第25話 交渉回 その2



「――なるほど。つまり貴方はいわゆる盗賊シーフのようなことを専門にする忍者と、魔法使いのような存在である陰陽師の両方の技術を有していると。そして貴方達の属している組織が悪郎機関であり、あなた方はその中でも情報収集に優れた粋徒のエージェント。……ということですな?」

「はい、その認識で構いません」

「……ところで、その。悪郎機関の方々はそんなに大食漢なのですかな?」


 オリバーズがそう尋ねるのも無理はない。

 説明の内容を確認するオリバーズに対し、黄太郎は7のスイーツのお代わりを頬張りながら答えていたからだ。

 その食事量には、鉄雅音を除いた全員が驚嘆していた。

 ちなみに黄太郎は既に前菜を6皿、第一の皿であるパスタを9皿、第二の皿である子豚の丸焼きを11皿、野菜を8皿平らげている。その食事量でありながら、ほかのメンバーと食事のペースが同等なのは、一体どういうことなのか。

 おまけに、役割上 最も良く喋っているのは黄太郎のはずなのだが。


「粋徒と羅代邸らだいていは良く食べますよ。基本は肉体労働者ですからね」

「そ、そうなのですか。……まあ、それはともかく、解せませんぞ。あなた方は腕が立つと聞きましたが? 本当にのエージェントなのですか? 戦闘担当のではなく?」

「ええ、違いますよ。俺達の戦闘能力は基本的に自衛の手段としての側面が強いでしすし。あと羅代邸は……戦闘しか任されない分しっちゃかめっちゃか な性格の人が多いんですよ」

「そうかい? 君も中々に独特な性格に見えたんだけどなぁ」


 と、そこで口を挟んできたのはリンボーンだった。

 何かを試すかのような彼の視線に、黄太郎は肩をすくめた。


「いやいや、本当ですって」

「さぁ? それはどうかなぁ? まあ、こっちには判定官も居るし、嘘かどうかはこっちが判断するさぁ。……じゃあ、試しに聞くんだけどぉ。君達は悪郎という組織の中で何番目に強いんだぁ?」

「そうですね、粋徒の正規構成員の中なら……俺が一番弱い部類に入るんじゃないないでしょうか?」

「……は?」


 流石に、その答えにはリンボーンも素っ頓狂な声を上げた。

 いや、リンボーンだけではない。

 アザレアも眉根に皺を寄せ、前髪をかき上げた。


「あー、それってマジなのかぁ?」

「マジですよぉ? 同じ部署の粋徒内でも俺の戦闘能力は下位です。俺がここにいるのは、たぶんですけど攻撃・防御・逃走・情報収集のバランスが整ったオールラウンダーだからですけど、逆に言うと単純な強さだけだと大したことないんですよ」

「まさか! メア先輩は かなり腕が立つのですよ! そんなメア先輩を倒しておいて、そんなことが!?」

「判定官のギンガニアさんなら、俺の言葉が本当なのは分かるでしょ? 俺は粋徒の中でも大したことないですよ。ましてや戦闘担当の羅代邸なんて比べ物になりません。あそこには『半径300メートル絶対殺すババア』とか『エイリアンの宇宙戦艦をワンパンで叩き壊すショタ』とか居ますからね。超やべえすよ」


 黄太郎の言うことは嘘ではない。

 悪郎機関における階級は、下から五級、四級、三級、準二級、二級、準一級、一級となっている。

 しかし、そのうち五級は見習いの訓練生、四級は実戦にも参加するが準一級以上のエージェントの補佐が役目であり、まだまだ半人前だ。そのため、彼らは正規構成員ではなく、準構成員として扱われることになる。自衛官で言うなら、防衛大学校の学生レベルに相当するだろうか。

 やがて、これなら一人でも仕事を任せられると判断されれば三級に上がり、ここからやっと正規構成員として認められることとなる。


 ただ求められる人材の特殊性ゆえに粋徒・羅代邸は常に人手不足であるため、現時点の粋徒の構成員には三級のエージェントは存在せず、そして黄太郎が準二級に上がったのは三か月前のことで、彼の後に準二級に上がったものはまだいない。

