第40話





「あらら、俺の出番無かったですね」


 そう言いつつ、黄太郎は床から浮上した。

 鉄雅音の柄の部分を使って自分の肩をトントンと叩いていると、倒れたケッパンの身体は やはり霧散して消えた。


「な! ケッパンが消えたのです!!」

「俺のもそうでしたよ。多分、分身なんだと思います。ギンガニアさん、分身する魔法なんてあるんですか?」

「……私が知る限りはないのです」

「ってことは、これがケッパンの固有魔法なんでしょうね」


 自分の分身を作る能力。

 確かにそれがあれば神出鬼没な行動がとれるだろう。

 分身を解除すれば容易く姿を隠すことができるわけなのだし。


「確かに良い動きでしたが、俺たちの相手ではなかったですね。……ただ、これは厄介なことになりましたね」

『え? 何で? もう分身はやっつけたじゃん』


 黄太郎の言葉に鉄雅音が疑問を投げかける。


「今回の作戦は、ケッパンを“逃がさずに捕らえること”が目的だったんです。そのために大がかりな結界まで張ったのに、結局のところ本体は離れた場所で高みの見物。となると、何とかして本体を探し出さないといけませんからね」

『ああ、そっか』

「それに、今回の分身は割と遠くから向かってきてました。本体も恐らく遠いんでしょう。となると、探し出すのは厄介です」


 黄太郎の言葉に納得したように、鉄雅音は「ふんふん」と答えた。

 その様子を見ていたアザレアは、ひとまず これからのことについて相談するため、リンボ達と通信することにした。


「結界内部だと多少 音質が良くないですが、それでも通話は可能なのです。ちょっとリンボーン殿と通信してどうするか決めるのです。それに、可能性は薄いですが、メア先輩が担当したケッパンが本体だった可能性もあるのです。もしそうなら、今頃メア先輩が捕らえているはずなのです」

「そうですね。その可能性も……。ああ、やっと煙幕が晴れてきましたね」


 結界で包んだせいで、余計に煙幕が晴れるまで時間がかかってしまった。

 黄太郎は隠れているはずの警備兵に声を掛けようと、周囲を見渡した。

 すると、彼の視界に映ったものは――。


「ギンガニアさん!! まだです!!」

「えっ!?」


 黄太郎の言葉にアザレアは動揺を隠しきれず、一瞬 身体が硬直した。

 代わりに、彼女の眼は二つのおかしな事象を捉えた。

 まず一つ。

 美術館の床に警備兵たちが倒れていたこと。

 彼らは二人の分身とは交戦していないはずだ。

 そしてもう一つ。

 自分の目の前に、突如としてもう一人のケッパンが現れ、鋭いボディーブローを打ってきたのだ。


(かわせな――)


 そう思っている間に、アザレアの身体が強く引っ張られた。

 黄太郎がアザレアの襟を掴んで抱き寄せたのだ。

 ――ひゅ!! という風切り音を立て、ギリギリでケッパンの拳がアザレアの身体をかすめていった。黄太郎はそのままアザレアをお姫様抱っこすると、後方に跳躍し距離を取った。


「うっわ!! 助かりました、乱葉さん!」

「……なんか人妻だと思うとギンガニアさんを抱っこするのも何となくドキドキしちゃいますね」

『黄君、シンプルにキモイよ』


 お姫様抱っこしていたアザレアを下ろしつつ、黄太郎と鉄雅音が そんな会話をしていた。彼らが話している間、ケッパンは追撃せずに自分のシャツの襟を正していた。


「で、……さっきよりも動きが鋭い感じがしたんですが、ひょっとして貴方が本体ですか?」

「ああ、如何にも。私こそが怪盗ケッパンその人だよ」


 見た目こそ先ほどまでと変わらないが、内包する魔力の厚みが明らかに違う。

 間違いなく彼が怪盗ケッパンの本体であり――そして、やっぱりお尻は丸出しだった。


 

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