第51話 北の城、再奪還
女王蜂たちとの睦言も一回り。満足した彼女たちはそれぞれの夫の世話を献身的にこなしていた。夫たちもそんな彼女たちに改めて惚れ直し、広間ではどの夫婦もイチャラブモード。イザベラと別行動であるシュウさんやカシムさんは娘のヴァレリアがあれこれ世話を焼いていた。
そして俺の世話には眷属のジュウちゃん、そして居候の女王蜂であるジュンが。
『ほら、ちゃんと食べなきゃダメよ』
「うふふ、はい、あーん」
ジュウちゃんは食事であろうあどこであろうがついてきてあれこれ世話を。ジュンのほうも大きなおっぱいをくっつけながらあーんと食事を食べさせてくれた。
『ジュン、あんたも婿を迎えるんでしょ? あんまり甘やかしちゃダメよ?』
「はい、北の一族からそんな話が。ファーストの娘たちもいますので大丈夫です」
ジュンは俺との間に二人のファーストを産み、その子たちもジュンに似ておしとやか。俺にもなついてくれてすごく可愛い。母である女王ミサは彼女の為に婿を迎える手配をしていた。それは無論交換条件。俺との間に生まれた男の子、その子と交換と言う訳だ。もっともミサの子が婿に行くのはまだまだ先。蜂の男はしっかり学び、知識を後世に伝えていくという使命がある。それでもトゥルーブラッドであった俺との間に生まれた男、と言う事で各方面から引く手あまたであったという。
「婿が来て、娘たちが大きくなればジュンも巣分けして女王蜂か。立派なもんだね」
「ソルジャーとして育った私が、と思うと少し不安ですけれど」
『大丈夫よ、アンタの所の眷属もしっかりした連中だし。エルフの討滅が済めば不安はないわ』
「そう言っていただけると嬉しく思います。うふふ、ゼフィロス様? ちゃんと私のコロニーにも顔を見せてくださいね?」
「ああ、もちろんさ」
ジュンはひとしきり話をすると子供たちの世話をするからと席を外した。食事を終えた俺はジュウちゃんと一緒に外に出てみる。いつもとは違う空、そう言うのも悪くない。
木の上に座り、ジュウちゃんが獲ってきてくれたサクランボを小さく切って口に入れた。
『どうしたのよ、浮かない顔して』
「うーん、嬉しいことなんだけど、複雑」
『何が?』
「ほら、俺たちはさ、基本的に一夫一妻で力のある男がたくさんの女を、って事はあるにしてもその逆は少ないからね。ジュンがああもあっさり婿をっていうのが。インセクトの生態がそうであることは判ってるんだけど」
『あはは、なあに? 妬いてんの?』
「うーん、妬いてるって訳じゃないけどさ。それならヴァレリアたちはどうなのかなって」
『ばかね、ジュンはあくまであんたの匂い、そう言うのに惹かれただけよ? 心にあるのは忠誠心と憧れ。体を重ね、子を産ませるのは構わない。だけどそれ以上の関係はあたしたちが許さない。最初からそう言ってるでしょ? ジュンは物分かりのいい女だからそこを踏み越えてこなかった。あいつは婿に迎えた夫とそう言う愛を築けばいいのよ』
「ま、そうだよね」
『ヴァレリアやジュリア、それにメルフィはアンタの妻、あいつらはそうじゃない。その違い、ちゃんとしておかないと大きなもめ事になるわよ?』
「わかってるって」
『そしてあたしも。ちゃんと愛してくれなきゃ許さないんだから!』
「あはは、ジュウちゃんの事は大好きだし、愛してるよ」
『うふふ、それでいいのよ。あたしたちはあいつらとは違うの。ちゃんと心で繋がってる。アンタの匂いはきっかけ、今はそんな事はどうでもいいの。側に居て楽しく暮らしたい。それがあたしの望み』
そう言ってジュウちゃんは俺を抱っこして空に飛び立つ。俺はジュウちゃんの硬い体にしっかりと抱き着いた。
『んもう、どうしたのよ?』
そう甘い匂いを発するジュウちゃんの体にしがみつき、その顔に頬を寄せた。
数日をそんな感じで過ごしているとイザベラの娘の一人が使いに現れる。向こうではイザベラ、そして勇者グランと評議会の話が折り合い、北の城への討伐が決定したという。但し、獅子族に関しては討滅ではなく降伏させた後の処分は評議会での決定
を待つという条件。あちらのエルフは無論容赦する必要はない。
「まあ、評議会の顔も立てねばな」
ヴァレリアはそう言って俺と手を繋いで飛んでいく。ここから北の城までは50キロほど、飛んでしまえばすぐに着くのだ。
俺たちの後ろに続くのはアエラ、ミサ、そしてスセリとその娘たち。それぞれの夫は眷属に厳重に守られていた。ジュンは今回は留守を守る事に。婿を迎える事が決まったジュンに万が一の事があっては困るという判断だ。
