「太陽と月」「彼と私」

@lovemomo

第1話 コートのイケメン

春高バレー、1日目、Cコートに彼はいた。藤木 颯斗ふじき はやと

爽やかなイケメンな風貌もあって、彼のプレーが光るたびに、黄色い歓声があがる。

彼の空中姿勢は、羽がはえているかのように、とても綺麗だ。

「マネージャー?」

河合 葵は《かわい あおい》、そう呼ばれて、横を見た。

すぐ、間近に黒木 駿くろき しゅんの彫りの深いハーフばりの顔があって、とっさに、身を引く。

彼は、葵がマネージャーを務める桜丘高校さくらおかこうこうのエース。葵の同級生で2年生。

「なに?」

「ああいうのがタイプなの?」

ちょっと、むっとした顔で彼は言った。

「まさか。嫌いよ。」

咄嗟に、そう言った。そう、嫌い。と自分に言い聞かせるように。

「ふーん、そんな風には見えなかったけど?」

と、その時、後ろにいたキャプテンが、『帰るぞ』と言ったので、みんなゾロゾロと立ち上がった。

大きな選手たちが、一斉に立ち上がったので、ものすごい威圧感がある。

葵は内心、ホッとした。

駿には一度告白されて断った。それでも、彼はなかなか諦めてくれない。

葵は今誰かと付き合うつもりはないし、イケメン過ぎる男というのも、怖い。

キャプテンに引っ張られて行く駿を見ながら、彼女は事情を知っているもう1人のマネージャーの山田 真琴やまだ まことと目を合わせて、苦笑いした。

*** *** ***

葵は 颯斗とは、幼稚園の頃よく遊んでいた。

何がきっかけで、仲良くなったかは、忘れてしまったが、颯斗が葵に懐いているという感じで、いつも、颯斗はニコニコしながら、葵が、遊びにいくと、駆け寄ってきていた。

……いつからだろう。

遊ばなくなったのは。

小学校に上がって、まだしばらくは遊んでいた。

そうだ、彼がスポーツ少年団のバレーに入ってからだ。

親同士はやりとりが、まだあったが、葵と彼は、クラスも違って、どんどん疎遠になって行った。

彼は幼稚園の頃からバレーボールに興味があるようだった。

全日本の試合の翌日は、よくその話を目をキラキラさせて聞かされたものだ。

あまり興味のなかった葵は、退屈でしかたなかったのを覚えている。

でも、彼との関係が完全に変わってしまったと感じたのは、小学校3年生の時だった。

その頃の葵は引っ込み思案で、いじめっ子の男の子に目をつけられて、クラスでいじめを受けていた。

辛かったといえば、辛かったが、その頃の葵は、心が傷つかないように、無になって、ロボットのようになって、それ以上心が傷つかないように守っていた。

唯一の救いは、彼が、違うクラスあることと。

心の何処かで、彼だけは、イジメっ子のリーダーに従うクラスの奴らみたいには、ならないと思っていたからだ。

……が、しかし、現実はそうしではなかった。

……廊下で、すれ違った時。

あからさまに、彼女を蔑み罵る彼。

……その日、初めて死にたいと彼女は思った。

心はもう割れたガラスのように砕けて、その破片が、また彼女を傷つけているようだった。

苦しくて、辛くて、初めて泣いた。

家に帰って、カッターで手首を切ろうと思った。

でも、できなかった。


やっぱり、死ぬのは怖い。

死んでも、あいつらは何もかわらないし。

何事もなかったような日常が続くだけだと思うと、ここで、死ぬ事は違うとも思った。


ちょうどいいタイミングと言うべきなのか、そんな時、父親の転勤の話があった。

違う県に葵は引っ越しした。

引っ越し先の学校では、すぐ友達が、できた。

最初に仲良くなったのは、高校で同じマネージャーをしている真琴。

彼女の天真爛漫さにはよく振り回されたが、だからこそ、葵は、辛い過去を思い出す暇もなく、毎日楽しく過ごせてこられたのかも知れない。

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