第1章 始動
第1話 はじまり
「……ッ!!」
黄太郎は目を覚ますと同時に、腹筋を使って跳ね上がるようにして飛び起きながら、拳を構えた。
彼の記憶が正しければ、事務所の壁を粉砕してトラックが突っ込んできたはずだったが、しかし彼の視界に映ったのは全く想像していない光景だった。
「なんだ……? ここ何処だ? これは……ストーンヘンジか?」
黄太郎が居たのは、小高い丘の頂上。その上、彼を取り囲むようにして円形に巨石が並んでいる。見たところ、確かにイギリスにある世界文化遺産であるストーンヘンジに似ているが、しかし本来のストーンヘンジは平原の中にある。このように丘の上には建てられていない。
となると、これはストーンサークル――環状列石――というのが正しいだろう。
すぐ隣に鉄雅音が寝ているが、呼吸や脈拍には問題は無いようだ。目立った外傷もない。と、そこで自分の身体も確認してみるが、黄太郎にも外傷はなく身体的な問題も感じられない。
2人ともに目立った問題がないことを確認した黄太郎は周囲に目を向ける。
すると、幸いなことに黄太郎のダレスバッグとジャケットが近くに落ちていた。なぜ他の家財道具がないのにバッグだけ落ちているのかは分からないが、一先ずジャケットを羽織り、バッグから取り出したサングラスをかけると、巨石や地面の植物の様子を確認する。
(この巨石、まず間違いなく人工的なものだろうな。……ただ、あまり人が来ているような雰囲気はないな。古い遺跡なのか? だが、その割には石は綺麗なままだな)
そう考えつつも、とりあえず周囲に外敵の姿が見えないことから、黄太郎は一呼吸ついた。
「さて、……鉄雅音さん。起きられますか?」
彼女の頬に手を当てて声をかけると、やがて鉄雅音はゆっくりと目を開けた。
「……あれ? 黄君。お姉ちゃんは……お姉さん達はどうしたんだっけ?」
「分かりません。俺の最後の記憶だとトラックが突っ込んできたはずですが……。気が付いたら こんなところに」
互いに怪我がなかったのは幸いだったが、しかし自分たちがどこにいるか全く見当がつかないため、何処かに行こうにも何処に行けばいいのか分からない。
「一応、聞くんですけど。鉄雅音さんも この辺に見憶えないんですよね?」
「うん」
「となると……一番 怪しいのは印尾先生の依頼でもらった奴か?」
そこで黄太郎は有九郎にもらった電子機器をバッグの中に入れていたことを思い出した。バッグを開け、その機器を取り出すと、――それはまるで車に踏まれたように粉々になっていた。
「うっわ……マジですか。何故か これだけ壊れてるみたいですね」
何のための機械だったのかも分からないまま、その機会は役目を終えていた。
いや――それは違うか。
「……印尾先生の口ぶりから察するに、この機械はこの事態を引き起こすための装置だったんでしょうか? そう、つまり……異世界に行くための」
「かもね。でも今は“なぜこうなったか”もだけど、“これからどうするか”を考えるべきじゃないかな?」
「それは、そうですね。……ああ、それこそ。スマホが使えれば一発解決なんですが」
そう言って黄太郎はジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、指紋認証で起動させる。事故の影響による故障などはなく、問題なくスマートフォンは起動した。
しかし、その結果は芳しいものではなかった。
「圏外か……。マップを開いても事務所にいるままでGPSは動いていない。これはダメだな。はー、つっかえねぇ。今どきのスマホは異世界でチートするためのマストアイテムじゃないのかよ。テッテレテッテテ~~~(イントロ)、この手~で掴――」
「止めろ!! 下手に歌うとジャ〇ラックが来るぞ!! ……ま、まぁ。まだ慌てるほどの状況じゃないよ。それに、ここが異世界だって確定したわけでもないし。それより、そのカバンには何が――」
と、言いかけたところで、2人の耳に何か嫌な音が聞こえてきた。
それは――虫の羽音だった。
「……何だ、あれは?」
空を見上げた黄太郎の眼に、体長3メートルほどはあろうかという、巨大な蟲が映った。
「ギチュイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
すると、その蟲は明らかに強い敵意をこちらに向けて、襲い掛かってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます