第55話




 着地する寸前に、スライムが自身の身体を広げてクッションのようにすることで、落下の衝撃を和らげて悪魔騎士とともに着地した。

 とはいえ、両者 既に負傷していたため、着地は完璧と言うわけにはいかなかった。

 特に悪魔騎士の方は落下の衝撃で傷が開いてしまった。

 流れ出す鮮血に呻き声を漏らすが、しかし彼は その痛みに耐えて自分の懐から何やら人形のようなものを取り出し、更に その人形に自分の血液を塗りたくった。


「時間稼ぎくらいは、しないとな……」

「ごぼぼ!」




 悪魔騎士とスライムが地面に降りるのは黄太郎達にも見えていたが、地面に降りてからは暗くて良く見えなかったため、彼らは そのまま車を走らせていた。



「仲間を降ろした……いや、仲間が降りたのか? どっちにしろ、二手に分かれたな。多分 足止めが目的だと思うんですけど」

「だろうな。さて、どう来るか」


 黄太郎の言葉にメアジストが答えた直後、車のヘッドライトが垂らすその先に――。

 一体の巨人が現れた。


「うおおおおおおお!? 何だ、これは一体!?」


 突如として現れた巨人に、メアジストが驚愕の声を上げる。

 だが、事態は そこで止まってくれるわけではなかった。

 巨人は右腕に一本の剣を握りしめていたのだ。


「メア先輩!! 何とか逃げ――」

「ダメだ!! かわしきれるスペースが無い!! 車を捨てろ!!」


 畑道には巨人が横薙ぎに払う大剣を かわしきれるほどのスペースはない。

 アザレアとメアジストはドアを開けて小麦畑に飛び込み、車の屋根の上に乗っていた黄太郎は そのまま跳躍して車から離れた。

 直後、巨人が放った横薙ぎ一撃によって彼らの乗っていた自動車は 空高く舞い上がった。

 ――ゴシャああああ!! と、鈍い音を立てて自動車は数メートル以上 弾き飛ばされた。結界を張っていたため 車体のダメージは小さいが、とはいえ単純な運動エネルギーはシャレにならない。

 自動車は そのまま何度か地面をバウンドして小麦畑を荒らしに荒らしてから、ひっくり返った状態でやっと止まった。


「うげ、ぺっぺ! 泥なめちゃったのです! ……というか、これはゴーレムなのですか!? 面倒な!!」

「こんなものを持っていたか。……これは、面倒だな」


 何とか攻撃を かわしたアザレア達が そう呟いた。

 ゴーレム。

 RPGなどでもよく見る敵キャラだが、実際に戦うとなると かなり厄介だ。

 身体は硬い粘土質の岩石で出来ているため防御力は高く、非生物の人形であるため痛覚もないので痛みに怯えることもない上、術者の命令にも忠実だ。


(その上、私もアザレアも こういうサイズの大きな相手は苦手だ)


 アザレアもメアジストも、基本的に固有魔法は『圧縮』型、つまり巨大な破壊は苦手だ。

 一応メアジストの赤紫剣クリヤキンは攻撃時に相手に衝撃を与えるものなので分類上は『開放』型になるのだが、しかし破壊ではなく拘束に特化した能力なので、ゴーレム相手には決定打には なりにくい。


(しかも、あの剣は……スライムか。本当に面倒だな)


 ゴーレムが握りしめる剣は先ほどのスライムが刃状に変化したものだ。

 様々な形態に変化できるのがスライムの強みの一つだが、まさか あんなことまでできるとは。


「ここから先は……そう簡単には通さないぞ」


 息も絶え絶えに そう告げるのは、先ほどの悪魔騎士だった。

 腹を押さえ、血を流しながらも その眼光は死んでいない。



「……気合を入れろ、アザレア」

「もちろん、分かっているのです」


 二人はそれぞれレイピアと槍を構え、ゴーレムに相対した。

 が、そこでアザレアが気づいた。


「あれ……乱場さん達は?」


 その言葉が聞こえると同時だった。

 ――ぴんッ! と、何か小さな音が聞こえた。

 彼女たちが音のした方に視線を向けると、その先にはゴーレムの肩の上に しゃがんだ黄太郎の姿があった。

 一体なにを? そう尋ねる前に、黄太郎は自分の左手に握っていた黒い球体を、ゴーレムに打ち付けた。

 ――きんッ! という甲高い音がしたかと思うと、黄太郎は すぐさま地面に飛び降りメアジスト達の目の前に着地すると。


「瓦礫が降って来るので気を付けてください」


 と、そんなことを言った。

 メアジスト達が その言葉の意味を理解する前に、ゴーレムの胸部が内側から爆発した。

 轟音とともに瓦礫をまき散らし、胸部が吹っ飛んだゴーレムは、両腕と頭部を地面に落とし、そのまま倒れこんだ。


「……は?」


 その呟きは誰から漏れたのか、呆気に取られた声が聞こえた。

 だが周囲の反応とは裏腹に、黄太郎は あっさりと言ってのけた。


「ゴーレムの身体と手榴弾を一体化させました。どんなに硬かろうがデカかろうが、内側から爆発すれば壊れるでしょう」


 






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