「編隊を整えろ! ジュウ、眷属たちを率い第一波をかけろ!」
『わかったわ、みんな、行くわよ!』
『『了解です! ジュウ殿!』』
ジュウちゃんを先頭にアエラの眷属、そしてキイロスズメバチの眷属たちが抱えた石を持って空爆を敢行、総指揮はソルジャーとして誰よりも戦闘指揮に長けたヴァレリアだ。
城の中からはエルフたちの放つ弓がいくつも飛んだが高高度からの爆撃を行うジュウちゃんたちには届かない。
その時バババっと閃光が。何匹かの眷属たちが撃ち落された。
「ヴァレリア!」
「ああ、ジュウたちはいったん退避。…ゼフィロス、あれがそうなのだな?」
「うん、ここからじゃわからないけど。…変身」
俺も鎧姿となってヴァレリアと離れ、強行偵察。周囲500mしかわからないというのは案外不便なものだ。退却するジュウちゃんたちとすれ違い城の上空に。そこには片腕を切り落とされた軍事用アンドロイド、MF201Aの姿が。まちがいない、あいつだ。あの、アシュリーとか言ういけ好かない女。
そのアシュリーは俺の姿に気が付くとこちらに向けて発砲する。武装はアサルトライフル、それに内臓バルカン。斬り落とした右腕は応急処置が施されらだけ。つまり修復技術はなと言う事だ。そして肩に乗せていたミサイルも補充されてはいなかった。
ゆっくりと回避行動をとりつつ高度を下げていく。何発かの銃弾が鎧をかすめたが問題ない。他にも数体のアンドロイドが起動していたがそれは全て民間用、大きな脅威とはなり得ない。ベンたち獅子族とその眷属はここに来てエルフを裏切り城内は内紛を起こしていた。
『魔王ゼフィロス! 私は貴様を許さん! 一騎打ちを申し込む!』
城内の広場でアシュリーと対峙する。その間にヴァレリアとアエラを先頭に蜂の軍勢がなだれ込んだ。
『ゼフィロス、そいつは任せる。アエラ、我らは他の機甲兵を!』
『わかったよ☆ ゼフィロス、やっちゃえー☆』
触角を通じ、ヴァレリアとアエラの声が。城内は既に阿鼻叫喚。獅子族にも裏切られたエルフは次々と殺され、女王蜂となったヴァレリアのその槍に機甲兵は及ばない。手足の関節にしっかりと槍を突き刺され、身動きが取れなくなっていた。
『くそぉ! 私は負けぬ! アイリス様の名に懸けて! うぉぉ!』
そう言って地を滑りながら銃弾をばらまくアシュリー。それを追い、手に外殻を変化させた剣を作り出し、そのアサルトライフルを持った左腕を切り落とした。
『まだだ! まだ、私は負けるわけには!』
内蔵型のバルカン、アサルトライフルに比べ大きく威力の劣るその銃弾はバチバチっと音を立てて俺の外殻に弾かれた。そしてカシュッカシュッと弾切れの音。
そこにズドンっとヴァレリアとアエラの槍がアシュリーのアンドロイドの膝に突き立った。
「へぇ、コイツが親玉なんだぁ」
「わが夫に屈辱を与えた、その罪は償ってもらう」
『虫けら共! 無礼な! 私はアイリス教団の司祭なのだぞ!』
見れば他の機甲兵たちも腕と足を槍で潰され動こうにも動けない状況となっていた。そして生身のエルフはほぼ皆殺し。
「ゼフィロス様! 助けてください!」
そう言って走り寄るのは奴隷のレナ。まとわりつこうとしたので裏拳でぶん殴った。
『…くっ、やむを得ぬ。降伏する。だが私は貴族だ。相応の扱いを要求する』
そう言ってアシュリーがハッチを開き、姿を現した。それと合わせるように他の機甲兵のパイロットたちも手を挙げてハッチを開いた。
「…ふむ、丸裸にして牢に閉じ込めろ。飯などは残飯で構わん。ベン、貴様らに対する処分は評議会の元で、そう言う形だ」
エルフたちは身ぐるみ剥がれた丸裸にされ、この城の牢獄に連れていかれた。そしてベンたち獅子族はおとなしくヴァレリアの言葉に従い、俺たちに膝をついた。
「殺してしまうのはいつでもできるがお父様の意見も聞かねばな。それに赤アリたちの事も有る。奴らが赤アリを奴隷にしている場所を吐かせる必要もある」
「そうだね☆ けどみんな殺しちゃうんだよね? だよね、ゼフィロス?」
「そうだね、だけどあいつらが生きてる間は機甲兵も形をとどめてる。動かない機甲兵相手に槍の鍛錬、なんてのもいいんじゃない?」
「あったまいい! さっそくウチの娘ちゃんたちにも鍛錬させなきゃ!」
「あ、私の所も、スセリ?」
「はい!」
蜂のソルジャーたちは各々槍を作り出し、機甲兵を叩いてみたり射してみたり。だが、機甲兵に通じるのはアエラの槍だけ。その娘のソルジャーたちは以前のヴァレリアと同じように効果的なダメージを与えられない。キイロスズメバチの女王、ミサやスセリにしてもそれは同様だった。オオスズメバチの女王、その出力は蜂族の中でも抜きんでているという事だ。
