第7話 キャラバン
酒場でブラントンと別れたアレンとリズは、給士の仕事を終えたエリーに連れられて町の外れに向かっていた。
数件の宿屋を通り過ぎた所で、
「おいおい、大丈夫なのか?」
とアレンが疑問を口にした。
「いいから、ついてらっしゃい」
エリーは、後ろに手を組みながら振り返る、髪が流れ、うなじが覗く、艶やかな白い肌、細い肩から胸にかけてのラインが強調される。
あか抜けた人懐っこい笑顔は、服装こそ町娘のそれだが、給士の時とはまるで別人だった。
アレンを挟んで反対側を歩くリズは、慌てて彼の腕に絡むように抱きつき、エリーを不審者のように上目遣いで見る。
「あら、リズちゃん、可愛い」
エリーは、アレンの肩に両手を置き身体を預けてきた。
リズは口を尖らせ、アレンを見る。
「おい、いい加減にしろ」
彼は、エリーを片手で引き剥がした。
彼女は、抵抗することなく素直に離れ、いたずらっ子のようにテヘッと無邪気に笑う。
「ごめんなさい、あの先の角を曲がれば、目的地よ」
と前方を指差し、機嫌良さそうに歩きはじめた。
騎士団や大勢の傭兵を養う為には、それ相応の食料が必要になる。
兵糧が無ければ、軍は維持できない。
人口が少なく、元々、戦とは無縁だった町には日頃から備えは少ない。さらに、ここ最近の不作続きで、飢えた住民も多かった。
そこへ、賊の予告状、噂は、商人の間に、瞬く間に広がる。
さらに、騎士団が動く、それは、兵糧を買うのは、小さな町ではなく、教国が金を出すということ、まさに、商機到来だ。
今まで、誰も見向きもしなかった小さな町に、富が集まりだしていた。
アレン達が、エリーが指差した角を曲がると、そこは、開けた空き地になっていた。
大勢の人が忙しなく動く気配がし、人々の声に馬の鳴き声が時折混じる。
エリーは、長いスカートをひるがえしながら、アレン達の方へ、クルリと振り返った。
白い
「これが、私のキャラバンよ」
とエリーは誇らしげに紹介した。
馬車には、立派な紋章が付いていた。
「稲穂に太陽の紋章、王国の行商人……」
アレンは
「宿は空いてないわよ」
エリーが呼び止めた。
「そろそろ空きが出ると聞いている」
「その空きは予約で埋まっているわよ」
アレンは、ブラントンの顔を思い出す。
「ちっ、あいつ……」
「野宿なんかより、ずっと心地良いわよ」
勝利を確信した彼女がニッコリと笑う。
「それに、連れは、もう限界よ」
エリーの言う通り、リズは、コクリ、コクリとしながら鼻提灯を作りそうな勢いだった。
「あんたら、王国のお抱えなんだろ」
「お互い詮索はよしましょ、アレンさん。
隊長さんの知り合いを泊めるだけでも、私達には、利益になるのよ」
キャラバンの方から、腰に剣をぶら下げた年配の男性が寄ってきた。
王国は、教国の友好国だか、位置は教国の南西、この町とは反対側にある。つまり、一ヶ月以上かかる距離だ。
「お嬢様、そちらの方々は?」
男性は、アレン達を値踏みするように観察する。
「私のお客様よ、テントを一つ準備しなさい。もちろん、寝床もちゃんとしたものよ。父様には、私から伝えておくわ」
彼は頷くと、直ぐに小走りで離れ、人を呼び集め始めた。
「これから、私達は、食事だけど、あなた達もいかが?」
アレンは、その問いに、腕を振って答える。
エリーは笑い、
「やっぱり、そうよね」
と腕を組む。
「なんで、給士なんて……」
「酒場には、情報が集まるものなのよ。それに、お小遣い稼ぎにも良いのよ」
エリーは、アレンの言葉にかぶせるように答え、銀貨を一枚、取り出し片目を閉じて、ウインクをした。
先程の男性がやってきた。
「お嬢様、テントの準備が整いました」
と汗を拭う。
その後、二、三、言葉を交わし、アレン達は、テントへと移動する。
テントの中には、寝台が一つ、置いてあった。
「じゃ、お休みなさい」
意味深な眼差しをアレンに向けると、手を振りながらエリーは去っていく。
アレンは小さく溜息をつき、腕に絡まったままのリズを寝台に寝かせ、布団を掛けてやる。
小さな寝息が小刻みに響く。
「まるで、人だな」
彼は、リズの額を撫で、愛おしそうに見つめると、隅の方に移動し、そこへ腰を下ろし、あぐらをかく。
次に、地に剣を立て、体重を預け、目を閉じた。
「リズの奴、魔力を勝手に使いやがって」
アレンは、朝の一件を思い出す。
突然、現れたリズは、転移の魔法を使っていた。
それは、高位の魔法で、かなりの魔力を消費する。
アレンの剣であるリズは、自らは魔力を持っていない。
そして、彼の魔力は、人並みだった。
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