第19話
3人の顔はよく似ている、恐らく兄弟だろう。
だが、顔よりも目を引くのは その体格だ。
黄太郎も身長182センチで筋肉質な体格をしているため一見すると総合格闘家のように見えるが、それに対し3兄弟は力士のような体格をしている。分厚い筋肉の上に、これまた分厚い肉が乗っている。
どう見てもパワー特化型の体格だ。
彼らを見て、副長が興奮したように笑みを浮かべた。彼の反応を見る限り、3兄弟は見た目通りの強さを持つのだろう。
「おお! タータン3兄弟! 良いところに来た!! いったい、今までどこにいたんだ?」
「うっす! 自分はチョウチョを追いかけて遊んでたらいつの間にか持ち場を離れてたっす!」
「うっす! 自分の兄ちゃんの後について行ってたっす!」
「うっす! 自分は兄ちゃんたちと一緒にいたっす!」
「そ、そうか……。だが、まあ良い! お前らが居れば まさに百人力だ!! いいか、あの男をぶっ飛ばせ!! あ、ただアイツの打ってくる釘は非常に危険だから、釘をしっかり注意しつつ俺たちとも呼吸を合わせながら、あいつを攻撃するんだ!! 分かったな!?」
「「「うっす!! 全然わかんねっす!!」」」
「なんでだよ!!」
彼らはタータン三兄弟。
アイバラ守備兵団において屈指の身体能力を持ち、そして屈指のポンコツ頭を持った兄弟である。
理解力の低いそんな彼らに対し、副長が頭を抱えるが、しかし そこで櫓の上のリンボーンが声をかけた。
「いいか、3兄弟!! お前らに二つ指示を出す!! 攻撃をかわせ!! あの男をブッ倒せ!! 以上!!」
ご丁寧に彼は大きな画用紙に簡単な解説イラストまで描いて、3兄弟に指示を出した。
すると、今度の彼らの返事は今まで以上に はっきりしていた。
「「「うっす!! 分かったっす!!」」」
そう答えると、彼らは その体格からは想像できないほどの速さで駆けだした。周囲に散る兵士たちの合間を縫って駆け抜ける彼らは、さながら森をかけて敵を追い立てる狼の群れだ。
「マジか!! あの体形であんなに走れるんですか!? 西武ライオンズのおかわり君かよ!!」
『誰それ?』
「チームメイトに『動けるデブ。体重100kg以上の人の運動会があったら間違いなく1位』と言わしめたプロ野球選手です」
『なにそれ凄い』
その速さに驚愕する黄太郎だったが、その光景にそれ以上に驚いていたのは、副官をはじめとしたほかの兵士たちだった。
(おいおい、身体能力はあるのにアホ過ぎて使えないと散々 言われてきた3兄弟が、あんなにすぐ指示を理解するなんて! やっぱ団長スゲーな!!)
指揮官において必要とされる能力は、まず間違いなく指揮能力や部下の人心掌握などであろう。ただ、指揮官において重要な能力はほかにもある。
それが、部下に指示を出す際にどれだけ伝わりやすい形で指示を出せるか、ということである。
例えば、乱戦状態で部下がパニックになった状態で指示を出す場合や、戦いが長期間に及び満足に睡眠がとれなくなることで理解力が落ちた場合など、どんなに適切な作戦を立案しても それが伝わらなければ意味がない状況というものは存在する。
一見すると単純なことだが、しかし非常に重要な技術だ。
そしてリンボーンは、そうした能力にも長けている。
(あの3人は俺が来るまで、アホ過ぎて使えねぇと言われていた。……だが、あいつらはただのアホじゃねぇ。自分たちで考えて、最適な行動をとることができる。ただ、集中力がないことと、人の話を聞く――もっと言うなら耳から聞いたことを覚え、理解することが苦手だったぁ。なら、視覚的情報を与えつつ簡潔な言葉で指示を出せば良いんだよぉ)
そして、それは正解だった。
タータン3兄弟と呼ばれる彼らは、昔から大きな体と高い身体能力で有名で、アイバラ守備兵団に入ったときには期待されていた。しかし、出された指示を咄嗟に理解することが苦手で、訓練の中で失敗することが多く、周囲からは馬鹿にされ、本人たちも自分たちを無能だと思っていた。
だが、それを変えたのはリンボーンだった。
『お前らは、みんなが得意なことが苦手なだけなんだぁ。でも逆に、みんなが苦手なことがお前らの得意になるんだぜぇ』
リンボーンに初めて出会ったとき言われたことを反芻しながら、3兄弟は駆け抜ける。
「お前ら!! 今こそ団長の役に立つ時だ!! 兄ちゃんについてこい!!」
「「おう!!」」
やる気にあふれたタータン3兄弟は猛然と黄太郎に突っ込んでいく。
当然、黄太郎としては そのままにしておくつもりはない。
「シィ!!」
空中に黒い球体を生み出し、それを左手に握りしめる鉄雅音で叩くことで、具現化した釘を弾き飛ばす。“打ち込むことで二つのものを一体化させる”その釘は、的確に3兄弟の足を狙った。
が、しかし。
――キィン!! と甲高い音を立てて空中で釘が弾かれた。
何事かと目を凝らすと、日の光を受けて輝く細長い針が見えた。
「なッ!?」
「私を忘れてもらっては困るな」
そういうメアジストは
その間に、3兄弟は黄太郎の目前にまで迫っていた。
「ふんぬぁああああああ!!」
先頭を走る長男が、スピードと体重を乗せ低い姿勢から前頭部を叩きこむシンプルでありながら強烈な体当たり――相撲でいうブチかましである。
それに対し黄太郎は もう釘を打つ時間はないと判断。腰を落とし、徒手の右手を開いて掌底の構えを取る。
「乱葉流体術:
腰の回転に加え、手首・肘・肩まで回転させることでコークスクリュー・ブロー気味に放たれた一撃が、長男の顎を捕らえた。
――ごッ!! と音が響き、顎を揺らされた長男が白目をむいて崩れ落ちていく、が。
「ふん!!」
「なにぃ!?」
しかし倒れ際、長男は黄太郎の右足を掴み、動きを封じた。
カウンターを貰うのは分かっていた。
覚悟していた。
そのため、長男は直前にブレーキをかけ、ぎりぎり意識を失わずに済むように耐えていたのだ。
全ては、後から続く弟たちが攻撃する隙を作るためだ。
(こいつら、見た目に反して こんなにクレバーなのかよ!!)
一拍 遅れて襲い掛かってきた次男と三男に対し、咄嗟に黄太郎は忍術:人形崩しを用いて後続の2人の攻撃を回避しようかと思ったが、しかし それは不可能だった。
なぜならば次男は右側面から丸太のような左腕を用いたラリアットを、三男は左側面から岩のような拳の左フックを放つ姿勢を取っていたからだ。
後ろに仰け反っても、前に屈んでも、左右に体を振っても逃げる場所がない。
「クソ!!」
『ちょ!? 黄君!?』
黄太郎は咄嗟に左手の鉄雅音を上空に放り投げ、両手を十字に交差して身を守ると、体を屈めて全身の筋肉に力を込めて硬直させる。
直後、――ドンッ!! と大きな音が響き、ラリアットと左フックが炸裂し、あまりの衝撃に受けた黄太郎の足元の地面が罅割れ、周囲に土くれが吹き飛び、更に衝撃波で舞い上がった土煙が周囲を覆った。
「どうだ、強いだろ俺の部下はよぉ」
その光景に、リンボーンが笑みを溢した。
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