発展する街と修羅場 3
リーンにロリコン疑惑あらため、ロリコンで変態疑惑を掛けられた俺は、無事に誤解をといて無罪放免――といいたいところだけど、無理だった。
無実を主張したいけど、ティアをペット扱いしてるのは事実だからなにも言えねぇ。
という訳で、俺はティアとマリーを連れ出して、さっさとギルドを退散することにした。
ティアだけ連れて行くとロリコン疑惑に拍車が掛かるから――ではなく、冒険者ギルドの職員として、ダンジョンでの経験を積ませるためである。
いや、ごめん。実は前者もちょっと理由にある。
それはともかく、俺は二人を連れてダンジョンの入り口へとやって来た。
「まずはダンジョンに入ろう。この祭壇からダンジョンに転移することが出来るんだ」
ダンジョンの入り口である祭壇の前。俺は全員が祭壇の周りに集まるのを待って、転移の装置に右手をかざした。
それに呼応するかのように、虚空にウィンドウが表示される。
選択できるは、全員が立ち入った階層のみ。
現在選択できるのは一層だけなので、俺は迷わず一層を選択する。直後、軽い浮遊感を抱き、次の瞬間にはダンジョンのフロアへと転移していた。
「さて、ここがブルーレイクに新しく出来た、フィールド型のダンジョンだ。これからダンジョンに発生してる魔物と戦ってもらう予定だけど、なにか質問はあるか?」
問いかけながら二人の様子を観察する。
二度目のマリーはわりと冷静だけど、ティアの方は目を輝かせて周囲を見回している。森で狩りの経験はあっても、ダンジョンに入るのは初めてだからだろう。
「ねぇねぇご主人様、ここは祭壇があった場所の地下なの?」
「そうだという説もあるし、別のどこかだっていう説もあるな。俺個人としては、別のどこかだっていう方が信憑性はあると思う」
洞窟型のダンジョンならまだ分かるんだけど、フィールド型には青空が広がっている。空のように見える天井だって話だけど、少なくとも物凄く広大な空間であることは間違いない。
そんな空間が地下に何層も重なっていたら、地上が崩れると思うのだ。
「他に質問は?」
「じゃあ、私からも良いかしら?」
マリーが控えめに手を上げたので、俺はもちろんと頷き返す。
「ダンジョンに挑むのは四人が普通だって聞いたんだけど、なにか理由があるのかしら? これだけ大きな空間なら、もっと大人数でも問題ないでしょう?」
「あぁ、それは祭壇の問題だ。一度に転移できるのが四人までで、転移のたびに選択した階層にいくつかある祭壇のどこかに飛ばされるんだ。だから、四人以上のパーティーの場合は、中で合流する必要がある」
「不可能ではないってこと?」
「ああ。不可能じゃないし、ボスのような強敵と戦うときには有効だ。ただ、日々の生活費を稼ぐ冒険者としては、四人で戦うのが一番効率が良いってことだな」
そもそも二つのパーティーが合流するためには、道中の敵を倒す必要がある。一つのパーティーで敵を倒せるだけの戦力がある以上、合流しても過剰戦力になるだけ、という訳だ。
「あぁでも、初心者の冒険者達には、中で合流したら積極的に助け合うことを推奨した方が良いかもな。交流による情報交換も大事だし」
これが一流になってくると、効率よく敵を倒すために魔物の取り合いになったりで、他のパーティーと協力する機会は減ってくる。
「他に質問は? なければさっそく戦ってもらうけど……っと、マリー?」
「えっと……私は戦闘の経験がないんだけど、どうしたら良いのかしら?」
「む、そういえばそうだったな」
レベルだけは駆け出しを卒業するくらいまで上がってるけど、経験でいえばマリーは完全な素人だ。いきなりの実戦は厳しいかもしれない。
「というか、マリー。装備は……持ってないのか?」
よく見たらウェイトレスをしていたときと同じような恰好である。
「ええ。お兄さんに武器を選んでもらった方が良いって聞いたから、用意してないわ」
「なるほど。それじゃ、ちょっとステータスウィンドウを見せてくれるか?」
「ええっと……こうだったかしら?」
マリーが虚空を操作すると、ステータスウィンドウが浮かび上がった。
