第11話 遭遇



「ええい!! 待たんか侵入者め!!」

「待てと言われて待つわけないでしょ!!」

「じゃあ待たないで!!」

「だからと言って『待たないで』って言われても待ちませんけど!?」


 城壁は二重構造になっており、更に兵士たちの詰め所も近くにあるため、2人の周辺には大勢の兵士たちがいたが、しかし2人は兵士達の合間を縫うようして走り、一向に捕まる気配がない。

 彼らは今、二重の城壁の間にある広場のようなところで大立ち回りを演じていた。


「捕まえた!!」

「いや残念」


 背後からタックルしてきた兵士に対し、黄太郎はバク転して攻撃を回避しつつ、兵士を踏みつける。更に横から来る槍の突きを手で弾き、斬りかかってくる兵士の剣を蹴り飛ばし、全ての攻撃を捌いていく。

 敵の人数が多いとはいえ、これくらいなら二人の敵ではない。……と言っても、黄太郎の専門は情報の収集であり、戦闘ではない。わざわざ倒さずとも切り抜ける方法はある。


(適当に逃げて、街の人ごみに入れば変装してやり過ごせる。とりあえず、鉄雅音さんと一緒に――)


 黄太郎がそう考えていると。


「――これは何事なんだい?」


 ひどく冷たい声が聞こえた。

 声のした方に目を向ければ、城壁の奥にある石造りの詰め所から1人の女性が姿を現した。


 すると彼女の姿を見て、全体の中に2割ほどいる女性兵士たちが黄色い声を上げた。


「きゃー!! メア様!!」

「侵入者を倒してくださーい!!」

「メア様、今日もカッコいい~~!!」

「大好きですメア様~~~~~!!」

 

 メア様、と呼ばれる女性にしては身長は高く、軽く170センチはあるだろう。手足も長く、モデルのような体形をしている。短く切り揃えられた金色の髪は左側の前髪はやや長めに、その一方で右サイドの髪は編み込んで後ろに流している。日差しを浴びる褐色の肌チョコレートスキン、目元を彩る長い まつ毛に切れ長の目、その瞳は紫水晶アメジストのような澄んだ紫をしている。髪が短く、鋭い眼光を見ればどことなく中性的に見えるが、しかし言い知れない妖艶さを持った女性だ。


 両耳には小さなピアスを嵌め、タイトなデザインのジャケットに同じく細身のパンツスタイル、頭にはベレー帽をかぶっており、その手には白手袋を嵌めたうえで分厚い本を持っている。シャツの胸元はループタイで引き締められており、一見すると文官のように見えるが、足元の編み上げブーツはよく使い込まれており、単にデスクワークをしているだけには見えない。


 そして何より、前髪の下の左目を隠す眼帯と、彼女の纏う冷たい刃のようなオーラには、彼女がただそこにいるというだけで周囲のものを圧倒する力があった。

 並の文官にこれほどの気配は醸し出せないだろう。


「やれやれ、あまり騒がないでくれるかな」


 黄色い声援を浴びる彼女は、無表情なまま冷たい言葉を放った。

 その冷淡さに、周囲の女性兵士たちは身体をビクっと震わせた。


「……素敵な天使たちの声援なんて受けたら、私みたいな恥ずかしがり屋さんはドキドキして皆の顔が見れなくなっちゃうからね」


 そう言って彼女はウインクした。


「「「「「「「きゃ~~~~~~メア様~~~~~~~!!!!」」」」」」


 彼女の言葉に周囲の女性兵士たちがトキメキの歓声を上げた。

 目がハートになるというのはああいう状況を言うのだろう。


「何アレ超かっけ~~~~!! 俺もああいうカッコいいこと言ってみたいです!」

「じゃあ試しに お姉ちゃんが声かけるからカッコいいこと返してみて」

「良いですよ」

「じゃあ行くよ。『黄太郎君カッコいい~~~~~!!』」

「だよね~~~~!! 俺も俺のことカッコいいと思う~~~!!」

「何一つとしてカッコよくねえレスポンスだな!! 才能があるとか無いとか言う次元じゃないと思うけど!?」


 などと ふざけてはいるが、彼らの眼は節穴ではない。

 バカ話をしながらも、明らかに雰囲気の違う彼女の強さを測っていたのだ。


(――強いね、あの人。細くはあるけど、筋肉もしっかりついている。特に大殿筋や大腿筋を見れば、下半身の筋肉を作りこんでいるのがよく分かる。……加えて彼女の纏う空気。あれはただものじゃない、あんまり ふざけてる場合じゃなさそうだね)


 彼女の姿を見て、鉄雅音はそう判断した。


(ムチムチとしたお尻。柔らかそうな太もも。そして一見すると小さく見える彼女の胸。だが、あれはサラシか何かで縛ってあるな。俺の見立てが正しければ、EかFはあるだろう。……どすけべ測定器、500万点! これで昆虫系人外とかなら桁があと5つは上がるのにな~)


 彼女の姿を見て、黄太郎はそう判断した。

 ――ひょっとすると黄太郎の眼は節穴なのかもしれない。もしくは頭の方がバカなのか。


 そして彼女は、敷地内で暴れる2人に冷淡な視線を向けると、こう尋ねた。


「私は上級判定官:メアジスト・アイズレイ・エトレット。君たちは誰だい?」

「さぁね。サンタクロースにでも見えます?」


 黄太郎はスケベな心を隠しつつ、飄々とした様子でそう返した。






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