第42話
「……どこからでも手足が出ると思うと、組み技や投げ技は使うべきじゃない。だが、打撃でも相手の攻撃は受けるべきじゃないな。鉄雅音さん、気合入れますよ」
『分かってるよ』
鉄雅音に声を掛けつつ、黄太郎は両足を揃えての軽いジャンプを繰り返し、自分のリズムを図る。
対するケッパンは、両手を交差させるような構えを取り、腰を落として構える。
アザレアには完全に背を向けている。
が、もちろん それだけでは済ませない。
ケッパンの背中からもう一人のケッパンが、ずずずっと染み出すようにして現れ、アザレアと向かい合う。
「もう一人の吾輩よ。そっちの女の対処は頼んだぞ」
「分かっているとも、もう一人の吾輩よ。……さて、君は姿を消す能力を持っていたな。気を付けねばな」
「……まあ、そう来ますよね。分かっているのです」
分身体のケッパンがアザレアと向かい合う。
既に彼女の能力は知られてしまっているので、先ほどのように簡単に蹴りはつかないだろう。
しかし、黄太郎は分身と本体のケッパンのやり取りを見ていて、二つのことに気が付いた。
(こいつ、何で分身と会話してるんだ? 演技とかか? でもそうは見えない……。だが、奴は分身を倒された時にアザレアの能力を把握していて、本体も分身もそれを共有しているらしい。もし全てが遠隔操作、あるいは意識の共有が出来ているなら、あんな会話をする必要はないんじゃないか? ……そこまでの情報で考えるならば、奴の能力は遠隔操作ではなく、自動操縦で、かつ分身体が倒されることで魔力の一部か何かを本体に戻すことで、分身体の得た情報を本体に伝えているんじゃあないのか?)
そこまで考えたところで、黄太郎は二人のケッパン越しにアザレアへ声を掛けた。
「アザレアさん、こいつの能力って何型ですか?」
「……人間、あるいは人体のパーツを作ることにエネルギーを費やしているので、創造・圧縮型になると思うのです。でも、人間サイズのものを複数体で運用、その上で見たところ自律思考しているように見えるのです。……普通に考えるならば、本体に戦えるほどの魔力は残らないと思うのですが」
創造・圧縮型は魔力のロスが少ないとはいえ、大きいサイズで複雑なものともなれば、消費魔力も大きくなる。
人間そのものを作り、更に それ自身に思考させて行動させるとなれば、かなりの魔力を使う。
そうなれば本体も戦う余裕はないと思うのだが。
「確かに。吾輩は分身体を使っている間は身体強化魔法くらいしか使えない。だが……それは自らの肉体で補えるのだよ」
腰を落として構えるケッパンの言葉には、それを信じるだけの厚みがあった。
彼の構えも肉体も、まさしく武術家のそれだ。
「らしいですね。ま、俺はアンタをブチのめして逮捕のお手伝いするのが仕事なのでね。行きますよ」
「ああ、来たまえ」
その言葉を皮切りに、黄太郎は右ストレートを放った。
――ぼッ!! と、音を立てつつ最短距離を駆け抜ける黄太郎の拳を、しかしケッパンは避けずに前に向かって突っ込み、そして自分の頬から右手首を出現させることで、黄太郎の攻撃を受け止めた。
「なッ!!」
「――フッ!!」
動揺する黄太郎に対し、ケッパンはそのままの勢いで捻じりを加えた右拳――コークスクリューブローを放つが、その攻撃は黄太郎のバックステップによって回避される。
が、それだけに留まらず、ケッパンの右拳から更にもう一本の腕が現れ、黄太郎の顔面を貫く。
「っとお!! あっぶね!!」
かのように見えたが、その攻撃は黄太郎が更に頭を振って回避した。
黄太郎の髪をかすめたその拳は、すぐに縮んでケッパンの手に戻っていった。
「マジで面倒くさい能力ですね……」
思わず、黄太郎も呟いた。
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