覗き込むと、一般人としてはかなり高いレベルが表示されている。だが、そのほか戦闘系のスキルは所持していない。ごくごく普通の一般市民といった感じである。
「このステータスで選ぶなら……うぅん、やっぱり剣士かな?」
「剣で……殴るの? 遠距離から攻撃するだけじゃダメ?」
「ダメではないけど、誤射が恐い。あと、受付として経験と知識を得るのが目的なら、実際に接近して戦ってみた方が良いと思う」
「……分かった。けど、剣なんて持ってないわよ?」
「大丈夫。えっと……たしかアイテムボックスに……っと、あった。この剣を使ってくれ」
ティアの短剣が魔剣なので、マリーに渡す剣も同ランクの魔剣にしておく。あとは鎧だけど、俺がアイテムボックスにしまってるのって、男性用ばっかりなんだよな。
サイズ的に無理だから……と、そういや、ティアが着てるのと同じような魔法の服があったな。あれなら女性用だし、サイズも問題ないだろう。
という訳で、アイテムボックスから魔法の服を取り出して手渡す。
「その服なら、一層の敵の攻撃くらいはほとんど無効化してくれるはずだ。レベルが高いから大丈夫だとは思うけど、万が一のことを考えてそれに着替えてくれ」
「分かったわ。それじゃ向こうの岩陰で着替えてくるわね」
「ああ。祭壇の側に魔物はいないと思うけど、念のために気を付けろよ」
という訳で待つことしばし。
着替えたマリーが戻ってきたのだが……
「お兄さん、これ、サイズが合わないんだけど……」
「の、ようだな」
胸元に編み込まれたヒモで絞るタイプのブラウスとホットパンツ。ホットパンツの方は問題なくはけているのだけど、胸元のヒモが絞るまでもなくパンパンである。
胸囲の格差が明暗を分けたらしい。
「わふぅ……」
ティアが悲しげに、自分の胸をポフポフと叩く。ティアの成長はまだこれからだから、そんな風に落ち込むことないと思うんだけどな。
「お兄さん、どうしたらいい?」
「無理そうじゃなければ、ひとまずはそれを使ってくれ。一応、防御力的には絶対それを使った方が良いからさ」
「分かった。それじゃ、このままお兄さんの視姦に耐えることにするわね」
「失礼な、そんなにジロジロとは見てないぞ?」
「でも、チラチラとは見てるわよね?」
「……ノーコメントだ」
俺は思わず明後日の方を向いた。
「さて、さっそく実戦だ。身軽なティアが敵を引きつけ、マリーが背後から攻撃してみろ。ただし、他の敵に後ろを取られないように気を付けろよ」
俺の指示に、ティアとマリーが同時に頷く。
そして、ティアが少し緊張した面持ちで、少し離れた場所に一体でいるブラウンガルムに接近した。ほどなく敵の索敵圏内に入り、ブラウンガルムがティアに襲いかかる。
「わわっ。っと……んっ。……ひゃうっ」
ティアがおっかなびっくりブラウンガルムの攻撃を避ける。もとから身体能力が高いこともあるのだろう。危なっかしいところもあるが、なかなか上手く避けている。
「よし、ティアが引きつけてるあいだに、背後から倒すんだ」
「わ、分かったわ」
ティア同様に緊張した面持ちのマリーがブラウンガルムの背後に位置取った。
そして――
「やあーっ!」
ちょっと間延びしたかけ声とともに、へっぴり腰で放たれる一撃は、ブンと風を切って地面を大きく抉り取った。
「あ、あれ、もう一回。――たあっ!」
ブラウンガルムの影さえ斬れてない。
魔剣と基礎レベルのおかげで威力だけはかなりあるけど、命中率はダメっぽい。
「マリーさん、ティアが引きつけてるから。わわっ。慌てないで、頑張って!」
ティアが一生懸命に避けながら、マリーにエールを送る。だけど、そんなに避けるたびに下がってたら……あ、奥にいたゴブリンの索敵範囲に入った。
「ティア~、後ろ、うーしーろーっ!」
「ふえ? ひゃうっ!?」
ティアは背後から襲いかかってきたゴブリンの一撃をかろうじて回避した。魔法の護りが掛かった服のお陰で安心して見てられるけど、そうじゃなかったらヒヤヒヤものだ。
なんて思ってたら、パニックになった二人がポコポコと魔物に攻撃を食らい始めた。
……ダメそうだな。
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