獅子族、そしてその眷属たちは評議会の決定が下るまではいくつかの建物に押し込めとなり、安全を確認したところで雄蜂たちが眷属に守られながら入場する。連絡に出たソルジャーによればイザベラ達はアリたちと速度を合わせて進んでいるので到着は明日の昼過ぎになりそうだという事だ。
そして俺たちは男子風呂。風呂から上がると忙しく働く女性たちを横目にエルフ見学ツアーとなった。
「へえ、これがエルフか。実物を見るのははじめてだ」
「そうだね、僕たちは文献でしか彼らを知らない。けれどこの臭いはたまらないね」
「ぶ、無礼な! 貴様たち! これが貴族に対する振る舞いか! 相手の地位を尊重できぬ虫けら共め!」
「ついているものは同じでも、これじゃ欲を覚えませんな」
ミサの夫のリーダーであるダミアンがそう言うと、みんなうんうんと頷いた。
「ねえ君、そこに座って足を開いてみてよ。エルフの生殖器、どうなっているのか気になるし」
「なんという破廉恥な! 貴様らは絶対に許さん!」
「いいから足を開けって言ってんだよ、このヤリマン」
剣を作り出し、それを向けながらそう言うとアシュリーは口惜しさに涙しながら足を開いた。
「ま、本格的な尋問はグランに任せるとして、なんか、臭いが沁みついちゃった気がするよ。もう一回お風呂に行こうか?」
「ああ、そうだな、あの臭いはたまらねえ」
そんな話になってもう一度風呂に。湯を浴びながらカシムさんは考察を口にした。
「僕たちとは完全に違うフェロモン、そう言う事なんだろうね。噛み合わないどころか完全に忌避するように。始祖アイリスは何らかの考えがあってそうしたのかも」
「けどあいつらの男は俺たちの女を抱けるんだろ?」
「だからこそさ、偶然ではなく意図的にそうされている。インセクトの男はエルフの女に発情しない。だけど逆はそうじゃない。僕たちの感覚ではわからないけど、ゼフィロス、君はどう思う?」
「うーん、アイリスは同胞に乱暴された、それが心を歪めたとカルロスは言ってた。そしてその乱暴した男の子孫は子を残し、ずっと奴隷としていたぶられ続けてるんだ」
「自分の子孫、それが他者、僕たちに汚されることがないように、そしてトゥルーブラッドである君には適合する、そう言うフェロモンを作り出した?」
「ああ、ありそうなこったな。フェロモンがあるにしろ、ありゃ強すぎる。男の方はそうでもねえのに。そしてゼフィロス、お前がヒトであった時もそんなに強いフェロモンを発しちゃいなかった」
「そうだね、推測するならば始祖アイリスは君を強く引き付けるフェロモンを作り出し、それを自分の娘たちに施した。そして同時にインセクトにとっては決定的に受け入れられない匂い、そう言うものを。君がヒトのままであったなら彼女たちに強い欲望を覚えていたのかもしれないね。だけどエルフの女に会う前に、君はインセクトに変化を始めていた。それがアイリスの誤算だった」
「でしょうな、ですが我らにとってはそれは僥倖、ゼフィロス様は我らの王と。そして一族にも優れた男子を恵んでくだされた。エルフにとっては痛恨事、その分我らにとっては、と言う訳です」
ミサの夫ダミアンがそう言う、他のみなも大きく頷いた。
「そうだね、そして俺はそれでよかった、そう思ってる。もしかしたらエルフの中にも気の合う人がいたかもしれない、アイリスの願い、そう言うものを真に受けて俺に尽くしてくれる女もいたのかも、だけどね、そう言う可能性、それを全て捨てても俺は今がいい、そう思ってる。みんなと出会えたことも、ヴァレリアたちを妻に迎えた事も、そしてこの体がインセクトに変化した事も」
「そういうこった、ゼフィロスは俺らの王、それ以外の何物でもねえ。あんな臭い連中に心を動かせるはずもねえ。今まで俺らはエルフを知らなかった。けどあれを見ちゃ流石に、」
「そうだね、実物を知れば疑いをさしはさむ余地はないよ。ゼフィロス、君は俵議長閣下とは違う道を選び、そしてそれは僕らにとって何よりも好ましい結果だった。
…君が僕たちを選んでくれて嬉しく思う。ありがとう」
みんなに真剣な顔で頭を下げられ、俺はどうしていいかわからずに頭を掻いた。
「そう言う時はね、笑えばいいと思うよ? あはは」
「そうだ、カッコつけてんじゃねえぞ! この野郎。あはは!」
びしゃびしゃとお湯をかけられみんなに背中をバシバシ叩かれる。湯に紛れてうっすらとうれし涙がこぼれた。
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