第52話 カーチェイス③






 

 アザレアの放った炎弾を、スライムは空中に展開した水のバリアで防ぎ、更に筒状に変化させた自分の身体から、黄色い液体を発射する。


「――ゴボゴボ!!」


 スライムの発する音を聞いても意味は分からないが、彼が発射したのは『アシッドショット』。極力な酸性の毒液の弾だ。

 人間が受ければ皮膚が爛れ肉が溶ける。


「『ファイアショット』!!」


 スライムの放った酸性弾を、アザレアが空中で撃ち落とす。

 炎弾を受けて空中で爆発した酸性弾が辺りに飛び散り、地面を焦がし、独特の鼻に来る匂いをまき散らすが高速で走り抜ける軍用車は その刺激臭を置き去りにして行く。


「チマチマしてると埒が明かないですね。……テーラー、『い‐1』」


 と言うと、車の屋根の上に立つ黄太郎は、肩を回しながらテーラーに指示を下した。

 すると、彼の前に一本の巨大な杭が現れた。

 四木々流陰陽術・下位攻撃術式“玉髄ぎょくずい”である。

 見た目通り、敵に物理的な攻撃をするための杭である。


「じゃ行くぜオラァ!!」


 空中に浮かぶ杭に対し、黄太郎は鉄雅音を振りぬき、スライム目掛けて杭を弾き飛ばした。

 甲高い音を立てて弾かれた杭に対し、スライムは水のバリアで身を守ろうとするが、力を一点に集中させる杭に対し、水のバリアでは相性が悪い。

 杭はバリアを貫き、そのまま後部座席を貫通して助手席のシートにまで突き刺さった。

 その衝撃で車が一瞬 傾く。


「うおお!? 大丈夫か!?」

「ごぼぼっ!!」


 悪魔の言葉にスライムが動揺したように返す。

 このままでは長くは持たないだろう。

 だが、目的地はまだ先だ。


「……結界魔法・発動」


 しかし そこで、意識を失っていたはずの悪魔騎士が そう呟き、車の後部に結界を張った。


「なッ、お前!! 身体は大丈夫なのか!?」

「も……問題ありません、隊長。結界くらいなら、張れます。隊長は、運転を……」

「……ああ、分かった」


 息も絶え絶えに そう返す部下に頷き、悪魔は更にアクセルを踏み込んだ。

 まだ目的地に向かうには少し掛かる。


「生意気に結界 張りましたね。見た感じ、あの悪魔騎士が張ったんでしょうか? 死にぞこないめ、トドメを刺すか」

『黄君、完全に悪役みたいだよ』

 

 

 などと言われつつも、黄太郎は更に杭を弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた杭は、ガキン!! と硬質な音を響かせ、結界に突き刺さりはするが、それ以上は深く刺さらない。


「チッ! 硬い!! ――ディングレーさん、どちらはどうなっていますか?」


 時間が掛かりそうだと判断した黄太郎は、そこで一度リンボーンに連絡を入れる。

 ブレスレット柄の通信機越しに、彼の声が聞こえてくる。


『ああ、対応はしてらぁ。恐らく連中は南門から出るつもりだろうが、既に封鎖済みだ。だが、問題は――』


 と、リンボーンが言いかけたところで。

 ――激しい閃光と爆発音が響き渡った。


「……破壊魔法:ハードブラスター」


 口から煙を吐き出しながら悪魔は そう呟き、街の外壁に開けた巨大な風穴に車を突っ込ませ、街の外に飛び出していった。

 彼らとて出入り口を固められているのは理解している。

 ならば壁に新しい出口を作って出ていけばいいのだ。


『あー、壁に穴を開けられると困るって言いたかったんだがなぁ。先にやられたか』


 通信機から、そんな間の抜けた声が聞こえてきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます