第21話
「最近どうにも変な事件が多いよな。今回のコイツと言い、噂の怪盗と言い、なーんで変な連中が このアイバラに集まってくるんだ?」
「まあ良いじゃない。おかげでメア様もいらしてくださったし……フフ!」
「お、おお……。そうか」
アイバラの守備兵団の詰め所の地下にある留置所にある警備室で、兵士の男女が話をしていた。
「まあでもマジな話、最近 変な事件が続くのって それもこれも、異世界からの勇者とか言うのが国内に来てからじゃねーのか?」
「いや、それは偶々じゃないかしら? 別に勇者が来たから何が起きるなんて話 聞いたことないわよ?」
「確かにそうだけどよぉ。俺としては自分たちの住んでる国を守るのは やっぱ自分の国に住んでる連中だと思うんだよな。頭がカタいのかも知んねーけどよ」
留置所には2人しか捕らわれていないせいか、兵士たちはペラペラと会話を続けていた。
――そして その会話を聞きつつ、留置所の奥のベッドに上に横たわっていた黄太郎は、ゆっくりと目を開けた。
両手には鋼鉄製の手錠が取り付けられ、更に右足には巨大な足枷が嵌められているうえに、挙句の果てには両手足にはジャラジャラと鎖が巻き付けられている。
また留置場には当然のことながら頑丈な檻が取り付けられており、その上 檻の目が細かいため黄太郎が全身の関節を外しても脱走はできないだろう。あるいは、無理やり蹴り飛ばせば鉄柵を破壊できるかもしれないが、そんなことをすれば脱走したことがすぐにバレてしまうだろう。
「あ、黄君。起きた?」
そんな声がする方に目を向けてみれば、正面の檻の中には鉄雅音が拘束されていた。彼女の場合、黄太郎ほど頑丈な枷は取り付けられていないが、しかし彼女の周囲には何やら象形文字や幾何学模様が描かれており、その影響か鉄雅音は結界のようなものに包まれていた。
「何ですそれ? 新手のインテリアですか?」
「こんな前衛的なインテリア、IK〇Aにも売ってねーよ! 何か魔族用の結界だって。お姉ちゃんは魔族じゃなくて妖怪だって、何度も言ってるのに」
黄太郎だけでなく、鉄雅音も拘束されてしまっていた。とはいえ、黄太郎も鉄雅音も現状に関して大して不快感は持っていないが。彼らにとって この程度の拘束は大したものではない。
そもそも、この状況は黄太郎にとっては予想通りだ。
黄太郎は自分の左手首の腕時計に目を向けると、時間を確認する。
「この世界に飛ばされたのは、午後3時ごろ。そしてエトレットさんに出会ったのが午後3時45分ごろで、戦闘自体は30分間ほどだったから、眠ったのが4時15分ごろ。で、今が午後6時50分か。つまり、眠っていたのは約2時間35分か。まあそんなとこかな」
それだけ確認すると、黄太郎は留置場内の物品に目を向ける。
(……ふむ。ベッドは少し固いが、しかし留置所の環境は極端に悪いわけではないな。ここらへんも文明水準の高さによるものかな?)
留置場は非常に清潔にされており、ベッドのシーツや枕カバーもキレイに洗濯され、床も手洗い場も掃除が行き届いているらしく、見たところ著しい汚れはない。流石に経年劣化による色の変色や こびりついた汚れなどは どうしようもないらしく、隅から隅までピッカピカということはないが、むしろ建物が古いわりに ここまで清潔にしているというのは興味深い。
ただ、便器が剥きだしになっているのは気になるところだが、ここが留置場であることを考えると仕方がないだろう。
「……さて。ここから どう転がりますかね? 取り引きには乗っかってくれましたが」
「まー、そこらへんは上手いことやるしかないんじゃない?」
「ですね。……ああ、そうだ。鉄雅音さん、幾つか気になったことがあるんですが」
と、黄太郎は目の前の檻の中にいる鉄雅音と話をしようと声を掛けたのだが――。
「ところでさぁ、アンタ賭けに負けたでしょ? あの男に金を賭けてたんだし。アタシに金 払ってよ」
「はぁ!? アレは団長が怒って無しにしたからノーカンだろ!!」
「なに言ってんの!? どうせアンタのことだから自分が負けたからチャラにしたいだけでしょ!! 大体この間『ギャンブルにおいて一度払った金を取り戻すには……勝つしかねえんだ。例え神にも悪魔にも、一度受けたギャンブルから降りることはできない』とかカッコつけて言ってたでしょ!!」
「言ってないです~~~!! てゆーかギャンブルとか良くないと思います。そんなこと言うなら団長に言っちゃうもんね!! お前にギャンブルに誘われたって!! い~~~~けないんだ~~~!! いけないんだ~~~~!! 団長に言っちゃお~~~~!!」
「小学生か!! アンタは!! ならば食らえ!! デュクシ!! デュクシ!!」
「ざんね~~~ん!! バリア貼ってるからデュクシは効きませ~~ん!!」
「ざんね~~~ん!! こっちこそバリア貫通もってるからバリアは無効です~~~!!」
小学生のようなノリで騒ぐ見張りの兵士達の声が五月蠅すぎて断念した。
「すんまっせーーーん!! 五月蠅いんですけど!! 静かにしてほしいんですけど!!」
「あ、やっべ! 起きてた!!」
黄太郎の声で、兵士達は慌てて押し黙った。
どうやら黄太郎が起きていたことに気が付かなかったらしい。自分たちも喋っていたせいで、黄太郎達の会話の声が聞こえなかったようだ。
「――そうか、起きたんだね。それは丁度よかった」
と、そのタイミングで留置場の扉を開けて入ってくるものが居た。
アザレアを伴ったメアジストだった。
「おはよう、乱葉。取り引きの準備が整った。ここを出て付いてきてもらうぞ」
「それは良かった。今ちょうど起きたんですよ」
彼らの言う取引とは何か。
それを知るには、時を2時間半ほど巻き戻さなくてはいけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます