第51話 カーチェイス②





「連中も追ってきたか!!」


 悪魔は右肘を黄太郎に折られ、右肩をアザレアに刺され、焼かれた。

 もう右腕は使い物にならないだろう。

 だが、怪我が左腕に集中した分、ハンドルの操作自体は可能だ。


(それでも激しいハンドルの操作は難しい。面倒だな!!)


 内心では舌打ちしつつも、部下の手前 余計な感情を出すのは控える。

 とは言え、自分の右腕も破壊され、部下の剣士は重傷。

 まさか このような事態になるとは思っていなかった。


(それも あのスーツの男がキッカケだ!! 他の連中は全員 隙があった。だが あの男だけは『敵っぽい奴が現れたから腕を折ろう』くらいの自然さで俺の肘を破壊した!! 頭がイかれてるのか!?)


 もし悪魔の言葉を黄太郎が聞けば、大笑いしていただろう。 

 自分なんてまだまだだと。

 悪郎機関の他のエージェントならば肘を折った直後に続けて悪魔の首もきちんと刎ねていたことだろう。

 それを防がれた黄太郎の技量が甘いのだ。

 とはいえ、悪魔は当然 黄太郎が何処から現れ どのように生きてきたかなど全く知らない。


「後方への妨害・迎撃は任せるぞ!!」


 スライムに指示を出し、悪魔は運転に集中する。

 彼の言葉に、スライムはゴボゴボッと音を立てて返事を返した。

 腹部に傷を負って意識を失っていた悪魔騎士の腹部には、スライムが体の一部を張り付けて止血している。

 既にスライムの体内に保存していた回復ポーションは掛けているが、ポーションを掛ければ傷が一瞬で完治、などと言うことはできない。

 回復にはまだ時間がかかるだろう。


 また、後方から追いかけるメアジスト達も戦闘の準備を整ええていた。

 

「ギンガニアさん、骨が折れましたか?」

「……みたいなのです」

「そうですか、なら もう少し見せてくれませんか?」


 赤く腫れあがったアザレアの腕を見ていた黄太郎は、「ふむ」と小さく呟いたかと思うと、鉄雅音を右手に握りなおし。


「よっと!!」

 

 と軽い調子でアザレアの腕に釘を叩きつけたのだ。

 その光景にアザレアも目を丸くした。


「ちょ!? 何して――」


 しかし、すぐに気が付いた。

 自分の右腕の腫れが引き、痛みも治まっていることに。


「これは……?」

「貴方の骨に釘を打ち込んで、折れて二つに分かれた骨を一体化させました」


 黄太郎と鉄雅音の能力は『二つのものを一つにする能力』だ。

 ならば当然 折れた骨をくっつけることもできる。


「……君の能力は何でもできるのか?」


 その光景を横目で見ていたメアジストが呟いた。

 だが、その言葉には黄太郎は肩をすくめて返した。


「そうでもないですよ。これは あくまで骨をくっつけただけです。完治したわけじゃないし、今回のように単純骨折ならともかく、複雑骨折で骨が砕けた、とかだと流石に治せません。俺が一体化できるのは俺自身を除けば二つだけです」

『それに、黄君のは お姉ちゃんと合同の能力だからね。そういう意味では能力の制限もあるよ」


 それまで黙っていた鉄雅音が そう補足を入れる。

 とはいえ、黄太郎と鉄雅音の能力の利便性が高いのは間違いない。

 能力は 多少シンプルなほうが応用が効きやすいものだ。


「おっと、そんなこんなしてたら連中も やる気みたいですね」


 自動車のバックドアを切り捨てたことで開いた空間からスライムが這い出て、その体から何本もの筒状のものを作り出している。


「攻撃と防御は二人に任せる」

「お任せください!! メア先輩は運転に集中を!!」

「了解」


 アザレアは腰のベルトに ぶら下げていた万年筆サイズの杖を取り出すと、助手席の窓から身を乗り出す。

 黄太郎もまた、窓から身体を出して車の屋根の上に上ると。


「テーラー、『ろ‐3』を車に張り付けろ。常に三枚以上で車を守れ」

『かしこまりました』


 黄太郎の言葉にテーラーが反応し、彼らの乗る車に三枚の結果が張られた。

 本来なら身に纏って用いる“野菊”を車に纏わせたのだ。


「これで車は多少 丈夫になりました。とはいえ、野菊は脆いですからね。立て続けに攻撃を受けるとマズいっすよ」

「分かっているのです!! 私達がそうさせなければいいのです!! 『ファイアショット』!!」

 

 その言葉とともに放たれた炎弾がスライムを襲い、とうとう激しい打ち合いが始まった。











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