第54話
前を走っていた悪魔達の乗る自動車が爆発・炎上し、かつて車だった残骸が空高く舞い上がる。
しかし それだけでなく、空に立ち上る炎の中から何か大きな黒い影が飛び出した。
それは、思った通り悪魔達だった。
意図的に炎魔法で爆発を起こした悪魔は、スライムと悪魔騎士を抱えつつ爆風を利用して空高く跳躍、更に空中で蝙蝠のような羽根を広げ、空を飛んで逃げようとした。
「――逃げられる!! 追え、影燕!!」
召喚しておいた影燕を利用し、空を飛んで逃げようとする悪魔を追わせる。
少なくともこれで見失うことはないが、しかし追いつけるかどうかは別だ。
空を飛んで最短距離で逃げられるならば、当然そちらの方が速い――。
(と思ったが、なんかおかしいよな?)
という当然の疑問が黄太郎の頭に浮かんだ。
飛んで逃げたほうが速いなら、なぜ最初からそうしなかったのか?
考えられる可能性は幾つかあるが、まず一つは仲間がいたからだろう。
あの悪魔騎士のほうは同じ悪魔である以上 飛行能力を有していたのかもしれないが、黄太郎が腹に刃を深々と突き立ててやったので、飛ぶ以前に動けなくなった。
加えて、スライムはそもそも飛行能力を有していないだろう。
だからこそ転移魔法で行き来しようとしていたのだ。
そして二つ目の理由は追手側も攻撃しやすいからだろう。
なまじ市街地を走られると、こちらも攻撃しにくい。
洋画のカーチェイスは当然のような顔をして一般人の乗る自動車を巻き込み、無関係なビルに突っ込むが、実際に そんなことをすれば無関係な一般人を棺桶に放り込むことになってしまう。
そう易々と周囲を巻き込むことはできない。
一方で、飛行での逃亡なら空に向けて火炎魔法や その派生である爆発魔法を撃っても精々が騒音被害で済む。
特に、リンボーンがケッパンの逃走対策に街のあちこちに遠距離攻撃の可能な魔道具を装備させた兵士達を配置していたので、下手に街中で飛んでいたならば そのまま撃ち落とされていた可能性もある。
(じゃあ逆に考えるべきだよな。
空には照明弾が打ちあがっているため、視界はそれなりに確保できる。
また、兵士が居なくなったとはいえ、黄太郎は追走してきている。
「『フレイムフラワー』!!」
アザレアの放った小さな火球が、尾を引きながら空に昇っていき やがて空中で花弁を開くようにして爆発した。
――ドォッ!! と爆発音が響き、空に散った火炎が悪魔達を襲う。
「ぐぅ!?」
身を焦がす炎熱に、悪魔は思わず呻き声を漏らす。
空を飛ぶなら手加減せずに済むのはアザレアも同じだ。
周囲に被害を及ぼす可能性がなければ躊躇いなく爆発魔法を放てる。
その可能性を悪魔達が考えなかったというなら、それは いささか間抜けだ。
(つまり、それを踏まえて なお飛んで逃げるメリットの方がデカかったってことだよな)
前髪をかきあげてから、黄太郎は運転席のちょうど真上の車の屋根をゴンゴンと叩いて、メアジストに声を掛ける。
「メアジストさん。あの悪魔達の飛ぶ方向、数百メートル以内で何があります? 悪魔達の拠点か何かがあるかもしれない」
「……農業用の ため池と、それを覆うような林がある。だが、管理小屋のような拠点に場所はないし、農家の人達もそれなりに訪れる場所だ。悪魔達の拠点になっている可能性は低いと思うが?」
「じゃ、ため池の底に何らかの方法で居住空間を作って、彼らがそこに潜んで虎視眈々と隙を伺っている可能性はありますか?」
「……!! なるほど、土魔法や水魔法・風魔法を混合させれば 水の中に拠点を作って潜伏することは可能かもしれない。見たところ、奴らの魔法はそれなりの高水準だ。一晩の内に ため池の中に拠点を作っていれば、人間に気付かれずに我々に関する情報の収集が出来るかもしれん」
「なら、恐らく奴らは そこに向かってるんじゃないでしょうか?」
「……同意だ。アザレア、そこに辿り着かれる前に撃ち落とすんだ!!」
「はい、分かっているのです!!」
アザレアは そう答えつつ、更に『フレイムフラワー』を連発することで夜空に花火のような火炎を まき散らす。
悪魔は何とか直撃は避けているものの、それが何時までも続くわけではないだろう。
事実、彼の広げる蝙蝠のような羽根の あちこちには炎熱による火傷の跡が見える。
「ぐッ!! もう少し、拠点までもう少しなのだ!!」
そして、その光景は手負いの悪魔騎士もスライムも見ていた。
「……」
「……ごぼぼっ」
彼らは互いに顔を見合わせると、小さく頷きあい、同時に悪魔の元から飛び降りた。
「な!? 貴様らは何を!?」
「相変わらず、隊長は人が良すぎです。我々が時間を稼ぐので、隊長は急いで任務を果たしてください」
「ごぼぼ!!」
そう告げて、彼らは地面に落ちていった。
悪魔は一瞬 逡巡したが、しかし ここで時間を無駄にすることが、なによりも彼らの意思を無碍にする行為だと分かっていたので、彼は風魔法によるブーストを発動して更に加速し、目的地に急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます