第43話
ケッパンの能力は自在に自分のパーツを複製するというものだ。
だから自分の顔面から腕を生やして敵の攻撃を受け止めることが出来るし、拳や蹴りを回避されたり受け止められたりしても、そこから更に追撃ができる。
しかし、今の攻防で黄太郎は一つのことに気が付いた。
「貴方の能力である身体の複製ですけど、……複製した部分から更に複製することはできないんじゃないですか? それが出来たら、今の攻撃に もう一発追加で打ち込めたでしょ」
「……そう思わせるフェイクかもしれんよ」
黄太郎の言葉に、ケッパンはそう答えるが、恐らくは予想通り複製した部分から複製することは不可能なのだろう。
それが出来るなら既にやっているはずだ。
(さて、まともにやるとリーチは相手が有利だ。こっちも似たようなことはできるが、今ここで使いたくはないな。……なら)
黄太郎は左手に逆手で持っていた鉄雅音を、自分の右手に順手にして持ち替えた。
彼の行動に、鉄雅音が声を弾ませた。
『おっ! やっちゃう?』
「ええ、やっちゃいますよ。テーラー『い‐2』!」
『かしこまりました』
テーラーの電子音声が答えると同時に、鉄雅音の金槌部分から水墨で描かれたような黒いオーラがあふれ出た。
『い‐2』は四木々流陰陽術・下位強化術式“黒曜”によるものである。
黒曜は自身の放つ攻撃の強化を目的としたものであるが、今回で言えば鉄雅音の打撃を強化することを目的に発動している。
黄太郎自身のパワーでもコンクリートブロックを粉砕する力があるのだが、それを強化した今は鉄骨を殴れば容易く捻じ曲がるだけの攻撃力を発揮する。
「じゃ、死なないで下さいね」
「――ッ!?」
真っ直ぐに自分のほうに踏み込んできた黄太郎を見て、ケッパンは自分の背筋が凍るような感覚を覚えた。
――もしもアレで殴られたら、本当に自分は死ぬ。
そう思わせるだけのプレッシャーがあった。
しかし、ケッパンはその恐怖に引くのではなく。
「オォオオオオオオオ!!」
前に飛び出した。
今の黄太郎の戦闘スタイルは、利き手に鉄雅音を持って全力でスイングするパワー型の戦い方だ。先ほどのような速さはない。
なら金槌を振り回す距離もないほどに詰めることで、鉄雅音の
ケッパンは分身の腕も作り出すことで、合計二本の左腕で鉄雅音の柄を抑え、カウンターの右ストレートを黄太郎の顎に打ち込む――つもりだったのだが。
「なるほど、悪くないですね。だが、甘い」
――ミシィ!! と、柄を受けた二本の左腕から、そんな音がした。
二本の左腕のどちらもが、折れてしまっていたのだ。
「ぐぅああああああああ!?」
鉄雅音の一撃は、ケッパンの二本の左腕をへし折っても なお止まることはなく、そのまま振り抜かれた。
その結果、ケッパンの大柄な体格が空中に浮きあがり、空中で半回転する。
身動きの取れない空中で、更に黄太郎は追撃に出る。
今度は右手の鉄雅音を振り上げ、そのまま躊躇うことなく振り下ろす――ッ!!
「うおおおおおお!!」
咄嗟に、ケッパンは自分の背中から右足を創造、そのまま地面を蹴ることで、何とか空中で体勢を変えて黄太郎の攻撃を回避する。
すると、振り下ろされた鉄雅音の一撃は そのまま床に叩き込まれ――。
ズドオッ!!!! と巨大な破砕音を立てて、美術館の床に巨大な風穴を開けた。
「あっ、いっけね。あとで直しましょう」
『だねえ、怒られちゃうよ』
黄太郎達は そんな呑気な会話をしているが、ケッパンのほうは気が気でない。
(馬鹿な……! この美術館は美術品保護のために堅牢な白剛石で作られている。その床をこんなにも容易く――。身体強化魔法を掛けていても、怪我ではすまんぞ!! 距離を取って組み合うか? だが、奴はそれを許すような男か?)
確かにケッパンは強い。
だが、黄太郎もまた強い。
冷や汗を掻きながら、ケッパンは思考する。
このままでは勝てるかどうかは五分五分だ。
全ての分身体を結集させなくては、そう考え、ケッパンはアザレアの方に視線を向けた。
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