第13話




「さてと。……ちょっと真面目に答えますが、鉄雅音さんは魔族とやらではありませんよ。もちろん人間でもないですが」


 今までの挑発するような口調を改め、黄太郎はそう言うも、メアジストは表情は変えないままに答える。


「ならなんだというんだ? 確かに単眼の2つの角がある魔族は見たことがないけど……サイクロプスか何かの亜種じゃないのかい?」

「誰がサイクロプスだ! 目からビームが出たりはしないよ、お姉ちゃんは!!」

「……私の知るサイクロプスも目からビームは出ないが?」


 残念ながら異世界にXな感じのMENはいないようだ。

 当然と言えば当然だが。


「まあ落ち着いてくださいよ。俺らも理由があってここにいるんですよ」

「そうかい? じゃあ、……その理由は君たちを尋問室にエスコートしてから聞くよ」


 というと、メアジストが何か呪文のようなものを口の中で呟き、右手の拳を鳴らした。


「身体強化魔法発動」


 どうやらメアジストは2人を完全に敵だと判断したらしい。

 彼女の身体を輝く煙のようなものが覆い、周囲を圧迫するようなオーラが溢れる。



「……よし、逃げましょう。鉄雅音さん、合図したら――」

「逃げても無駄だよ。すでに君たちの魔力は覚えた。たとえ変装したところで、逃がしはしない」


 小声で話していたつもりだったが、メアジストには聞こえていたようだった。

 逃がす気はないらしい。

 そして彼女の瞳の奥には、何やら小さな文字のようなものが蠢いていることに、黄太郎は気が付いた。


(……看破系の術式を目の中に仕込んでいるのか? 確か お祖母ちゃんが使えたな、ああいうの。判定官とか言ってたけど、マジでそう言うのが専門っぽいな。やべえ、マジで面倒になってきたな)


 などと黄太郎が考えていると。


「エトレット上級判定官! 我々も戦います!! 魔族を領内に入れるわけにはいきません!! お前ら、やる気出せ!!」

「「「「「おう!!!!」」」」」

「メア様!! 魔族が開いてなら、私たちも戦います!! 行くわよ、みんな!!」

「「「はい!!!!」」」


 周囲の兵士たちも剣を抜き、槍を構え、弓に矢をつがえる。

 モタモタしているうちに、彼らもやる気を出してしまったようだ。

 一人当たりの戦闘能力は大したことではないが、この数を真正面から相手にするのは面倒だ。


「黄君、どうするの? とりあえず、逃げる? 変装が見抜かれるって言っても、逃げるだけなら問題ないでしょ」

「そのつもりでしたけど……。気が変わりました」


 というと、黄太郎は薄く微笑んだ。


「――俺たちの価値を吊り上げるために、こいつら全員 倒しましょう」


 黄太郎の言葉に、兵士達は咆哮を上げて襲い掛かった。

 だが、その時。

 黄太郎は鉄雅音と指を絡めるようにして手を取り合った。その光景にメアジストは何か不穏な気配を感じ取った。


「待て!! 不用意に飛び込むな!!」


 だが、もう遅かった。


「「式神術式・展開」」


 黄太郎と鉄雅音の声が重なると、彼女の身体が光に包まれ、形を変えていく。瞬きの間に鉄雅音の身体は、一本の金槌――正確に言うと玄翁げんのうと呼ばれる金槌の中でも大きな部類のもの――に変化し、黄太郎の左手に収まっていた。

 そして黄太郎の前に、何やら黒い球状のエネルギー体のようなものが現れた。


「ふッ!!」


 黄太郎がその球体を金槌で叩くと、その瞬間 球体は十数本の釘に変化した。金槌で叩き飛ばされた釘は、迫りくる兵士たちの足を地面に縫い付けるように打ち抜いた。

 すると、――どぷん! とまるで深い池にでも落ちたかのように、十人以上の兵士たちが地面に沈み込み、溺れた。


「うおおおお!? 何だこれ!?」

「し、沈む……!?」

「いや、地面が水みたいになってるぞ!?」

「きゃああ!? 何なのよコレ!?」


 兵士たちは胸元あたりまで地面に浸かり――変わった表現だがそう形容するしかない――慌てふためいていた。


「そーいや、名乗られたのに名乗り返してませんでしたね。まあ、俺の場合は名乗り返さない方が自然なんですが、せっかくなので名乗っときます。……悪郎機関・粋徒所属の準2級エージェント『忍者』乱葉黄太郎です。お見知りおきを」


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