第三輪 ブーゲンビリア  ~ドラマチックな恋~

 噂というのは早いもので、その日の放課後には、全校生徒の半数以上が、俺が告白したことを知っていた、噂によると、俺が告白した?相手は、俺とはクラスが三つ離れた5組のようだ。名前も知らない相手に振られるとか、どんだけ残念なんだよ。気を落としながら下駄箱に向かい、靴箱に手を伸ばす。溜息混じりに、ふと口から言葉が漏れる。

「ついてないなー、でもあの娘、可愛かったなあー」

我に返り、周りを見渡す。誰もいない事を願っていたが、運の悪いことに、そこには彼女が立っていた。彼女は、顔を赤くして困っている表情をしていた。困った顔も可愛い・・・って違う。朝の誤解を解かなくては!

「朝のは、ごかいで・・・」

「やっぱり、ごめんなさい!あなたには、私よりもっとふさわしい人がいるはずです!」

そう言い残し、彼女は去っていった。周りから、くすくすと笑い声が聞こえる。ここまできたら、笑う気にもならない。笑うがいい愚民ども、我が一日に二度も振られた猛者であるぞ。「悲しくなんか、無いんだからなーーー」

その場から、とにかく逃げたい一身で、叫びながら走り去った。気付くと橋の袂で膝を抱えて泣いていた。一日に二度も泣くなんて、いつぶりだろうか。ひとしきり泣きつくすと、あたりは真っ暗になっていた。

「帰るか・・・」

何故こんな事になったのか。あの夢のせいだろうか。あんな酷い仕打ちをするなんて、どうやらこの世界の神様は、頭のネジが飛んでいるらしい。家への帰り道をそんなこと考えながら歩いていると・・・。

「げっ!!」

また彼女が前を歩いていた。今度は、見つからないように道を変えよう。そう思った時、異変に気がついた。ガラの悪そうな男二人にしつこく絡まれているようだった。

「はあ・・・」

やはり、この世界の神様は、頭のネジが飛んでいるらしい。俺に助けろと?そうこうしている内に、彼女は路地に連れ込まれそうになっていた。仕方ない、あれを使うか。小走りに彼女の元へ向かった。

「少しくらいお茶してくれても、いいじゃねか!!」

「じ・・時間がありませんので、ご・・ごめんなさい。」

強がっている様には見えるが、かなり怯えているようだ。そんな彼女を見て、何故だか怒りがこみ上げてきた。ここで、彼氏なら俺の女に手を出してるんじゃねえと。敵をボコボコにするのだが・・・。

「彼女、嫌がってるじゃないですか。」

「!!何だ。てめえ、邪魔すんのか」

一人の男が、俺の方に、威嚇しながら近づいてきた。

「痛い目に合いたくなかったら、すっこんでろ!」

男が拳を振り上げた瞬間、俺は、男達にここ言い放った。

「おっと、止めて置いたほうがいいぞ。これ以上やるというなら、俺の力が暴走して、この一体、塵すら残らないぞ・・・」

言ってやったぞ。

「・・・ははははははは」

男達、盛大に笑っている。

「そんな力あるなら、見せてみろよ」

再び、俺に向かって歩みを進める。当然、そんな力などありはしない。ただのはったりだ。しかし、もう後には引けない。ここで追い討ちをかける。

「ならば、見せてやろう愚民ども・・・」

俺は、目に片手をあてた。よくあるアニメの様に、ごくごく自然に・・・。

「目が・・・目がーーーーーー」

「!!!」

できるだけ大きい声で、周りの人達に聞こえる様に。精一杯頑張った。

「おい、こいつやばいぞ」

男達は、俺の頭がやばいということに気がつき、その場からいなくなった。というのは、建前で、本当は、大きな声を出したので、人が集まってくるのを警戒したのだろう。

「大丈夫ですか・・・」

彼女の方に近寄り優しく声をかける。

「ありがとうございます・・・あなたは・・・」

かなり運命的な出会いではないだろうか。悪党からヒロインを救って恋が始まる。誰もが憧れる展開だろう。しかし、彼女は緊張の糸が切れてしまったのか、意識を失ってしまった。

「・・・・・・」

ここで、手を出したら、バッドエンド直行だろうな。家も分からないので、仕方なく彼女が起きるまで、少し離れた位置で腰を下ろして待った。こんな所誰かに見られたら、きっと誤解されるだろうな。まあ、そんな偶然が重なる訳が・・・

「お姉ちゃんに何をしてるんですか!」

ああ。神様。そんなに俺の意図を組んでくれなくてもいいんですよ。いつも通り弁解しようとするも、言葉を発する前に、やってきた少女のとびひざげりが俺の顔面を捉えていた。

「あっ・・・しましまだ・・・」

そんな事を考えながら、俺の意識は遠のいていった。気付いた時には、彼女らの姿は、もうなかった。時計を見ると、夜の八時を回っていた。何なんだ今日は。厄日なのか。ふらつく足を引きずり、家へと向かった。

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