻し、胸を張って執事に命じた。
「分かりました。下々の者に、このわたくしが直接言葉を掛けましょう。準備をなさい」
「ははーっ!」
私はテラスに出て、民衆どもを見下ろした。そして女王然とした態度で語りかけた。
「皆の者。私はパンがなければなんたらと言ったが、誤解を招いたことは大変遺憾に……」
「バッカヤローこのクソアマ何言ってやがる!」
「遺憾もクソもあるかバカタレ!」
「あの女引きずり下ろせ! 八つ裂きにしろ!」
全然効かない! ひいいいいいい!
私は捕らえられ、なんやかんやいろいろあったけど高校で習った通り断頭台に掛けられ首を落とされた。
怨霊になった私は、本物のマリー・アントワネットが私を身代わりに21世紀日本に転生して難を逃れ、女子大生として青春を謳歌していることを知った。
そしてサークルクラッシャーとして君臨し、男たちから女王の如く崇め奉られ恐れられていることも。
おわり
(「小説家になろう」で2017年11月2日公開)
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