 つまり正規構成員の中で最も階級が低いのは、黄太郎であると言える。

 そのため、黄太郎は粋徒の中では最も弱い分類に入る、というのは間違っていないし、黄太郎も そうであることを自覚している。


「……なら、わざわざ戦わなくても忍び込めば良かったんじゃないのか? そうすれば捕まらずに済んだろぉ?」

「それはそうなんですけどね。ぶっちゃけ、異世界のセキュリティ舐めてましたってのが一つ。そしてもう一つは、俺たちの売込みです」


 7皿目でスイーツに満足した黄太郎は皿を下げてもらい、食後のドリンクを待つ。

 同様に皿を下げてもらいながら、オリバーズが尋ねた。




「売込み、ですかな?」

「ええ。……俺達がここに来た目的をきちんと話していませんでしたね。俺達の目的は、俺達の国で発生した連続行方不明事件の解決です。そして、連れ去られた少年達がこの世界に勇者として召喚されたことを我々は知っている」


 そこで黄太郎は一度 言葉を区切り。


「ならば、俺たちのすることは二つ。異世界に連れ去られた少年たちの奪還、およびこれ以上の勇者召喚の阻止です。そのために俺たちの取るべき立場もまた、二つ。あなた方の仲間になるか、――敵対するか、そのどちらかです」


 敵対。

 黄太郎は その言葉を使った。

 彼の話を聞いていれば予想できたことだが、しかし明確に言葉として出てくるとやはりオリバーズは身構えてしまった。

 しかし、そこでリンボーンが口を挟んだ。


「……なあ、なーんか彼の話が全部 真実って前提で話が進んでるけど、判定官的にはどーなの?」

「彼の発言は全て真実なのです。嘘だと判断したら、その時点で会話を止めるのです。それとも、私たちの“判定”が信用できないとでも?」


 リンボーンの言葉に、アザレアが少しムキになったように応える。気位の高い彼女は、自分の仕事にケチを付けられたような気分になってしまったらしい。


「……まあ判定官が言うなら、こいつの話は真実なんだろうがよぉ。だがコイツ自身が真実だと思い込んでるだけで、実はどっかの魔族の手先って可能性もあるんじゃないのかぁ? 他者を洗脳する固有魔法の使い手が送り込んできたスパイとか、そういう可能性もあるかと思うんだがなぁ」

「ほう! その発想はありませんでしたな!! 流石はディングレー殿!!」


 その場の雰囲気に呑まれつつあった面々が、リンボーンの言葉でハッと我に返り、彼のアシストに対しオリバーズは つい感嘆の声を上げた。オリバーズは彼のおかげで肩に入っていた余計な力を抜くことができた。

 そして、黄太郎はリンボーンが意図的に空気を崩しに来たことに気付いていた。


(このオッサン。オリバーズさんが動揺しているのを見て庇ったな。あのままなら主導権は俺の手にあったのに。……面倒なオッサンだ)


 と、黄太郎が考えていると。


「……ああ、そうですね。では、“アレ”を持ってきてもらえるかな?」


 次に出てきた食後のお茶を飲みながら、メアジストがテーブルの上のハンドベルを鳴らすと、隣の部屋から一人のメイドがやってきた。彼女は一台のカートを押しており、その上には黄太郎が戦闘時に放り出して そのままになったダレスバッグ、そして黄太郎のスマートフォンが置いてあった。


「あ、カバン忘れてましたね」

「だねぇ。お姉ちゃんも完全に忘れてたわ」

「……これは、侵入者である乱葉黄太郎の持っていたカバンです。それと、眠っていた彼の胸元から回収した……小型の機械も。安全は確認してあります。危険はありません」


 メアジストの言葉を受け、メイドがオリバーズの前にスマートフォンを置く。オリバーズはお茶を一口飲んでから興味深げにスマートフォンを触り、やがて側面についた出っ張り――電源ボタンを押した。

 すると液晶画面が光り、スマートフォンのロック画面が開いた。


「うおお!? 何でござるかなコレは!? さ、触れる!? 画面に触ると動きますぞ!!」

「いま領主殿に見てもらっておりますが、……彼らの所有物は私たちの知らない技術で動いています。そして確認したところ、彼らの持つ機械は魔力以外の動力で動いています。こんなもの、国内は おろか世界で随一の技術力を誇るメラバイス魔導国にもありません」

「ほう、なるほど。つまり……この2人たちが異世界から来たのは間違いない、ということなんだなぁ?」

「はい、ほぼ断言して良いかと」

「うーむ、確かに。この技術力は信じがたいですな!!」

「ああ、分かってくれたました? さて、と。では話を戻して、これからどうするか話し合いましょうか」

「……ほう、と言いますと?」


 オリバーズの言葉に、黄太郎はお茶を飲み干して答えた。


「勇者の代わりに、悪郎機関が。その代わりに、これ以上の勇者の召喚の中止・および既にこちらに来てしまった勇者たちの身の安全を保障してもらえませんか?」


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