第12話




「正直に言う気はない、ということか。まあ、構わないよ。……戦って倒せば決着がつくだけさ。……、さっさと済ませよう」


 メアジストは抜き身の刃のような殺気を放ちつつ、黄太郎達の方へ歩み寄る。

 彼女の殺気にやられて、他の兵士達の方が距離を取るほどだ。

 ただ、彼女に声援を送る女性兵士たちは全く意に介することなく彼女の応援を続けており、何なら どこから出したかは分からないがウチワやタオルを振ってメアジストの応援に励んでいる。

 この場で動じていないのは女性兵士たちと。


「戦うってどうやって? クッキングバトルもするんですか?」


 黄太郎達くらいのものだろう。彼は全く動じることなく挑発を続ける。

 ハンカチでサングラスを拭く余裕さえ見せつけている。


「いや黄君。挑発してる場合じゃないでしょ。あの人、まぁまぁ強いよ。どーすんの?」

「どーしましょ? とっとと逃げれば良かったですね。まあ今からでも適当に逃げて人混みに逃げ込んだらこっちの勝ちなんで、適当に挑発してから逃げてやりましょうか。とっとと~~~逃げるよ黄太郎~~~!」

「急に歌うのやめろ!! ミュージカルか!! あと黄太郎とハ〇太郎で文字数そろってるのムカつくな!!」


 2人が小声で話し合っていると、3メートルほどの距離にまで近づいてきたメアジストが、人差し指をまっすぐ向けて こう言った。

 

「クッキングバトル、ね。下らないことを言うじゃないか」

「へぇ? じゃあ聞きますけど、得意料理はなんですか?」

「舐めるなよ。私の得意料理は……茹で卵だ!!」

「あれ? ひょっとしてこのお嬢ちゃんもバカ?」

「……何……だと……?」

「しまった、お姉ちゃんの相棒もバカだった」


 どうやら、メアジストは見た目ほどクールなキャラでは無いようだ。


「……フン! だからどうしたと言うんですか!? 俺は目玉焼きとウインナーが焼けます!!」

「むしろ黄君は基本的にそれしか作れないでしょ」

「ほう……。目玉焼きにウインナーか、朝の定番メニューだな。……やるじゃあないか」

「いや何もやってないでしょーよ!! こんなもん女子小学生でも作れるわ!! 『こいつ、できる』みたいな顔してんじゃねーよ!! 普通もっと色々と作れるだろ!!」

「そうか? ならば、そこの兵士に聞くが、君の得意料理は何だい?」

「ええ!? 俺ですかい? しいて言うなら『ガガンガのゴッゴロ焼き』ですかね」

「……なるほど、焼いてあることは分かりました」

「いえ、ゴッゴロ焼きは どっちかというと蒸し料理ですぜ」

「ややこしいわ!! 蒸し料理に“焼き”とか付けてんじゃねーよ!! あと何でみんな料理トークしてんの!? そんな話してる場合じゃ――」


 ――その時、ひゅッ!! と風を切る音がした。


 痺れを切らした鉄雅音が大声でツッコんだ瞬間に、メアジストが鉄雅音に向かって自分の分厚い本を投擲したのだ。

 表紙に鉄板を仕込んだことで十分な重量を持った その本は、人間を殺傷するに十分な威力とスピードを乗せて飛来した。


「――え?」



 だが鉄雅音の顔面に本が叩き込まれる前に、隣の黄太郎が右拳で本を叩き落とした。

 ぱぁん!! と小気味良い音を立てて本が吹き飛んでいく。

 しかし、その隙にメアジストは既に黄太郎の眼前にまで迫っており、彼の顔面を目掛けて最短距離を走る右ストレートを打ち込んできた。


 ――ぼッ!! と風を押しのけながら速さと重さを合わせ持った右ストレートが黄太郎の顔面を襲う。

 が、右ストレートが顔面を打ち抜く寸前に黄太郎は頭を振って回避ヘッドスリップで攻撃を回避、更に彼女の右腕の袖とジャケットの襟を掴むと、そのまま背負い投げをかました。


「せいやあッ!!」

「……むッ!!」


 気合一閃。

 黄太郎の背負い投げが炸裂――と思いきや、メアジストは投げられる直前に自ら地面を蹴って跳躍すると、空中で膝を曲げることで胴体を地面に叩きつけられる前に両足で着地した。


 ――ズンッ!! と衝撃で彼女の足が地面にめり込み、更にその周囲の地面までもが罅割れるが、彼女はほとんど仰向けのような その姿勢のまま自分の上の黄太郎の顔面に左フックを放つ。


「シィ!!」

「あっぶね!!」

 

 だがやはり、その攻撃が届く前に黄太郎は彼女の服から手を放して攻撃を回避。更にバックステップで距離を取りつつ、鉄雅音を抱き寄せて距離を取らせる。

 その間にメアジストも上体を起こし、立ち上がると、自分の服についた土埃を払う。 

 嵐のような一瞬の攻防に、周囲の兵士たちは唖然とした様子だった。

 だが一拍遅れて、女性兵士達のみ黄色い声援を上げた。


「きゃ~~!! 流石メア様!!」

「強い!! 速い!! 美しい!!」

「そのまま侵入者をぶっ倒して~~~!!」


 騒ぐ女性兵士たちを無視し、黄太郎はネクタイを締めなおした。


「超あっぶねー。……楽しくお喋りしてる最中に殴りかかるとかやめてくれませんか?」

「そうだね。確かに……君の隣の女の子がただの人間だったなら、まだ対応を考えたけどね」

 

 メアジストはそう言って鉄雅音を指さした。


「私は判定官……その名の通り、嘘や偽りを見抜くのが仕事だ。そこの女の子、君……魔族だな」


 彼女がそう言うと、ガラスが砕けるような音とともに術式が解かれ、鉄雅音の単眼と2本の角が露わになった。


「なッ!? お姉ちゃんの擬態術式が解かれた!?」

「ああ、看破系の能力者でしたか。……マジで早く逃げれば良かったですね。遊び過ぎましたか」


 黄太郎は大して動じていないが、しかし周囲の兵士たちにとって これは大きな衝撃だった。


「魔族だ!」

「何で魔族がこんなところに!」

「アイバラに魔族が来るなんて聞いたことないわよ!?」


 擬態の解けた鉄雅音を見て、メアジストも口を開いた。


「……私も驚いたよ。こんなところに魔族がいるなんてね。では、もう一度聞くよ。……君たちは誰で、どの魔王の手先だ?」


 メアジストの言葉に、2人は顔を見合わせた。


「面倒なことになりましたね……」

「……早く逃げれば良かったね」

「ですよね、急いで とっとと黄太郎しておけば良かったです」

「気に入ったの? そのフレーズ」


 どうにも厄介なことになってしまったようだ。










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