第2話



 その蟲は、平べったい楕円形の胴体に、腹側から左右に張り出した14対のひれと、大きな一対の尾びれがあり、頭部の両側には大きな目が一対 下向きについている。

 また頭部の下面中央には輪切りのパイナップルのように放射状に配列された歯が特徴的な口がある。更に口の前には2本の触手があり、その触手の先端には太く短い針が付いている。


「……アノマロカリスに似てますね。古生代カンブリア紀の海に生息していた生き物なんですが、しかしとっくに絶滅したはずの海生生物が何で空を飛んでるんでしょうかね」

「ギチュイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


 気色の悪い鳴き声を上げて突っ込んできた蟲の攻撃に対し、黄太郎は形態を観察しつつ、やや大きめのサイドステップで回避する。すると擦れ違いざまに、その蟲は触手の先端にある針を黄太郎に突き刺そうとしてきた。

 ただ距離を取っていたことで、黄太郎はその針も回避することができた。


「あの針――毒か。面倒だな」


 攻撃を避けられた蟲は、そのまま空を飛んで一度 黄太郎達から距離を取ると、もう一度 黄太郎のほうに飛んできた。助走をつけたうえで、今度こそ仕留めようと言うのだろう。

 と、そこで黄太郎はあることに気が付いてしまった。


「はッ!? まさか、これはッ!?」

「お、黄君!? どうしたの!?」

「今ふと気づいたんですが……インコとウ〇コってアクセントの位置が一緒です!!」

「ねえ!!!! それ今じゃないと気付かないことだったの!!??」


 などと話していると、蟲が真っ直ぐ突っ込んできた。


「ギチュイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


「ほら!! また突っ込んでくるよ!! お姉ちゃんを使って――」

「それには及びませんよ。見よ、わが火遁の術!!」


 というと、黄太郎はを蟲のほうにむけると、火力を最大に設定したうえでスイッチを押した。その直後、鋭い槍のような爆炎が蟲に襲い掛かった。


「ギチッ!? ギチュイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」


 優れた複眼を持っていた蟲も、突如として発生した爆炎にはどうしたらいいか分からず、そのまま回避することができずに炎に飲み込まれた。一瞬で灰になるほどの火力はなく、また火炎放射器のように可燃性の液体を相手に掛けるわけでもないため、蟲は即死することはなかったが、眼球が焦げてその他の感覚器官も熱でやられてしまったため、空を飛ぶことが出来なくなって地面に落ちると、バタバタと跳ねるようにして暴れる。


「ギチッ!? ギチチ……チチッ!? チッチ……。ギチ……」


 だが、やがてその蟲は動かなくなり、そのままピクリとも動かなくなった。どうやら主要な器官の一部にも損傷を負って死んだようだ。


「うおー、やっぱ火遁は強いですね。……でも焦げ臭いな」

「……何が火遁だよ。文明の利器に頼っただけじゃん。忍術要素ゼロでしょ」

「忍術の基本は相手が知らない技術ってことですからね。改造型超強力ライターも実質 火遁の術ですよ。世の中の新しい道具や発明には大体 忍者が絡んでるんです。ニュートンもアインシュタインもスティーブ・ジョブズも忍者だし、世の中には忍者が溢れているんです。そう、これを見ているあなたもまた、……忍者なのかもしれませんよ?」

「何でいきなりホラー風味になるんだよ!」


 黄太郎は鉄雅音に突っ込まれながらもライターをしまい、代わりに取り出したスマートフォンで蟲の死骸の写真を撮ると、スマートフォンを口元に寄せた。


「『テーラー』、いま撮った写真についてスマホ内のデータと照合してくれ」 

『かしこまりました』


 するとスマートフォンが返答し、自動的に今の写真について調べ始めた。

 テーラーとは、黄太郎達の組織内で使われているスマホ内のAIアシスタントである。情報の検索から先頭の補助まで幅広く仕事をこなしてくれる優秀なサポーターだ。


『検索結果を表示します』


 スマホ内の情報と照合した結果が画面に表示された。

 写真の結果から、やはり この蟲の外見ははアノマロカリスと似ていることが分かった。

 ただ生物としては全く異なる。本来のアノマロカリスより身体がかなり大きい他、鰭の数も一対多く、また触手にも毒針など付いていないハズだ。いや、そもそもアノマロカリスは既に絶滅した海生生物だ。現代の空を飛んでいるはずがない。


「じゃあ『テーラー』、この蟲が地球上に存在する可能性は?」


 その質問に対しテーラーは暫し沈黙し、情報処理中を示すアイコンが表示される。ただ、数秒後には結論が出た。


『形状、および外見から推測される重さから考えると、生物学的に この生物が飛行することは不可能です。また、私の中にこのような形状の妖怪・モンスターの情報は存在しません。よって、地球上に このような生物・モンスターが存在する・あるいは存在していた可能性は限りなく低いものと考えられます』


 テーラーの回答に、2人は顔を見合わせた。


「ここまで来ると、認めざるを得ないね」

「そうですね。――どうやらここは、異世界みたいです」





 

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