第53話 カーチェイス④







 

「とりあえず後を追う!!」


 そう叫んで、メアジストもまたハンドルを切って壁に空いた大穴から街の外に飛び出す。

 砕けた瓦礫を踏んで乗り越えた所為で車体がガタガタと揺れるが、そんなことを気にしている場合ではない。


「リンボーンさん!! どうするんですか!? このままじゃ逃げられますよ!!」

『分かってんよぉ』


 リンボーンの間延びした返事が返ってきた直後、黄太郎達の背後――つまり先ほど通り過ぎたばかりの城壁のほうから、何やら風を切るような音がしたため、黄太郎が背後に視線を向けると、そちらには空へと昇る幾筋かの光が見えた。

 どうやら守護兵団の兵士達が放った魔法の矢であるようだ。


「あれは……」


 黄太郎が目を凝らしていると、その光はやがて空中で花弁を広げるようにして開き、空中で大きな光球となった。


「照明弾か!」

『おーよ。とりあえず これでちっとは見えやすくなったろ? 俺の部下も後を追わせるし、俺も向かう。俺達が追い付くまで逃げられるなよ?』

「だそうですよ、エトレットさん!!」

「分かってるさ!!」


 照明弾によって照らされたため、本来は街灯のない夜の田畑も明るく照らされる。

 特に今は農業地区で光を遮る高い建物がないので、前を走る悪魔達の自動車も良く見える。


「ギンガニアさんは牽制を! 俺が結界を叩き割ります!!」

「任せるのです!!」

『黄君、気合入れるよ!!』


 黄太郎はテーラーに指示を下し、再度“玉髄”を発動し、鉄雅音で弾き飛ばす。

 ――キィン!! と音を立てて弾き飛ばされた杭は結界に深々と突き刺さるも、しかし結界はそれ以上は砕けることもない。

 単純に硬いというのもあるが、それ以上にヒビが入りにくいのが面倒だ。

 杭は刺さるが、それ以上の破壊が困難である。

 いわゆる防弾ガラスに近い性質があるようだ。

 だが、一発目の時点で黄太郎もそれくらいは気付いていた。


「やっぱ玉髄は精確な狙撃には向いてないな。ま、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるだろ」


 と言いつつ、黄太郎は更にもう一発の玉髄を弾き飛ばした。

 今度の一発は、最初に打った玉髄を掠めるようにして結界に突き刺さった。

 その結果、最初の一発目の玉髄は結界に より深く突き刺さった。


「ごぼごぼッ!?」

 

 そして それによってスライムは黄太郎の狙いに気が付いた。

 アイツは、既に突き刺さった杭に、更にもう一発の杭を打ち込むことで結界に風穴を開けようとしているのだと。


「ごぼぼぼぼぼ!!」


 そうはさせぬと言わんばかりに、スライムはアシッドショットを連発し、車の屋根の上に立つ黄太郎の動きを阻害しようとする。


「『ファイアシールド』!!」


 しかし その攻撃はアザレアの作った炎熱の壁によって阻まれる。

 その間に黄太郎は更にもう一発の玉髄を放った。


「オラあッ!!」


 そして今度の一発は、既に結界に深く突き刺さっていた一発目の玉髄をピンポイントで打ち抜き、結界を完全に貫いた。


「ごぼぼぼ!!」


 しかし咄嗟に、スライムが自分の身を盾にすることで玉髄の攻撃を抑え込んだ。

 粘液状の自分の身体を使って杭を受け止め、衝撃を緩和させることで致命的な一撃を防いだのだ。

 事実、スライムが ここで体を張らなければ、後部座席に横たわる悪魔騎士に玉髄が突き刺さり、彼は今度こそ絶命しただろう。


「ごぼ……ぼ!?」


 だが その代償は安くない。

 単純な物理攻撃には強いスライムだったが、しかし玉髄をまともに受けるべきではなかった。

 玉髄は陰陽術によって作られた杭であり、破魔の力を宿している。

 単純な物理ダメージは受けずとも、魔族であるスライムが破魔の力を受ければ徐々に生命力を削られていく。


「……ご……ぼぼ……」

「な!? お前もか!?」


 徐々に力を無くしていくスライムの姿に、ハンドルを握る悪魔も狼狽する。

 流石に部下を二人とも失えば、もう逃げきれないだろう。


「……よし、この距離なら そろそろ行けるだろう。二人とも、気合を入れろよ!!」


 と言うと、悪魔は懐から二枚のスクロールを取り出し、魔力を込めた。

 一枚目のスクロールは『シャドウ・テンタクル』。

 その名の通り影で出来た触手を生み出し、操る魔法だ。

 悪魔は その触手の一本を使って悪魔騎士の身体を持ち上げ、更に他の触手をスライムの身体に絡ませる。


「た、隊長……。私のことは……置いて行ってください」

「うるさい馬鹿め!! お前らにはまだまだ働いてもらうぞ!!」


 部下の言葉にそう返しつつ、悪魔はもう一枚のスクロールの魔法も発動させる。

 そして もう一枚の魔法は――。




「……うん? ぐう有能スライムは倒したはずだ。だが……何かマズい気がする。テーラー、『は‐1』!」


 何か嫌なものを感じ取り、黄太郎が影燕を召喚した その直後だった。

 悪魔達の乗っていた車が、爆発した。






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