第10話
農業都市アイバラ。
平地に建てられた都市であり、その周辺には広大な農地が広がっている。国家全体の食料供給の半分近くを担っており、経済的にもそれなりに豊かであるため、警備の数も多いことから治安もよく、人口もそれなりにあるため商業も盛んである。
また周辺の農場では様々な農業実験も行っているため、農学者や植物学者などの学者も多く集まっており、その影響で教育水準も高い。
つまるところ、ここは国内でも有数の大都市なのである。
「そうなんですか。勉強になります」
農家の男性の説明に、黄太郎は感謝の言葉を述べた。
「おう、良いってことよ。じゃあ、俺たちはまだ仕事があるから戻るわ」
「……ああ、そうだ。これ、お礼に上げます」
そう言って黄太郎はカバンからドライマンゴーの袋を取り出し、夫婦に差し出した。食べかけのものではなく、未開封のものだ。黄太郎は常にドライマンゴーを3袋は持ち歩いている。
「なんだいコレ? 食べ物? それとも俺が大人になる中で忘れてしまったあの夏の夕暮れの思い出?」
「発想が いきなり突飛過ぎない!?」
いきなり よく分からないボケを挟んできた男性に、つい鉄雅音がツッコんでしまった。どこの世界でも中年男性は雑なボケを挟むものだ。
「いいえ、残念ながら ただのドライフルーツです。お口に合うといいんですが」
「ありがとう、もらうよ。……おっ、旨いなこれ」
「いえ、礼を言うのはこっちですから。それでは、ありがとうございました」
「良いってことさね! お嬢ちゃんも元気でね!」
「はーい、バイバイ!」
夫婦はドライマンゴーを齧りながら、元来た道を戻っていった。仕事の合間にトラクターで乗せて行ってくれるとは気のいい人たちであった。
「さて……。それじゃあ、行きますよ。先ほどの女性の話では、少年たちは この世界に来ているみたいですからね。これからは気を引き締めていかないと。本格的に仕事を始めますよ」
「うん、お姉ちゃんも頑張るね!」
そう言って彼らはアイバラの城門――都市城壁に設けられたものなので、市門というほうが正しいかもしれない――に向かった。門外には水を張った堀があり、その上に跳ね橋が下ろされており、門の前では門番が2人、暇そうに立っていた。
黄太郎達は、そちらに向かって歩いていくと、大きな声であいさつをした。コミュニケーションにおいて挨拶は基本である。古事記にもそう書いてあるかは知らないが。
「お疲れ様でーす!」
「ん? ああ、お疲れさん。入街希望者?」
「そうだよ!」
「はっは、元気のいい嬢ちゃんだな。……ん? 変わった服だな。あんたら、どっから来たんだ?」
「田舎の方から旅してきたんですよ」
「そうか……? まあ、いいや。とりあえず、入街許可証みせて」
「「え゛っ?」」
門番の言葉に、2人は同時に言葉を詰まらせた。
その様子を見た門番たちは目つきを鋭くしつつ、腰の剣に手を当てる。
「まさか……。ないのか、許可証?」
「い、いやあ! そんなわけないじゃないですか!」
「だったら早く見せろ!」
空気が一気に張り詰めたものになってしまった。
門番たちに気づかれないよう、2人は小声でやり取りする。
「やばい! どうしよ! 許可証なんかないよ!」
「いや、俺に良い方法があります!」
というと、黄太郎はにっこり笑ってこう言った。
黄太郎の言う良い方法とは。
「おいおい、固いこと言うなよ~。オレオレ、俺だよ~」
まさかのオレオレ詐欺だった。
「……お前ら、さっき田舎から来たとか言ってなかったか?」
そして当然のように一瞬でバレた。
「ギクッ!? 実写版〇魂だとこれで何とかなったのに!? クソ!! 菅〇将暉に騙された!!」
「銀〇を参考にするな!! 黄君、お前ホントに情報収集専門のエージェントか!? あと別に菅田〇暉のせいではないからな!!」
「貴様!! やっぱ知らない奴じゃねーか!!」
「いやいや、ほら! この間 会ったじゃないですか。俺ですって、ほら! このカッコいい顔に見覚えがあるはずですよ!!」
「こんなところでもナルシストを前面に出してくるね黄君は!!」
「知り合いだっていうなら……よし!! じゃあ俺の名前を言ってみろ!」
「え、あ、うーん。……ボブ?」
「違うわ!! 俺の名前はフィリップス4世だ!!」
「はぁ!? お前どう見てもフィリップス4世って顔じゃねーでしょ!! どんなに頑張っても精々ボブって感じでしょ!!」
「お前 世界中のボブに謝れよ!! いや、ボブが誰かは知らんけども!!」
そう言って門番はこちらに剣を向けてきた。
完全にこちらを敵だと判断したらしい。
「怪しい奴らめ! 大人しく地面に膝をついて両手を上げろ!!」
「く……ッ!! かくなる上は!!」
黄太郎は咄嗟に出鱈目な方向に指を向けると、大声で叫んだ。
「あっ!! あんなところで美人なお姉さんのスカートが風でめくれてパンチラしてる!!」
「マジで!?」
「どこどこ!?」
黄太郎の言葉に二人の門番は そちらに視線を向けた。
門番達は残念なことにバカだったようだ。
この隙に黄太郎たち二人は走って逃げだし、門の中に入っていった。
「よっしゃ!! 今のうちに逃げますよ!! 鉄雅音さん!! 明日に向かってダッシュ!!」
「……何で文明水準は高いのに、頭の方は男子中学生レベルなんだろ?」
「ああ!! 逃げた!!」
「侵入者だ!! 追え―!!」
門番の一人が笛を吹くと、その音を聞いた兵士たちがすぐさま動き出した。
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