健全極まりない男になって町に出た
俺は健全極まりない男になって町に出た。
どう健全なのか。愚問だ。不健全なあれこれを遠ざけて清い体になったのだ。不健全な享楽を遠ざければきっと幸せがやってくる。そう考えて1カ月、ひたすら健全に生きてきた。
いい天気だった。制服姿の女子高生。輝く青春。スカートから伸びる健康そうな太もも。これを健全と呼ばずして何というのだ。あの太ももを、熱き血潮が流れている。流れて渦を巻き、青春の情熱をたぎらせているのだ。その情熱の矛先が、健全極まりない男である俺を、さんさんと降り注ぐ太陽の下で見いださないと誰が言いきれようか。
俺は微笑しながらス○バの屋外席に腰を下ろす。テーブルではキャラメルマキアートのトールサイズが湯気を立てている。目の前を行き交う女子高生を、俺は鑑賞する。みな、成熟へ向かって一直線に突き進んでいるみずみずしい果実だ。齧れば果汁が口の中にじゅわっと広がるだろう。想像するだけで俺の口腔に唾液が充満する。
君たちよ。溢れる君たちの果汁を、惜しんだりなどしてはいけない。俺の唾液と君の果汁を混ぜ合わせて、天上の美酒に仕上げようではないか。俺は、それを君の口の中に注ぎ込んで酔わせてやりたい。アルコールは未成年にはry関係あるかそんなの。美酒を若いうちに味わわずしてどうするのだ。青春は儚い一瞬の夢。
さあ。俺と一緒に美酒を味わおう。青春の快楽に骨の髄まで酔い痴れよう。老い朽ちていく日々のことなど考えるな。君も俺も、「今、ここに存在するということ」がすべてなのだから。
おいで。
おいで。
女子高生たちは目の前を通りすぎていった。
やがて、青い服を着て帽子を被った男が近づいてきた。
「失礼します。身分証明書を拝見します」
分かっている。こうなるのは至極当然なのだ。俺は彼が求めている、世にもつまらぬ紙片を差し出した。
「恐れ入りますがご同行願います」
青い服を着た男が何か言っている。人はこれを「現実」と呼ぶが、俺は認めない。これは現実ではない。俺の現実は目の先にあるあの世界だ。青春だ。享楽を遠ざけ、健全極まりない男になった俺はすでにあの世界にいる。
おわり
(「小説家になろう」で2016年12月5日公開)
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